4.白月の塔 潜入調査_3
「「「お、屋上!?」」」
一同は驚きの声を上げる。
「そんな、全員で声揃えて驚くことないじゃないですか。えーと、恐らくあの辺りに……」
バンビは広間を見渡す。
「あった! あれです!」
バンビの指差す方を見ると、広間の中央付近に鉄製の梯子が見えた。
◆
──リグは梯子を見上げて観察する。
「へぇー、こんなところに梯子があったのか」
「これだけの高さですからね。非常時の避難経路として必須でしょうし、建築する際にも使用していたでしょう。構成図にもしっかりとその存在が──
「おいバンビ、届かねぇ」
「……へ?」
バンビは間抜けな声を上げる。
サリーは右手を高く梯子へと伸ばして居るが、梯子の一番下の段まで手が届いていない。
よく見ると、梯子は床から2メートルほど離れた高さに設置されていた。
「何で!? これじゃ使えないじゃないすか!」
バンビは狼狽える。
「何でって俺に言われてもな……いや、待て。これよく見たら伸縮式の梯子だな」
梯子は一部分が二重に重なっており、側面から金具で固定されていた。
「あの金具を外して床まで下ろさないと登れない仕組みになってるみたいだ。どうする?」
サリーに問い掛けられると、バンビは曲げた人差し指を口元に当てて悩み始める。
「くそぅ、侵入防止策か……なかなか粋な事しますね……いいでしょう。僕がなんとかします!」
バンビは、両腕を伸ばし、手の平を梯子に向ける。
手の平が青色に発光し始めた。
「おっ、久しぶりに見るな。バンビの能力」
リグが嬉しそうに呟いた。
バンビには、島の魔術師たちでも持たない特殊な力がある。
それが──サイコキネシス。
物に触れることなく動かす“念動”の力。
重力に関係なく物体を浮かせ、引き寄せ、自在に操ることができる。
ただし、動かせるのは生き物以外に限られ、距離や重量にも限界があるが。
やがて、金具がひとりでに回転を始める。
鉄の止め具がカチャリと音を立てて外れると、重なっていた梯子の一部がゆっくりと床を目指して下降していった。
梯子が床のすれすれまで伸びたところで、バンビは小さく息を吐く。
光がふわりと宙に散り、溶けて消えた。
「ふぅ……これで登れますね!」
◆
リグたちは屋上を目指し、梯子を登り始めた。
想像以上に高い。途中で下を見下ろすと、足がすくむほどの高さだ。
冷たい風が吹き抜け、金属の音が細く共鳴した。
十分ほど登り続け、ようやくリグが先に屋上へ顔を出す。
「──着いたぞ、屋上だ!」
リグが叫ぶと、次々に仲間が登ってくる。
「うわぁーー! たっけぇー!」
サリーが歓声を上げる。
風が頬を叩き、潮の匂いを運んできた。
塔の屋上からは、月の光に照らされた島の輪郭が一望できる。街の方では、松明やランタンの灯りが点々と揺れていた。
ディンも登り切って顔を出すと、青ざめた表情で言った。
「うわぁ……ちょっと待って、高すぎない? 落ちたら死ぬだろこれ!」
サリーが背中をバンッと叩く。
「ビビんなって! 落ちやしねぇよ!」
「うわあああ! 押すなよコラァ!」
「押してねぇって!」
「ははっ! 笑わすなよお前ら」
リグは呑気な二人のやり取りに吹き出した。
最後にバンビが登り切り、全員が屋上へ到着した。
◆
バンビは構成図を広げながら、屋上を歩き回る。
「恐らく、この辺りに……あっ、リグ! こちらへ!」
呼ばれてリグが屋上の端へ向かう。
その下を覗くと、鉄格子付きの窓のようなものが見えた。
内側から、ぼんやりと明かりが漏れている。
「あれ……牢獄の明かりか?」
「はい。位置的に合っていますし、あの窓だけ鉄格子がある。牢獄で間違いないでしょう」
「てことは、この真下に居るんだな? エルフが」
リグの声に、わずかな震えが混じった。
「そうですね。窓の下に突き出た石段があるのが見えますか?」
「うん。たしかにあるな」
「あそこに立てば、中を覗けますよね?」
「えぇっ? あそこに立つ? 本気で言ってんのか?」
リグは驚愕した。
バンビの言う通り、その石段を足場にすれば鉄格子の隙間から中を覗く事は可能だろう。
しかし、石段の奥行きは50〜60cm程しかない。
まるで岩壁に立つような気分だろう。
──サリーとディンも集まり、作戦会議が始まる。
「うん。足場があるのは分かった。問題は、どうやってそこまで降りるかってことだな」
サリーが顎に手を当てる。
屋上からは数メートル離れている。ぶら下がって降りるには遠すぎる。かと言って飛び降りて足を踏み外そうものなら、命は無いだろう。
リグは想像しただけで身震いした。
「ふっふっふっ……皆さん、ご安心を。既に秘策を用意してありますから」
バンビがリュックを漁り、おもむろにロープを取り出した。
「おおっ、さすがバンビ!」
サリーが歓声を上げる。
だが、リグは屋上を見渡して首をかしげた。
「そんなの、引っ掛ける場所なんて無いぞ?」
「それは大丈夫です。何故ならこれはディンに巻きますので」
「ええーーーっ!?」
ディンの悲鳴が夜空に響いた。
「ディンはここで待機して踏ん張って下さい。僕たち三人がロープを伝ってあの足場に降りるんです」
「つまり、僕がみんなの命綱ってこと?」
「ご名答です!」
「いや、ご名答じゃなくてさ! もし耐えられなかったらどうなるの!?」
「それは、耐えてください。逆に聞きますが、ディンもあの足場に降りますか? その場合、誰がその体重を支えるんです? 重みでロープが切れたら? 足場が崩れたら? どうなります?」
畳み掛けるようなバンビの論理攻撃に、ディンはたじろいだ。
「う、うーん……たしかに……」
「ディン、これは君にしか出来ない大役です。お願いします!」
「わ、分かったよ! やればいいんでしょ! まったく……どうせ、こうなることは最初から計算済みなんだろ!」
サリーが笑いながら背中を叩く。
「ハッハッハ! 理屈でバンビに勝てるやつはいねぇよ! 頼んだぜ、ディン!」
リグも笑いながら肩を掴んだ。
「俺たちの命はお前に預けた! 頼むぞ、ディン」
「プレッシャーかけんなよぉ……」
ディンはがっくしと肩を落とした。




