6.白月の塔 潜入調査_5
──バンビが意を決したように説明する。
「僕たちがここへ来たのは、“厄災”と呼ばれるエルフがどんな姿なのか確かめるためです」
エルフは少し首を傾げた。
「見ても、そんなに面白くないでしょう?」
「はい。思ったより普通の見た目だなという印象です……ところで、なぜ僕らを攻撃しないんですか? そこからでは出来ない?」
バンビが探る。
「攻撃って? どうやって?」
エルフは本当に分からないといった表情を浮かべている。
──沈黙が落ちる。
耐えきれなくなったように、サリーが声を荒げる。
「おい、お前さっきから何猫かぶってんだ! お前、“厄災”なんだろ!? 化け物なんだろ!?」
エルフは小さく目を伏せ、静かに答えた。
「はい。私も、自分が“厄災”と呼ばれ、恐ろしい存在だってことは知ってます。だから人前に出てはいけないって、父さんと母さんに教わって育ちました」
エルフの声が微かに震える。
「でも──私は、誰かを傷つけたいなんて思っていません……そんな力もありません!」
空気が張り詰めた。三人に緊張が走る。
「両親以外に、島の人間と関わったことは?」
バンビが慎重に問う。
「いいえ、無いです。ずっと人目を避けて生きてきたから……両親以外で私が関わったのは、アアラだけで──あっ!」
その名前を口にした瞬間、エルフの表情が一変する。
「アアラは!? あの子は元気!? 怪我は悪化してない!?」
「アアラ……?」
リグたちは顔を見合わせた。
バンビが記憶を探るように答える。
「確かに学園にその名前の子はいますね。狩人科の女子で、僕と同い歳の。たしか怪我をして入院中だと聞きました……」
「そう、その子! 狩人の子! 大丈夫なの? 私のせいで──」
その姿を見て、サリーが声を荒げる。
「おいエルフ! お前さ、人の心配してる場合なのか? 自分がどうなるか分かってるんだろ」
「え……?」
「もうすぐ処刑になんだぞ! 知らねぇとは言わせねぇぞ!」
エルフは小さくうなずいた。
「……はい。知ってます」
「ざまあねぇな。“厄災”のくせに、俺達の島に紛れこんでコソコソ生きてきた罰だ!」
「おいサリー! そんな言い方ないだろ!」
リグが思わず叫ぶ。
エルフはただ、悲しげに微笑んだ。
「……ごめんなさい。でももうすぐ居なくなるから。だから──許してね」
リグは胸の奥がギュッと締めつけられるのを感じた。
「ひとつだけお願いがあります。アアラに伝えて欲しいの! こんな私と仲良くしてくれてありがとう。あなたと過ごす時間は、本当に楽しかったって」
リグは何も言えなかった。
「そんな約束、守るとでも……」
バンビも戸惑う。
「私は、この島の──
エルフがまた何か言いかけたその時、牢獄の奥から声がした。
「おい! 誰と話してる!?」
三人は咄嗟に窓の下に屈んで身を隠す。
バンビが青ざめる。
「……しまった。看守がいたんだ。看守に会話を聞かれました!」
看守が急いで牢の施錠を解き、中に入る。
そして、すぐにエルフを問い詰めた。
「おい! 貴様、今誰かと会話していたな!?」
「あ、あの……」
「外に誰か居るのか?」
看守が窓の方へコツコツと近づく。
足音が次第に大きくなる。
(ダメだ……。見つかる!!)
リグがそう思った瞬間、エルフが答えた。
「あの、鷹さんとお話をしていました。うるさくしてごめんなさい」
エルフはぺこりと頭を下げる。
看守が窓の外に目を向けたその時。
塔の守り神が窓の外の空を横切っていった。
看守はしばらく疑うように窓の外を見つめた。
しかし三人は鉄格子の下の死角に居るため、発見には至らない。
「ちっ……この状況で鳥とお喋りか。薄気味悪い厄災め」
そう吐き捨てると、看守は牢を出て再び施錠をした。
バンビが声を裏返しながらもリグとサリーに告げる。
「た……助かった。リグ、サリー、早く退散しましょう」
「お、おう!」
◆
ロープを登りながら、リグは息を切らしていた。
指先の感覚が薄れ、腕は悲鳴を上げている。
上に辿り着くと、ようやく二人の声が聞こえた。
「……危なかったなー。心臓止まるかと思ったぜ」
サリーが肩で息をしながら言う。
「まったくです。もう少しで見つかるところでしたね」
バンビも額の汗を拭いながら安堵の息を漏らす。
そんな二人とは対象に、リグは黙って夜空を見上げた。
胸の奥には、どうしても拭えない疑問がこびり付いていた。
(あの子……俺たちを庇ったのか?)
看守に嘘を見抜かれたら、あの子だって危ういはずだ。それでも、嘘をついたのは──俺たちを守るため?
言い伝えられてきた“厄災”のエルフとは、あまりにも違う姿に、困惑が渦を巻く。
脳裏に浮かぶのは、月明かりの中でふわりと微笑む優しい少女の顔。
(“厄災”? あの子が? 本当に……?)
このエルフの名前は「イヴァ」と言います。
リグの言う通り、悪い子ではなさそう……
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(*´Д`*)




