60.三人の見張り
「壁を向いて膝をつけ。両手は頭の後ろだ」
短槍の男は、床に落とした槍を見たあと、言われたとおり壁へ向き直った。片膝をつき、両手を後頭部へ回す。
オウルは剣先で槍を通路の端へ押しやった。
「腰のナイフも出せ。変な動きしたら殺すぞ」
男は右手を下ろし、腰の鞘からナイフを抜いた。柄を持ったまま床へ置く。オウルはそれも足先で蹴った。
先頭にいた剣の男は、石床へ横倒しになったまま動かない。
弩の男は、壁を背にして座り込んでいた。脛を斬られた脚を伸ばし、片手で胴の傷を押さえている。落とした弩はオウルによって遠くへ蹴られていたが、腰の矢筒とナイフはまだ残っている。
「お前もだ。武器を外せ」
男は息を切らしながら、腰のナイフを鞘ごと外した。矢筒も肩から抜いて床へ置く。
オウルは三人の武器を一か所へまとめた。それから、納骨室の方へ向かって声を張る。
「おーい。終わったぞ。管理人!」
管理人を待つ間、エスは光るナイフを床へ置き、剣の男のそばへ膝をついた。
首筋へ指を当て、次に胸へ耳を近づける。それから裂けた革鎧を広げ、脇腹の傷を確認した。
「傷は深くないねぇ」
エスは剣の男の傷口へ布を当て、腰の小袋から取り出した細い紐で固定した。続いて、弩の男の前へ移動する。傷を押さえている手をどけさせ、革鎧の裂け目を広げた。
「骨までは届いてないね。これならすぐ治せるよ」
「なら、さっさと治せよ」
「頼み方がよくないねえ、頼み方が」
エスは笑いながらも、治療の手は止めない。弩の男の胴と脛へ、それぞれ清潔な布を巻いた。胸元の聖印へ触れ、短い祈りを唱えると血が止まり、呼吸が少し落ち着いた。支えがあれば歩ける程度にはなったらしい。
そのようすに、オウルは笑いながら剣を肩に担いだ。
しばらくして、通路の奥に蝋燭の明かりが現れた。管理人は火を手で覆いながら、慎重に曲がり角から顔を出す。立っているオウルとエスを確認し、その足元にいる三人を見る。
「これは……」
「管理人。縄はあるか?」
オウルが尋ねる。
「あります。骨箱を固定するための物があります」
「持ってきてくれ。できるだけ長いやつ」
管理人は頷いて、足早に来た道を引き返した。
その間に、オウルは三人の持ち物を調べることにした。
銀貨と銅貨が入った革袋に、予備の弩矢。小さな油瓶に火口箱。鍵を三本つけた鉄輪と、折り畳まれた紙片。
紙片を開くと、数字と短い記号が書かれていた。
『四 北 明朝』
「何だこれ?」
オウルが短槍の男へ見せる。男は床へ倒れている剣の男を顎で指した。
「そいつのだ。俺は知らねえよ」
管理人が、太い麻縄を抱えて戻ってきた。
オウルは短槍の男の両手を後ろへ回させ、手首を縛った。弩の男の両手も同じように縛り、二人の腰を余った縄でつないだ。
剣の男は、まだ意識を失ったままだ。オウルはエスに尋ねた。
「そいつ、起こせるか?」
「たぶんね」
エスが剣の男の頬を軽く叩くと、男はゆっくりと目を開いた。焦点の合わない目でエスを見るやいなや慌てて起き上がろうとしたが、急に動いて傷が痛んだようで、呻いてうずくまり、脇腹を押さえた。
「動かないほうがいいよ。頭も打ってるから」
剣の男の顔を見た管理人の表情が変わった。
「あ、あなたは……」
剣の男は管理人を見て、すぐに目を逸らした。
「知り合いか?」オウルが聞く。
「先日の納骨室整理に参加していた方です」
「人違いだ」剣の男が食い気味に答えた。
「いえ。間違いありません」管理人の声は震えていたが、男から目を離さなかった。
オウルは床にしゃがみ、剣の男と同じ高さへ顔を下ろした。
「なら、話は早いな。聖骨箱はどこだ? 銀製で、高く売れそうな箱だ」
「知らねえ」
「おまえは納骨室に来た。その翌日に聖骨箱がなくなった。その箱が掛かってた壁の向こうから、おまえが出てきた。偶然にしちゃあできすぎだろ?」
剣の男は答えない。
オウルは、ため息を一つ吐いて、今度は短槍の男へと向き直った。
「で、お前らは、ここで何してたんだよ」
「見張りだよ」
「誰に頼まれた?」
「知らねえよ。そいつから日当もらってるだけだ」
短槍の男は、縛られたまま剣の男を見た。
「箱が来るまでは待ってろって言われた。こいつがいないと話がわからねえからな」
「中身は?」
「知らん。開けるなって言われてたからな」
男は顎で通路の奥を示した。
「奥に荷物を置く部屋がある。そこから運んだだけだ」
オウルは、もう一度剣の男を見た。
「通路を前から知ってたなら、わざわざ祭具を壊す必要はねえよな。箱を盗もうとして、偶然見つけたか?」
男はしばらく黙っていた。やがて、壁へ頭を預ける。
「……銀なら売れると思った」
管理人が息をのむ。
「でも、聖骨箱ですよ。中には遺骨が――」
「だから売らなかったんだよ。買い手をつけるのが面倒くせえだろ」と、男は苛立ったように言った。
オウルが重ねて尋ねる。
「前回の神官も、ここの道を知ってるのか?」
「通路を見つけたとき、あいつはいなかったよ」
「祭儀をしなかったって言ってたが、本当に神官か?」
「知るかよ」
オウルは剣の男のそばに置かれていた鍵輪を持ち上げた。
「銀の箱は、この先にあるんだな?」
「まだ売られてなきゃあな」
「知らない奴に通路を使わせてたのか?」
「酒場で、荷物を置ける場所を探してる奴がいた。場所を教えたら金を払うって言うから話したんだよ。そしたら、荷物を運べば上乗せするってさ」
「顔は? 指示はどうやって受ける?」
「毎回違う奴が来る。奥の部屋に紙が置かれる。何日の何時に、何箱運べってな。運び終わったら、金が置かれてる」
「変な取引だ。ずいぶん信用されてるな」
「中を見るな。荷を持ち逃げするな。余計なことを聞くな。それさえ守ればいい」
「今日も荷物が来るのか?」
男は答えなかったが、短槍の男が横から言った。
「今夜、奥に箱が届く。明日の朝に運び出すって聞いてる」
「てめえ!」
「もう捕まってんだろ。黙ってたって同じだ」
短槍の男は剣の男を睨み返した。
「神官が来るなんて聞いてねえぞ。礼拝所側から人が来たことは一度もなかった」
「だから襲ったのか?」
「捕まったら、俺まで墓荒らしにされるだろ」
「実際、墓荒らしだろ。片棒を担いでんだからさ」
短槍の男は顔をしかめた。
オウルは立ち上がった。
「奥に案内しろ」
「嫌だと言ったら?」
「さあて、どうしようかな」オウルはにやりと笑った。
「おれは善行を積みに来てるわけじゃねえしな。あぁ、ちょうど誰かに八つ当たりでもしたい気分になってきたぜ」
剣の男は、側頭部の腫れへ目だけを向けた。
「わかったよ。ったく……おっかねえ神官だぜ」
オウルはけらけら笑いながら、剣の男の手を縄で縛った。




