55.行き当たりばったりの偽装
応接室を出たオウルは、そのまま警備詰所の留置房へ入れられた。
石造りの狭い部屋で、壁際には固い寝台が一つある。オウルは寝台に横たわり、天井を眺めていた。両手の縄は解かれたが、短剣はもちろん、サイコロまで取り上げられたものだから、暇で仕方がない。
自分の処分については、さほど気にかけていなかった。気になるのは、倉庫に本当に四箱残っていたかどうかだ。
夜が更けたころ、廊下から足音が近づいてきた。
警備の人間とともに、ガレウスが姿を現す。ガレウスが格子の前に立つやいなや、オウルは身体を起こした。
「四箱あったか?」
「あった」
「へえ?」
帳簿どおり四箱残っていたのなら、倉庫の在庫が足りないという推測は外れたことになる。
「空振りか。じゃあ、何しに来たんだよ?」
「中身が帳簿どおりではなかったからだ」
倉庫にあった四箱には、それぞれ八塊ずつ、金蜂印に似せた蜜蝋が入っていたという。形も色も重さも正規品に近く、上面には蜂の印がついている。箱数を確認するだけなら、偽物とはわからない。
だが、同行したミレナが蜂の印の違いに気づいた。
一塊を切断すると、内部は濁り、悪臭がした。安い蜜蝋に獣脂を混ぜ、表面だけを上質な蜜蝋で覆ったものだったのだ。
「おれが止めた箱は?」
「あれは本物だった」
金蜂印に固有の特徴も、蜜蝋の品質も正規品と一致したらしい。
倉庫の四箱は偽物で、公募隊の荷車から回収された一箱だけが本物だった。
「その本物を、倉庫から出した記録は?」
「ない」
「入れた記録もねえのか?」
「台帳にはない」
オウルは格子越しにガレウスを見た。
「偽物は、倉庫の箱数を合わせるためだと思うか?」
「その可能性はあるな」
「で、本物は検査のたびに持ち回る。箱を数える奴には偽物を見せて、中身を調べる奴には本物を見せる」
「まだ推測だ」
「わかってるよ」
帳簿では、倉庫に四箱残っている。
実際の倉庫にも四箱あったが、すべて偽物だった。そのうえ、帳簿に載っていない本物がもう一箱あった。
「倉庫の在庫を改めて調べられたら、本物の一箱が余るな。それで、ちょうど街の外へ出る公募隊を使ったのか」
冒険者ギルドへの移行に伴い、支援会が保管していた物資を新しい台帳へ移すため、倉庫の在庫を確認する予定になっていた。
帳簿にない本物の一箱を倉庫へ残していると、数が合わない。
そこで水路を使って倉庫から運び出し、旧監視塔跡へ向かう公募隊の荷車へ紛れ込ませた。
公募隊は、現地の封鎖資材や測量器具を持ち帰るため、空の回収箱を何箱も積んでいた。その中へ隠せば、正規の搬出記録を残さず、北門の外まで運ばせることができる。
ガレウスは腕を組んだ。
「だが、本物を運び出しても、倉庫の四箱を詳しく調べられたら偽物とわかる」
犯人の行動は、何の解決にもならない。
「単に数日欲しかっただけなんだろ。次の金が入るまで、次の検査が終わるまで、次の納期まで。ずっと、そうやって先送りしてきたんじゃねえの」
ガレウスはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「もう一つある。五箱分の納入記録は、三つの商会の名義に分かれていた」
「別々の商人が持ち込んだことになってるのか」
「ああ。だが、すべての受領確認に同じ支援会職員の署名があった」
「そいつが通したのか?」
「故意とは限らない。納入担当が一人なら、同じ署名が続くのは当然だ。規格の印と箱の数だけを見て、中身を調べなかった可能性もある」
「偽物だと知ってて通したなら共犯だ」オウルは肩をすくめた。
「知らずに全部通したなら、検査をしてなかったのと同じだろ」
ガレウスは反論せず、本来の用件を切り出した。
「公募隊の荷車へ、あの箱を積んだ者を見ていないか」
「見てねえな」
「わかった。荷積みに関わった者から話を聞こう」
「そうしろよ」
ガレウスが踵を返して、格子の前から離れる。
「……偽物に混じってたのは、獣脂なんだっけ?」オウルが口を開く。
「おれが片付けたときにも、やたら獣脂が出てきたんだよ。支援会の近くにある、あの倉庫の排水口からな」
ガレウスが振り返る。
「それが、偽物と同じものだと?」
「さあな。おれはその偽物を見てねえし」
「……比較させよう」
オウルは再び寝台へ横たわった。
「あの倉庫で偽物を作ってたのかもしれねえな~」
「憶測だ」
「わかってるって」
ガレウスが背を向け、廊下を歩き始める。
オウルは鉄格子の外へ声を投げた。
「次は倉庫の床でも剥がしてみるか?」
「お前はそこで待っていろ」
遠ざかる足音の向こうから、ガレウスの声が返ってきた。




