表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者ギルドは公平で健全でうさんくさい  作者: 遠野 文弓
第三章 冒険者ギルドの公募

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/54

47.目くらまし

 三人は倉庫の表側へ回り、荷受け口にいた倉庫番の男を呼んだ。倉庫番は白髪の混じった頭を掻きながら、いかにも面倒そうに出てきた。


「排水口の奥を見るって話は聞いてるよ。だが、なんだって倉庫の中まで見たがる?」


「盗まれたものはないのか?」


 オウルが聞くと、倉庫番は面倒そうに息を吐いた。


「ねえよ。荷の確認はとっくにした。臭いが戻らないなら、それで十分だろ?」


 探索者のような荒くれ者に倉庫の周りをうろつかれたくないのだろう、さっさと帰ってほしいという態度が透けてみえる。


「ふーん。なら帰るか」


 オウルはあっさりと頷いて背を向けようとしたが、そこでジェムが一歩前に出た。


「待ってください」


 ジェムはずっと考えていた。エスの礼拝堂は、用水路の奥にある。倉庫裏の排水口が同じ水路網でつながっているなら、ここで起きた異常が礼拝堂まで及ぶ可能性もある。それは看過できない。


「排水口の格子は外れる作りでした。倉庫の中から排水路につながる場所はありませんか?」


「排水路のことなんか知るかよ」


「では、倉庫の中で、置き場所が変わったものはありませんか?」


 ジェムが尋ねると、倉庫番は怪訝そうに首を傾げた。


「置き場所? ……そういや、奥に積んであった古い空き樽が、いくつか壁側へ寄せられていたな。まあ、鼠か荷崩れかと思っていたが」


「そこには何があるんですか?」


「昔の点検口だ。何年も開けてねえ」


 オウルが鼻を鳴らす。


「そっちから入れるなら、わざわざ狭い排水口にねじ込む必要はねえよな。その点検口を見せてもらおうか」


「冗談じゃねえ。倉庫に泥を持ち込まれてたまるか」


 倉庫番が顔をしかめて拒絶したが、オウルは気にした様子もない。


「おれたちは帰ってもいいんだぜ。ここの臭いがすぐ戻ってもいいならな」


 倉庫番はしぶしぶ点検口へ案内することに同意した。


「……泥は落とせよ」


「はいはい」


 倉庫番は舌打ちして、倉庫の奥へ歩き出した。




 倉庫の奥、古い空き樽をどけた先に、床板を切り抜いたような正方形の点検口があった。蓋を持ち上げると、湿った匂いが立ち上ってくる。排水口と同じ、生臭い臭いもかすかに混じっていた。


 オウルが先に下り、コニーがカンテラを持って続く。最後にジェムが下りた。


 水路は広かったが、床にはぬるぬるとした泥が堆積している。コニーがカンテラを動かすと、光が石積みの壁と、泥に覆われた床を照らし出した。

 ジェムが床を見て声を上げた。


「あれ。ここだけ泥が拭われてますね。足跡にしては平らだし……」


 ジェムの指差すほうをコニーが照らした。石積みの壁の、ちょうど腰から膝あたりの低い位置に、何かがこすれたような横長の擦れ跡が続いていた。床の泥には、何かを引きずったような深い溝と、四角い跡が残っている。


「荷を引きずってたのか」


「何を運んだんでしょう?」コニーが尋ねる。


「それがわかりゃあ楽なんだけどな」


 オウルは立ち上がり、暗い水路の奥を見やった。


「少なくとも、異臭だけの話ではありませんね」ジェムが皮紙(かみ)に何か書き留めながら言う。


「ああ。臭いは目隠しだ」


 誰かが、この古い水路を使って荷を動かしたらしい。


「だが、荷を運ぶってことなら、あの排水口からじゃあ無理だな。狭すぎる」


 オウルは暗い水路の奥を見た。


「通ったとしても、せいぜい人ひとりだ。荷を通すなら、別の入口か、この点検口を使ったはずだ」


 ジェムが顔を上げた。

「なぜ格子を外したんでしょう?」


「腐ったもんを奥へ詰めるためだろ」


 オウルは壁の低い擦れ跡を見やった。


「格子の前に置いたら、すぐどかされるからな」


「つまり、荷物を通すためじゃなくて……」


「目隠しを作るためだな。覗かれたくなかったか、近づかれたくなかったか。そのあたりだろ」


 コニーは、さっき入りかけた狭い排水口を思い出した。

 腐った獣脂や鼠の死骸が詰まっていれば、誰だって早く片づけて終わりにしたくなる。奥に何があるか、格子に異常があるかまでわざわざ確かめようとは思わない。格子の奥から吹いてきた、泥と腐敗物の混じった臭いは、顔を近づけるだけで目が痛くなった。


 コニーはちらりとオウルを見た。

 だが、この人は顔を背けなかった。


「ま、どっちでも同じか。こりゃあもう異臭調査じゃねえよなぁ」


 そう軽口を叩くオウルの目は、暗い水路のずっと奥を見ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ