63.増援
パーニアはカウンターで、受領証を揃えていた。
旧監視塔跡から持ち帰った資材の数は合っている。負傷者は軽傷のみ。
途中でオウルに襲われた隊についても、任務の中断は隊員の責任ではないとして、約束どおりの報酬を支払った。
……探索者支援会なら、ここで何かしら理由をつけて減額していただろうに。
冒険者ギルドは、少なくとも、決めた報酬を決めたとおりに支払うつもりらしい。
このニックブレード・タウンで、そんな当たり前を守ろうとしているのが、よりにもよって冒険者ギルドとは。
彼らは本気で、このきれいごとを現実にしようとしているのか。
トッド・モスバンクが最後に受領証へ署名し、報酬の入った袋を受け取る。
パーニアは報告書の末尾へ〈完了〉の印を押した。
「お疲れさまでした」
そのとき、入口の扉が勢いよく開いた。
礼拝所へオウルとエスを送ったはずの荷馬車の御者が、息を切らして立っていた。
「人を……人を出してください。礼拝所へ!」
パーニアは素早く立ち上がった。
「報告を」
「男を三人、捕まえています。それから、地下に道があって……箱が、今夜また来るそうです」
「順に話してください。オウルとエスさんは?」
「来た連中を捕まえるって。取引があるみたいで、現場を押さえるって」
「何人来るんです?」
「わかりません。ただ、箱が四つと。管理人さんが、すぐ支援会へ知らせるようにと」
パーニアは広間にいた職員を呼び止めた。
「警備詰所へ連絡して。移送できる人数と荷馬車と、捕縛用の縄を用意して向かわせてください。それから、アルヴェインさんにも伝言をお願いします。礼拝所の地下で不審な木箱が見つかった。調査員二名は現地に残っている、と」
職員が走り出す。
パーニアは御者へ向き直った。
「わたしが礼拝所へ行きます」
「さすがに一人じゃ足りねえだろ。あんたの腕は知ってるがな。もう日が暮れるだろ」
御者が口を開く前に、横からトッドが口を挟んだ。パーニアは報酬袋を手にしたままのトッドを振り返る。
「ですが、警備が到着するまで待ってもいられません」
「待てとは言ってねえよ。俺も行く」
「依頼は終わってますよ?」
「だから、護衛として雇え」トッドは受け取った報酬袋を腰へしまった。
「報酬はあとで決めろ」
***
荷馬車が西門を抜けても、トッドは何も話さなかった。
御者の隣で前方を見たまま、ときおり街道の脇へ目を向けるだけだ。
パーニアも話しかけなかった。
ずいぶん静かだな、と思った。
これがもしオウル・ダウングリーンなら、静かになるのは寝ているときか、何かを企んでいるときだけだ(子供と大差がない!)。起きていたら御者か自分を賭け事へ誘い、礼拝所までに何匹のリスを見るか、などと、くだらない勝負を持ちかけているだろう。 退屈しのぎとして悪くはないのだが、同行するだけで疲れる男ではある。
日はすでに西の丘へ沈みかけていた。
荷馬車は速度を落とし、御者台のランタンを頼りに街道を進んでいる。轍の外は暗く、草むらと低い木々の境も見分けにくい。
やがて、礼拝所へ続く細い道と、南北の農道が交わる十字路へ差しかかった。
右手の農道から、ランタンの光が一つ近づいてきた。
二人の男が歩いている。一人が灯りを持ち、もう一人は灰色の外套を羽織っていた。
双方が十字路へ入る直前に、男たちも荷馬車へ気づいた。
ランタンを持った男が足を止める。
「おい。この先から荷車が戻ってこなかったか?」
御者の肩が強張った。
トッドが、荷台から男たちを見る。
「どんな荷車だ」
「小さいやつだ。四箱を運んだ――」
パーニアは音もなく荷台から降りた。
男はそこでパーニアの服装に――腕に巻いた冒険者ギルドの腕章に気が付いて、ぴたりと口を噤んだ。
「その箱について、少しお話を聞かせてくださいますか?」
外套の男が一歩下がる。外套の内側へ入れていた手が、腰の短剣を握った。
「支援会の人間か」
「今は冒険者ギルドです」
「チッ。行くぞ」
二人はパーニアへ背を向け、来た道を戻ろうとする。
「お待ちください。お話を――」
瞬間、外套の男が振り向きざまに短剣を抜く――が、パーニアが先に懐へ踏み込んでいた。右手で男の手首を掴む。同時に左の前腕を肘の内側へ当て、腕を折り畳むように押し上げた。
「ぐッ――!」
男の肩が持ち上がる。パーニアは腰を沈め、掴んだ腕を斜め下へ引く。
男の身体が宙へ浮いた。
そのまま、肩から地面に叩きつける。腕を背中へ回し、手首を肩甲骨の間まで押し上げた。
からり、と短剣が土の上へ転がる。
「動かないで。無理に抜けると肩が外れますよ」
それを見たランタンの男は逃げ出そうとしたが、二歩も進まないうちに、トッドが横からぶつかった。
男は衝撃で、街道の端へごろごろと転がる。起き上がろうとしたところを、トッドの膝が背中へ乗った。
「縄を持ってこい」
御者が慌てて荷物を探り始める。
パーニアの下で、外套の男が身体を捩った。
「おい、放せよ!」
「礼拝所へ荷物を運んだ人たちは、いつ戻る予定でしたか?」
だんまりを決め込む男の手首を、軽く持ち上げる。
「痛っ、痛い!」
「いつ戻る予定でしたか?」
「は、箱を置いたら、すぐだ!」
「何人です?」
「五人だよ!」
「ほかに、様子を見に来る人は?」
「知らねえ。本当に知らねえから!」
御者が縄を持って戻ってきた。
パーニアは男の腕を押さえたまま、トッドへ顔を向ける。
「この二人も連れていきますね」
「ああ」
二人を別々に縛り、荷台へ乗せる。
荷馬車は、礼拝所へ向けて再び走り出した。




