61.通路の先へ
剣の男を先頭に立たせ、その腰へ回した縄をオウルが握る。続いて短槍の男と弩の男を歩かせ、光るナイフを持つエスが後ろについた。管理人は、最後尾で蝋燭を持っている。
通路はすぐに天井が低くなった。
オウルは頭を下げて進む。短い石段を下りたところで、剣の男が足を止めた。
「ここだ」
男が人の背丈ほどの木戸を開くと、小さな地下室が現れた。荷馬車一台を入れればほとんど隙間がなくなるくらいの大きさだ。
正面に木箱が三つ並んでいる。右側には横長の鉄扉があり、扉の下の隙間から細い光が差し込んでいた。左側には古い木棚があり、汚れた布包みがぽつんと置かれている。
「あれは……」と、管理人が木棚へ駆け寄る。布を開くと、中から銀製の小箱が現れた。「聖骨箱です!」
管理人が銀の箱を両手で持ち上げた。「間違いありません。封印も壊れてない!」
「そりゃよかったな」
オウルは振り返らず、三つの木箱のもとへ歩いていき、右手側の箱の両側へ手を掛ける。力を入れて持ち上げると、箱は拍子抜けするほど簡単に床から離れた。
「おっと、」
勢い余って箱が傾く。載せてあっただけらしい板のような蓋が横へ滑り、黄色い塊が三つ、床へ転がり落ちた。
その一つが、どっ、と鈍い音を立てて床へぶつかる。角が割れ、黄色い表面の下から白っぽい中身が現れた。
エスが床へ落ちた塊を一つ拾った。割れた断面を指の腹で押すと、白っぽい部分には指が沈む。
エスは指についた脂の匂いを嗅いだ。
「ふーん。表面だけ蜜蝋で固めてるんだ。中は獣脂かな?」
オウルは傾いた箱を床へ下ろして、それまで壁側を向いていた側を正面に向ける。
そこには、粗紙の荷札が、箱へ釘で留められていた。
納入先は、『冒険者ギルド北倉庫』。さらに、受領済の赤い印が押されている。
袖で箱の隅についた泥を拭うと、商会の刻印が現れた。
――ローデン商会
「やっぱり、あの箱とつながってるのかな」
エスが荷札を覗く。
「あの箱?」
「トッドが参加した隊の荷物にさ、蜜蝋が紛れ込んでたんだよ。そいつは、ローデンって商人の印章で納められたんだけど、そいつの死体をおれらが見つけた」
オウルは、床に落ちた偽の蜜蝋をもう一つ拾った。
表面は黄色く艶がある。割れていない状態なら、積み重なった塊の中から見分けるのは難しそうだ。
オウルは最初に見つけた紙片を懐から出した。
――『四 北 明朝』
「今夜、四箱来るんだな」
オウルの問いに、短槍の男は剣の男を見た。剣の男が黙っているので、代わりに頷く。
「……日が落ちてからだ。ここへ置いて、明日の朝に外へ出す」
「誰が持ってくるんだ」
「知らねえよ。鉄扉の向こうから合図がある。俺たちは運び込むだけだ」
「合図は?」
「扉を三回叩く」
オウルは横長の鉄扉を見た。
扉の下から差す光は、まだ明るい。日が落ちるまで時間がある。
管理人は聖骨箱を胸へ抱えたまま、偽の蜜蝋を見下ろしていた。
「すぐ支援会へ知らせるべきです」
「まあな、そうなんだけどさぁ……」
オウルは言いながら鉄扉へ近づき、下の隙間から外を覗く。草と、地面へ置かれた古い板。外から地下室の入口を見つけるのは難しそうだ。
「誰か来るまで待つ?」エスが尋ねる。
「そうしてえな。戻ったら、今夜ここへ来る奴を逃がしちまう。それはつまんねえだろ」
オウルは立ち上がった。
「こいつらが捕まったことは、まだ向こうに伝わってねえよな。だったら、来たところを押さえたほうが早いぜ」
管理人が捕虜三人を見た。
「しかし、この方々を置いたままでは……」
「納骨室のあたりで別々に縛っておくか。おれたちと一緒に来た御者に事情を話して報告に行かせよう」
「それがいいかもねえ」エスが肯く。
弩の男は一人で歩けなかったため、短槍の男に肩を貸させた。剣の男は腰の縄をオウルに引かれ、先頭を歩いた。
納骨室へ戻ると、天井を支える石柱へ三人を一人ずつ縛りつけた。
両手首に加えて、足首と腰にも縄を回す。短槍の男と剣の男には、声を出せないよう口へ布を噛ませた。弩の男は傷があるため、仰向けにならないよう壁へ背を預けさせる。
「御者へ伝えたら、ここで三人を見張ってろ」
オウルが管理人へ言った。
「石扉は閉めますか?」
「閉めろ。あいつらは聖印を持ってないが、おれたちは開けられるしな」
管理人は胸元の聖印へ触れた。
石扉の封印を解けるのは、本物の聖印を持つ者だけである。捕虜三人が縄を解けたとしても、石扉を開けて逃げることはできない。
「わかりました」
「御者には急げって言えよ。日が落ちる前に街へ着くようにな」
そう管理人に託して、オウルとエスは再び地下室へ戻った。
床へ落ちた塊を箱の中へ戻し、蓋を載せなおす。完全には元どおりにならなかったが、鉄扉から入ってきた者がすぐに気づくほどでもない。
オウルは空の樽を木箱の手前へ動かした。樽の陰へしゃがめば、鉄扉から入ってくる者の足元まで見える。
エスは割れた一つを粗布へ包み、薬草籠へ納めた。そうして、オウルの脇腹に刺さったままだった鏃を抜いた。傷を洗って包帯で簡単に止血する。神術を使うほどでもない。
処置をしながら、エスは聞いた。
「何人までならやるつもり?」
オウルはその間にも、鉄扉から目を離さなかった。
「うーん。四人なら必ずやるかな。五人以上なら、見てから決める」
「六人は?」
「数えてる間に見つからないといいな」
エスは笑いながら、光るナイフを鞘へ納めた。
白い光が消え、鉄扉の下から差す光だけになる。
鉄扉の下の光が細くなり、やがて消えた頃。外で、板の上へ重い物を下ろす音がした。
続いて、板を踏む足音が重なる。一人が何か言い、別の二人が短く答えた。残りの二人は、荷を動かしているらしい。
「五人だな。扉が開いたら、最後尾を止めろ」
オウルが声を抑えて言う。
暗闇から、「わかった」とエスの小さな返事が返ってきた。
続いて、鉄扉が三度叩かれた。




