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冒険者ギルドは公平で健全でうさんくさい  作者: 遠野 文弓
第3章 冒険者ギルド発足

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36.ロクデナシとルーキー ②

 ミラ・パーニアは、いつものとおりに探索者支援会の窓口にいた。

 その日、カウンターの前に、見慣れた顔が立った。


 オウル・ダウングリーンだ。


 ……この男と初めて会ったときも、カウンター越しだった。

 パーニアがまだ受付に入ったばかりの頃だ。


 オウルはまだ少年と呼んでいいような年齢で、声変わりもしていなかった。片腕で血まみれの探索者を支え、半ば引きずるようにしてカウンターまで来ると、もう片方の手で血のついた依頼表を差し出してきた。


 その場にいた者は、オウルに支えられていた探索者を見ていた。誰かが「囮にでもしたのか、ダウングリーン!」と怒鳴ると、オウルは「囮にすらなりゃしねえよ。こいつの間抜けな戦い方をてめえらにも見せてやりたかったぜ!」と煽り返す。場はますます険悪になっていった。


 パーニアがふと依頼表に視線を落とすと、差し出された腕から血が滴っていることに気づいた。


「……その。あなたも救護室に行くべきでは?」


「ほっとけよ」


 自分のことにもかかわらず、オウルは言い放った。


「姉ちゃん、支援会に向いてねえんじゃねえか? ロクデナシが怪我したくらいで心配すんなよ」


 支えられてきた少年探索者は助かった。

 そのとき、オウルもまた未熟な少年で、担いできた相手ほどではないにせよ、ひどく怪我をしていた。そのことに気づいたのは、その場ではおそらくパーニアだけだった。


 今や青年になったオウルは、懐から依頼表を取り出してカウンターに置いた。血はついていなかった。


「幼体も潰しといたぜ。しばらくは大丈夫だろ」


「ありがとうございました。水路組合のほうで確認が取れ次第、報酬をお渡しします」


 ここまでは、ただの討伐報告だった。


 パーニアは依頼表を確認し、「討伐証明は?」と顔を上げる。

 そのとき、報告を終えたオウルの隣へ、重そうな油紙の袋を抱えた少女がやってきた。首には赤い革札を下げている。少女はカウンターに袋を置き、中から大鼠の前歯を包んだ小袋を取り出した。泥や血はきれいに落としてあるが、生臭さがまだ残っている。

 

「あの、これが討伐証明? です」


 さすがのパーニアも目を剥いた。


「オウル! あなた、赤等級(レッド)の女の子を連れまわしたんですか!?」


 パーニアが詰め寄ると、オウルは事もなげに答えた。


「いや、こいつが連れてけって言ったんだよ」


 少女の荷物には、質の良いカンテラが吊るされている。初心者が持つような代物ではない。


「装備まで買い与えておいて、よくもまあそんなホラが吹けますね!!」


 パーニアはオウルの釈明を聞こうともせず、コニーの肩に手を置いた。少女にはまだ下水道の悪臭がわずかにこびりついているが、パーニアをきょとんと見つめる目は純真で、パーニアはそっと安堵する。怪我はない。恐怖におびえてもいないし、怒ってもいない。それでパーニアはひとまず息をついた。


「大丈夫だった? ああ、もう! こんなロクデナシと組まなくていいんだからね!」


 パーニアがなだめるように言うと、コニーは少し困ったように眉を下げた。


「いえ、その……。できれば、また、オウルさんについていきたいな、と、思ってて……」


 パーニアは両手で口を押えて絶句した。

 オウルもまた、理解できないという顔を隠そうともせず、自分のこめかみを人差し指でトントン叩いてみせる。


「こいつイカれてんだ」


「オウル!!」


「怒る相手が違うだろ、ミラ? ロクデナシに懐いてる新人(ルーキー)を正気に戻してやれよ」


「パーニアさんです! ――あなた、一体何をしたんです!?」


「ネズミ退治だよ」

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