45.誰でも受けられる依頼
探索者支援会の広間は、昼下がりになっても落ち着く気配がなかった。
木製のテーブルには〝冒険者〟たちがひしめき合い、壁際の掲示板には新しい依頼票が貼り出されては剥がされていく。
そのざわめきを裂くように、カウンターの前で木槌が三回、甲高く鳴らされた。
広間の視線が一斉にそちらへ向く。
「依頼の公募を行います! 北東街道、旧監視塔跡の物資回収です!」
職員のよく通る声が響き渡った。
「希望者は応募票を受け取ってください。パーティー単位での申し込みになります! 先着順ではありませんので、悪しからず!」
職員が依頼票の控えを掲示板の中央に貼り出すと、近くにいた者たちがさっそく群がった。
コニーも人の隙間から背伸びをしてその内容を読んだ。
【北東街道・旧監視塔跡の物資回収】
旧監視塔跡に残された封鎖資材、測量器具、古い保管箱の回収。魔物討伐は目的としない
討伐が目的ではない。街やギルド側の都合による、純粋な物資の回収作業だ。
それなら、戦闘経験の浅い自分にも関係があるかもしれない。コニーはそう思いながら、さらに下へ目を滑らせた。
【応募条件】
四名以上、六名以下。緑等級以上を一名以上含むこと。地図を読める者、荷を運べる者を含むこと。治療手段を持つ者を含むことが望ましい
そして、最後の一行。
【報酬】
成功報酬、金貨二十枚。参加者には等級評価の加点あり
「金貨二十枚……」
「加点まであるぞ!」
掲示板の前にいた誰かの声が、一瞬で広間に伝播した。
金貨二十枚。それは、その日暮らしの冒険者が数ヶ月は遊んで暮らせる額だ。
赤等級のコニー一人では、どう足掻いても届かないはずの依頼だ。だが今回は、「四名以上、六名以下」という条件がある。緑等級以上が一人いれば、赤等級や橙等級にもお鉢が回ってくる可能性がある。
「治療手段を持つ者……」
コニーの隣で、ジェムが小さくつぶやいた。
その声は、高額報酬に沸く周囲の熱とは対極にある、冷ややかなものだった。彼は自分の首から下がる橙色の革札と、握りしめた杖を交互に見た。
冒険者たちの視線が、値踏みするように広間を行き交う。
緑等級以上……。
コニーは咄嗟に、オウルのほうを振り返った。
彼はすでに掲示板を見ていなかった。
オウルのそばへ行くと、彼は「始まったな~」と、軽く笑っている。
「何がですか?」
「ようやく胴元らしくなってきた」
オウルが顎でしゃくった先で、見知らぬ冒険者がこちらへ歩み寄ってくるのが見えた。使い込まれた剣を腰に下げた、大柄な男だ。
男はコニーたちの前に立つと、口を開いた。
「そこの赤と橙。二人とも空いてるか?」
コニーは反射的に振り向いた。
男の視線は二人の首から下がっている革札の色を見ていた。オウルに話しかけなかったのは、彼が革札を服の下に隠しているからだろう。
「あ、空いてますけど……」
「ぼくも……」
「ならちょうどいい。荷を運べる奴と、治療手段を持ってる奴が要るんだ」
男は早口で言った。
「報酬は金貨二十枚だろ? 人数で割っても悪くねえ。加点もつく。赤札と橙札なら、こういう依頼に混ざれる機会はそうそうないだろ」
それまで黙って聞いていたオウルが、横から口を開いた。
「ところで、おまえは緑か?」
「いや。黄だ」
男は革札を見せた。
「これから緑を探すんだよ」
「順番が逆だろ。この公募でパーティーを組むなら、まず緑だ。黄色のお前が赤と橙を拾ってどうする。お前も拾われる側だろ」
男は少しムッとしたように、オウルに食ってかかった。
「じゃあ、お前は何色なんだよ?」
オウルは黙って、革札を服の中から引き上げた。
緑の革札。まとめて括ってある支援会の金属タグと《欺き》の聖印がカチャリと鳴った。
途端に、男の目つきが変わる。
「ちょうどいいじゃねえか。なら、あんたも入れよ」
「やだね」
「金貨二十枚だぞ?」
「四人で、だろ。その時点でもう面倒くさいぜ」
黄色の男が去ったあとも、声をかけてくる冒険者は後を絶たなかった。気づけば、コニーとジェムの名前は、見知らぬ前衛の横に書き込まれていた。
そのころ、オウルはもう掲示板の端っこを見ていた。
「オウルさん、やっぱり公募は受けないんですか?」
「受かるわけねえだろ。条件を満たせば平等ってわけじゃねえんだから」
「……? やってみないとわからないじゃないですか?」
オウルは、本気で意味がわからない、という顔でコニーを見下ろした。コニーは釈然としなかったが、彼は呆れたように肩を竦める。
「ま、たとえ受かる目があっても嫌だね。あんなつまんねえ依頼は」
コニーには、何がつまらないのかわからなかった。
オウルは、誰にも見向きされていない小さな依頼票を一枚剥がす。
倉庫裏の異臭調査。報酬は銀貨一枚だった。




