17.仲間を信じられるか?
「では試験場へ移動してください。三番隊は西門側の荷車へどうぞ」
見れば、荷馬車が用意されていた。御者席に、支援会の腕章をつけた職員が座っている。試験場までの誘導まで行うらしい。
四人が荷台に乗り込むと、車輪が石混じりの地面を噛み、ぎしりと音を立てて出発した。
「なあ、あんた。聞いてもいい?」
荷馬車に揺られながら、オウルは支援会の職員に話しかけた。
「残ってる入坑札は、何枚だったっけ?」
その質問を耳にしたトッドは、危うく舌打ちしかけた。
この男は平然とこういうことをする。――覚えていないはずがないのに。
馬を操る職員は前を見ながら、淡々と答えた。
「確認できているものは、十五枚ですね」
「ふうん」と、オウルは笑った。「五つの隊で、ランプを最低三つずつ回収して十五。各隊が三つずつ拾えば、最低条件は満たせるわけだな」
「はい」
「で、四つ以上拾うか、遺品も持ち帰るか、危険区域から回収すれば加点対象になる」
「その通りです」
オウルはそこで皮肉げに笑った。
「つまり、どこで拾ったことにするかだよな」
「何が言いたいんだよ」
トッドが低く唸ると、オウルは肩をすくめて全員の顔を見回した。
「発見場所の偽装競争になるって話さ」
オウルの言葉に、トッドの顔がわずかに強張る。オウルは続ける。
「ランプをどこで拾ったかなんて、どうやって証明するんだよ? 『危険区域で拾った』って言う奴とか、他の奴らのを奪おうとか、そういう連中も出てくるだろ」
オウル・ダウングリーンはいつだってそういう正論を突きつけてくる。
沈黙が落ちた中、オウルは視線を職員へ戻した。
「そこんところどうなんだ、冒険者ギルドは? 嘘をつく奴らをどうやって判定するって?」
支援会の職員は相変わらず前を見たままだったが、小さく首を傾げた。
「帰還後に、各隊の記録を照合して査定する予定だそうです。ですので……。可能なら、遺留品を持ち帰るといいんじゃないでしょうか。遺族が判断できるでしょうし」
「かったるくねえ?」と、オウルが口を挟んだ。
「嘘を吐けねえ場所に放り込んで尋問すりゃいいだろ。なあ、ジェム? 懺悔室にはそういう魔法が掛かってるだろ」
いきなり話を振られたジェムは目を瞬かせた。
「懺悔……? あ、告解室の〈真実の領域〉ですか?」
そして少し考えてから、神官らしくゆっくりと答えた。
「無理ですよ。人ひとり入るのがやっとです。それに、告解室は《生命》の神官の管轄です。そこで聞いたことは秘匿されますから、外から聞き出すことはできません」
「使うとしたら〈虚偽看破〉ですね。魔法代行を依頼するにしても、記録は必要ですが」と職員。
「まあ、そりゃそうか。でもなぁ」
オウルがポツリとつぶやいた。膝の上に肘を乗せて頬をつき、職員を見据える。
「事後報告の照合だけじゃあ限界があるだろ。冒険者ギルドの息が掛かったやつを紛れ込ませて、隊を監視してるってことはないのかよ?」
職員は淡々と答えた。
「試験内容に関わるため、お答えできません」
オウルは笑った。トッドに向かって。
「おい、どうやら向こうさんは否定してねえぞ。こりゃあ面白くなってきた」
トッドは低く唸った。「クソが。最悪だ」
監視があるかもしれないという疑念。コニーは自分の荷物を抱えなおして、不安げに視線を泳がせた。
「えと、じゃあ、誰を信じればいいんですか?」
「誰も信じるな」
トッドは吐き捨てるように答えた。
「俺たちは即席パーティーだ。新人は、自分が生き残ることだけ考えてろ」
「生き残ること、ですか」
「そうだ。お前はたぶん灯り持ちになるが、」
「は、はい」とコニーはうなずく。
「灯りを落とすな。落としたらお前は確実に《《やられる》》ぞ、ヘイスロー」
やられる、の内訳をトッドが濁したのは、今さら怖気づかれるほうが困るからだ。それでもコニー・ヘイスローは何か察したらしい。蒼白な顔でこくりと頷いた。
荷台が、黒晶山の坑道入口前で止まる。古い木柵が、坑道の黒い入口を半分塞いでいるのが見えた。
職員が荷台の後ろ板を下ろすと、急ごしらえの仲間たちが順に降り立った。
職員は荷台に置いていた木箱を探り、カンテラと地図を取り出した。
「坑道内は灯りがありませんので、カンテラを渡します。灯り役を決めてください」
そう言って、自分の一番近くにいたからだろう、コニーの腕にカンテラと油壺、地図を持たせた。
コニーは、「あ、は、はいっ」慌ててそれらを胸に抱え込む。
「また、一人は地図係を務めてください。ランプおよび遺品の回収場所を、地図に記録していただきます」
「わかりました。地図は僕が持ちます」
コニーの隣にいたジェムが、地図をひょいと手に取った。その場で地図を開いて、中身を確認し始める。
職員は、三番隊の面々をぐるりと見渡した。
「入坑前に隊長を決めておくことをお勧めします。中に入ってからでは揉めますので」
「リーダーね」
出かかった舌打ちを喉奥に押し込む。トッドはまず「別の名前」を探した。
コニー・ヘイスロー。論外である。戦闘経験に乏しいなら灯り持ちしかない。ましてゴブリン相手に、戦闘経験の浅い者を先頭へ出すなど、囮にするのと大差がない。
A.P.ジェム。見習いとはいえ《知識》の神に祈りを捧げる神官よりも正確に記録できるやつはいない。地図を持たせるのはこいつ以外にいない。
では、自分が?
ちらり、と横目でオウル・ダウングリーンを見る。オウルはもう入口を見ていた。
「……三番隊の隊長は、オウル・ダウングリーン。お前だ」
まただ。また、こいつを選んだ。自分の意思で。
これにコニーが驚いたように顔を上げ、トッドを見た。
「あの、いいんですか? あなたは、その……」
「ああ、嫌いだ」トッドはあっさり言った。
「だが、こいつの判断はいちいち的確だからな。最悪なことに」
オウルが笑った。大して面白くもなさそうに。
「終わったら祝賀会でもやろうか?」
トッドも、声だけで笑った。
「いいとも。お前抜きでな」
オウルは今度は愉快そうに笑って、改めて黒い入口の奥を覗いた。
「じゃ、行くか」
そして、市場で面白い店でも見つけたみたいに軽々しく、闇の中に足を踏み入れた。




