表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者ギルドは公平で健全でうさんくさい  作者: 遠野 文弓
第2章 冒険者ギルド登録査定試験

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/54

26.〈緑〉の冒険者

 探索者支援会の広間で、オウルは椅子に座って左脚を投げ出していた。試験の日、戻る途中で麻痺は広がり、ジェムはエスに渡された小瓶を使う羽目になった。立って歩くことはできるが、まだ万全ではない。


 広間には長机が並び、試験を終えた連中が、薄い麦酒を前に札の交付を待っていた。

 パーニアは帳面を小脇に抱え、革札を載せた盆を持って、席のあいだを歩いている。


「オウル・ダウングリーン。等級(ランク)緑等級(グリーン)です」


 パーニアはそう読み上げ、長机の上に薄い皮革(レザー)を置く。

 暗い緑に染められた革札(タグ)には、氏名、登録番号、登録等級、発行印が押されている。端のほうに丸く穴が開いていて、紐を通せるようになっていた。捺された文字はただの焼き印ではなく、何か光を弾く粒が混じっている。

 オウルは、暗い緑の革札をつまんだ。


「緑ねえ。上から何番目だ?」


「ちょうど真ん中。上からも下からも四番目ですね」


 下から、赤等級(レッド)橙等級(オレンジ)黄等級(イエロー)緑等級(グリーン)青等級(ブルー)藍等級(インディゴ)紫等級(バイオレット)と並ぶらしい。


 オウルから返事が返ってこないので、パーニアは帳面から目を上げた。彼はちょうど、革札を裏返すところだった。


「不服ですか?」


「……いや」


「それは珍しい。文句も皮肉もないと?」


「まあ、文句はないさ」


 そう言ったきり、オウルはまた革札へ目を落とす。


 パーニアは、少し困った。

 オウルは、どんなにひどい状況に置かれても、それを面白事へ変えてしまう男だ。荷も金も失ったときでさえ冗談が先に出る。

 不服でないならば、今回も何か軽口を叩くはずだった。査定を茶化すか、誰それが得をしただろうと憶測を並べ立てるか。

 だが彼は、革札をもてあそびながら、ぽつりとつぶやいただけだった。


「やっぱ、しばらくは一人(ソロ)でいいかな」


 もっと上の等級(ランク)を期待していたのか。

 あるいは、この札を受け取るまでに、何かあったのか。

 パーニアには知る由もない。


 オウルの隣で麦酒を流し込んでいたドワーフが、荒々しく杯を置いてから革札を取り上げる。指で端をしならせ、紐穴を見て、鼻を近づける。


「ふん。革の方が先に駄目になるわい。呪文遣いの〈火球(ファイアーボール)〉一つで黒ずむだろうに」


「支援会の認識票と併用します。そちらは金属ですから」


 パーニアが示したので、オウルは首から下げた薄い金属片を引き出した。

 名前、性別、種族名、登録日が刻まれただけの、簡易な身分証である。


「なくさないように、認識票と一緒に下げてください」


「りょーかい」


 イチロクは黙って革札をオウルに突き返した。汚れた道具を戻すみたいな手つきだった。オウルは探索者支援会の認識票を首から外し、緑の革札を通した。


「首輪を色で分けて、番号を打って、と。フン。いかにもヒューマンの役人の思いつきそうなことだ。なぜ新しく札を増やした?」


 問われて困ったように肩をすくめるパーニアを横目に、オウルは革札をぺち、と指で弾いた。


「安いからじゃねえの?」


「薄い金属片を作るよりは安い、と?」


等級(ランク)の上げ下げに、いちいち金属を打ち直してらんねえんだろ」


 パーニアは、難しい顔で手元の台帳をめくった。


「ええと……登録証は、等級(ランク)更新時に返却していただきます」


「そりゃ、降格した奴からは分捕(ぶんど)っとかないとやべえもんな」


 パーニアはとっさに反論しようと口を開いたが、うまい言葉が見つからず、結局は沈黙した。オウルの意見には一理あった。パーニアとて、探索者――これからは冒険者と呼ばねばならないかもしれないが――の素行を信用するほどお人よしではない。


「切れっ(ぱし)で人間の扱いを変えられると思うてか。ますます気に入らん」


 オウルが革札を受け取って窓口を離れると、少し離れたところでコニーとジェムが待っていた。


「お、もうもらったのか」


「はい!」


 コニーはやや緊張した面持ちで(うなず)く。 彼女の首に下がっているのは赤等級(レッド)だ。

 隣にはジェムがいて、彼は両手に橙等級(オレンジ)の革札を握り締めている。その表情は不安そうだ。


「……僕は、強い〈奇跡〉を請えないのに」


「それすら温存したんだろ。上出来じゃねえか?」


「オウルさんは?」


「おれ?」オウルは、暗い緑の革札を指で挟んで見せた。「緑」


 コニーが目を丸くした。


「すごい、んですよね」


「知らねえ」


 そのとき、足音が近づいてきた。

 トッドだ。使い込んだ革鎧の上に外套を引っかけ、片手には暗い緑の革札を持っている。


「お。トッドも緑か」


 オウルは楽しげに声をかけた。

 トッドはオウルを見て、次にオウルの首に下がった緑の革札を見た。


「……まあ、そうなるか」


「結果だけ見りゃあ、おれはもっと下だったと思うけどな」


「どうだか」


 コニーが困った顔で二人を見比べる。トッドはオウルの革札から目を離さなかった。

 そこで、後ろから声が上がった。


「待てよ」


 いつの間にか、革鎧の男がオウルの正面に立っていた。彼の首には黄等級(イエロー)が下がっている。

 誰だっけ? とオウルが考えるより先に、男の方が指を突きつけてきた。


「なんでてめえが緑なんだ?」


 オウルが「知るかよ」とあしらって男を煽るので、パーニアが横から口を挟む羽目になった。

 

「評価項目は討伐数だけではありませんから」


「討伐数の話じゃねえよ!」

 男はオウルを指さした。

「そいつ、さっきそこの広場で賭けを始めやがったんだぞ!」


「ああ、お前か!」オウルがぽんと手を打った。途端に笑顔になる。

「いやあ、あれは惜しかったな。最後で降りてりゃ、おれの勝ちだったんだが。楽しみすぎちまった」


 トッドは目を閉じた。


「……ここに来る前何してたんだよ」


「決まってんだろ。飯代を増やしてたんだよ」


「増えてねえだろ! お前も負けてたじゃねえか!」


「まあな。おかげで飯代は減ったわけだ」


「なんでそんな偉そうなんだよ!」


「おいおい、カードしたことねえのか? いつも勝てるわけねえだろ」


「だからイカサマしたんだろうが!」


「してねえ奴がいると思うか? 最後にてめえが見抜いて勝ったんだから、いいじゃねえか」


「だからそういう奴が、なんで緑だって聞いてんだ!」


 イチロクは低く唸った。


「見ろ。色分けするだけでこの有様だ。金で揉めるわ、新しい恨みまでぶら下げてくるわで」


「ちょうどいい。今ここで勝ち直すか? おれに勝ったらてめえが偉ぶれるだろ。おい、誰かカード持って――」


「やめなさい!!」


 とうとうパーニアが、空いた手で長机を叩いた。


「順番に処理します! 登録証の受け取り、等級への異議申し立て、精算は、すべて別件です!」


「じゃ、賭け金の精算を頼む」


「受け付けません!」


 オウルは声を上げて笑う。


 ただの登録証。そういうことになっていた色は、配られたその日から、すでに別の意味を持ち始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ