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冒険者ギルドは公平で健全でうさんくさい  作者: 遠野 文弓
第三章 冒険者ギルドの公募

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45.誰でも受けられる依頼

 探索者支援会の広間は、昼下がりになっても落ち着く気配がなかった。

 木製のテーブルには〝冒険者〟たちがひしめき合い、壁際の掲示板には新しい依頼票が貼り出されては剥がされていく。


 そのざわめきを裂くように、カウンターの前で木槌が三回、甲高く鳴らされた。

 広間の視線が一斉にそちらへ向く。


「依頼の公募を行います! 北東街道、旧監視塔跡の物資回収です!」


 職員のよく通る声が響き渡った。


「希望者は応募票を受け取ってください。パーティー単位での申し込みになります! 先着順ではありませんので、悪しからず!」


 職員が依頼票の控えを掲示板の中央に貼り出すと、近くにいた者たちがさっそく群がった。

 コニーも人の隙間から背伸びをしてその内容を読んだ。


【北東街道・旧監視塔跡の物資回収】

 旧監視塔跡に残された封鎖資材、測量器具、古い保管箱の回収。魔物討伐は目的としない


 討伐が目的ではない。街やギルド側の都合による、純粋な物資の回収作業だ。

 それなら、戦闘経験の浅い自分にも関係があるかもしれない。コニーはそう思いながら、さらに下へ目を滑らせた。


【応募条件】

 四名以上、六名以下。緑等級(グリーン)以上を一名以上含むこと。地図を読める者、荷を運べる者を含むこと。治療手段を持つ者を含むことが望ましい


 そして、最後の一行。


【報酬】

 成功報酬、金貨二十枚。参加者には等級(ランク)評価の加点あり


「金貨二十枚……」

「加点まであるぞ!」


 掲示板の前にいた誰かの声が、一瞬で広間に伝播した。

 金貨二十枚。それは、その日暮らしの冒険者が数ヶ月は遊んで暮らせる額だ。


 赤等級(レッド)のコニー一人では、どう足掻いても届かないはずの依頼だ。だが今回は、「四名以上、六名以下」という条件がある。緑等級(グリーン)以上が一人いれば、赤等級(レッド)橙等級(オレンジ)にもお鉢が回ってくる可能性がある。


「治療手段を持つ者……」


 コニーの隣で、ジェムが小さくつぶやいた。

 その声は、高額報酬に沸く周囲の熱とは対極にある、冷ややかなものだった。彼は自分の首から下がる橙色(オレンジ)の革札と、握りしめた杖を交互に見た。


 冒険者たちの視線が、値踏みするように広間を行き交う。


 緑等級(グリーン)以上……。

 コニーは咄嗟に、オウルのほうを振り返った。

 彼はすでに掲示板を見ていなかった。

 オウルのそばへ行くと、彼は「始まったな~」と、軽く笑っている。


「何がですか?」


「ようやく胴元らしくなってきた」


 オウルが顎でしゃくった先で、見知らぬ冒険者がこちらへ歩み寄ってくるのが見えた。使い込まれた剣を腰に下げた、大柄な男だ。

 男はコニーたちの前に立つと、口を開いた。


「そこの(レッド)(オレンジ)。二人とも空いてるか?」


 コニーは反射的に振り向いた。

 男の視線は二人の首から下がっている革札の色を見ていた。オウルに話しかけなかったのは、彼が革札を服の下に隠しているからだろう。


「あ、空いてますけど……」

「ぼくも……」


「ならちょうどいい。荷を運べる奴と、治療手段を持ってる奴が要るんだ」


 男は早口で言った。


「報酬は金貨二十枚だろ? 人数で割っても悪くねえ。加点もつく。赤札と橙札なら、こういう依頼に混ざれる機会はそうそうないだろ」


 それまで黙って聞いていたオウルが、横から口を開いた。


「ところで、おまえは(グリーン)か?」


「いや。(イエロー)だ」


 男は革札を見せた。


「これから(グリーン)を探すんだよ」


「順番が逆だろ。この公募でパーティーを組むなら、まず緑だ。黄色のお前が赤と橙を拾ってどうする。お前も拾われる側だろ」


 男は少しムッとしたように、オウルに食ってかかった。


「じゃあ、お前は何色なんだよ?」


 オウルは黙って、革札を服の中から引き上げた。

 (グリーン)の革札。まとめて括ってある支援会の金属タグと《欺き》の聖印がカチャリと鳴った。


 途端に、男の目つきが変わる。


「ちょうどいいじゃねえか。なら、あんたも入れよ」


「やだね」


「金貨二十枚だぞ?」


「四人で、だろ。その時点でもう面倒くさいぜ」


 黄色(イエロー)の男が去ったあとも、声をかけてくる冒険者は後を絶たなかった。気づけば、コニーとジェムの名前は、見知らぬ前衛の横に書き込まれていた。

 そのころ、オウルはもう掲示板の端っこを見ていた。


「オウルさん、やっぱり公募は受けないんですか?」


「受かるわけねえだろ。条件を満たせば平等ってわけじゃねえんだから」


「……? やってみないとわからないじゃないですか?」


 オウルは、本気で意味がわからない、という顔でコニーを見下ろした。コニーは釈然としなかったが、彼は呆れたように肩を竦める。


「ま、たとえ受かる目があっても嫌だね。あんなつまんねえ依頼は」


 コニーには、何がつまらないのかわからなかった。

 オウルは、誰にも見向きされていない小さな依頼票を一枚剥がす。


 倉庫裏の異臭調査。報酬は銀貨一枚だった。

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