↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者ギルドは公平で健全でうさんくさい  作者: 遠野 文弓
冒険者ギルドの招集

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
67/92

66.南へ向かう用事

 コニーがイチロクの作業場を訪ねると、戸口は開いていた。

 中から革を叩く音が聞こえる。「こんにちは」と声をかけてから扉を押すと、作業台の前に座ったイチロクが、オウルの革の胸当てへ新しい紐を通しているところだった。


 オウルはそのすぐ横で、床に寝転がって目を瞑っていた。靴を脱いでずいぶんくつろいでいたが、手の届くところに背嚢と外套を置いてある。


 コニーが入ってくると、イチロクは胸当てから目を上げずに言った。


「ここは宿ではないぞ。まったく……」


 今日、オウルとコニーは南門からニックブレード・タウンを出る予定だ。


 南西にある炭焼き場で、夜ごと薪置き場を荒らすものがいるらしい。足跡は残っているが、炭焼きたちには魔物の種類がわからなかった。



 事の始まりは、一昨日だった。

 イチロクが作業台で鉈の刃を研いでいると、取引のある炭屋が工房を訪ねてきた。

 炭屋は戸口を入ったところで、床を見た。オウルはそのときも、作業台の横の床に寝転がっていたからだ。片腕を枕にしてくつろいでいる若い男を見て、何か尋ねたそうな顔をした。

 だが、イチロクが説明するそぶりもないので、ひとまず気にしないことにしたらしい。炭を納品して二、三の雑談を交わした後、ふと愚痴るようにこう言った。


「最近、薪置き場を何かが荒らすんだよ。魔物だとは思うんだがね。樹皮を剥がした跡もあるが、食べているようすもない」


「家畜は無事なのか」


「ああ。ただ、夜番が小屋の壁を引っ掻く音を聞いててな。気味が悪いよ」


「足跡は見たのか」


「それらしきものはあるんだが、よくわかんねえな。踏み荒らされてんだ」


 炭屋は、魔物に詳しい者を一人か二人連れてきて、正体を確かめてほしいのだという。追い払えるものなら、その場で駆除してもらえるとありがたい。一介の貧しい炭屋だから、冒険者ギルドに依頼というのも大仰だ。

 イチロクは砥石の上から顔を上げ、床に転がっているオウルを見た。


「ん?」オウルは頬杖をつきながら、イチロクを見上げた。

「おれに行けってか?」


「暇なら三日ほど町から消えておれ」


 炭屋は二人を見比べた。


「この兄ちゃん、魔物がわかるのか?」


「まあ、多少はな。でもあんまり期待はすんなよ」


 炭屋はまだ少し不安そうだったが、イチロクの紹介ならと依頼を任せることにした。


 現地で足跡と薪置き場を調べる。必要なら夜まで見張り、一泊して翌日も周辺を調査する。三日目には、木炭を積んだ荷車とともに町へ戻る。


「連れは一人までなら構わんよ」炭屋が言った。

「炭焼き場の寝小屋を使ってくれ。だが、余っている寝台が二つしかない。床でも寝られるなら、もっと連れてきてもいいが」


「こいつなら床で寝るぞ」とイチロク。


「それはおれが言うことだろ」


 オウルは初め、一人で行くつもりだった。薪置き場を荒らしたものに当たりをつけて、夜まで見張って待って帰るだけである。自分一人で足りる。


 コニーがその話を聞いたのは、同じ日の夕方だった。


 研ぎに出していた剣を受け取るためにイチロクの工房を訪ねると、オウルが背嚢へ縄や火口箱を放り込んでいた。


「どこかへ行くんですか?」


「南の炭焼き場。薪を荒らす奴がいるんだと」


「依頼ですか?」


「三日で戻る」


 作業台の向こうで、イチロクが研ぎ終えた剣を布で拭っていた。


「同行者を一人連れていってよいそうだが、この阿呆は一人で行くつもりらしい」


「余計なこと言うなよ」


 コニーはオウルを見た。


「わたしも連れていってください!」


「なんでだよ」


「一人までいいんでしょ?」


「いいけどさ。夜中に薪置き場を眺めて、何も出なかったら寝て帰る仕事だぞ」


 コニーは引かなかった。


 道中に危険な場所は少ない。魔物が出るとしても、街道近くへ下りてきたゴブリンか狼程度だ。現地でも、正体のわからない何かを追って森の奥へ入る予定はない。

 オウルはしばらく嫌そうな顔をしていたが、最後には了承した。


「勝手に前へ出るなよ」


「はい」


「おれが何か追っていっても、ついてくるなよ」


「それは、そのとき考えます」


「そこは適当に肯いとけよ。後々損するぞ」



 そうして、出発の日になった。


「荷物の準備はできましたか?」コニーが尋ねる。


 オウルは床の背嚢を指した。「だいたいな」

 だが背嚢からは、押し込まれた毛布の端が大きく飛び出している。


「はみ出てますけど」


「別にいいだろ」


「嬢ちゃん、こいつの荷物を詰め直してやれ」イチロクが不機嫌そうに言った。「この阿呆がやるよりマシだろう」


「だって、パズルは苦手なんだよ」


 コニーはさっそく毛布を引き抜き、畳み直した。


「これを詰めたら、さっそく出発ですね!」


「そうだな」



 ***


 パーニアは窓口の内側で、返却された依頼票を日付順に綴じていた。

 そのとき、支援会の入口が開いた。顔を上げると、市政庁の印が入った革筒を持つ男が入ってくるところだった。


「冒険者ギルドの責任者はいらっしゃいますか?」


「支部長は不在です。ご用件でしたら、わたしが承ります」


 パーニアが答えると、男は革筒から折り畳まれた書類を取り出した。


「市政庁から、冒険者ギルド登録者についての照会です。北側で魔物の目撃が増えているため、市内で協力可能な人員を確認しています」


 パーニアは書類を受け取り、内容へ目を通した。


「承知しました。必要なのは、人数ですか?」


「登録者の総数と、等級別の人数をお願いします。それから、現在町にいると確認できる人数も」


「現在地までは把握していませんよ」


「三日でできる範囲で問題ありません」


 そう言い残して、市政庁の男は短く頭を下げて出ていった。

 パーニアが書類をカウンターへ置くと、壁際の掲示板からトッドが振り返った。


「魔物が増えてるのか?」


「北側で目撃が増えているそうです。いまのところ、警戒のための人数確認ですね」


 パーニアは書類をもう一度読んだ。


「トッドさんは、三日以内に町を離れる予定はありますか?」


「ない。受ける仕事もまだ決めてないな」


「わかりました」


 しかし、誰もがトッドのように律儀なわけではない。ニックブレード・タウンの奔放な登録者どもを捕まえるだけでも骨が折れるし、今後の予定を聞き出すのはもっと大変だ。


 パーニアは、これから始まる聞き取りを思ってため息を吐き、ペンを走らせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。