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白月のエルフ  作者: 鳥部 本太郎
第三章 境界の潮風

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31.島抜け大作戦_4


 王女リンドウの突然の宣言が響く中、リグは目をぱちくりさせる。


(イヴァを……カラディア騎士団が保護する?)


「なぁ、バンビ……これって」


「はい。これはひょっとすると──奇跡が起きているかもしれません!」

 バンビがニヤリと笑う。


「あーもう、めんどくせぇなぁ!」

 ナリルが怒号を上げて、リンドウに魔法弾を放った。


 リンドウは瞬時に腰に装着した鞘から刀を抜き、呼吸すら乱さずに魔法弾を真っ二つに切り裂いた。


抜刀の閃きは雷光の如く、魔法弾は一拍遅れて床に着弾。周囲に激しい砂煙と石床の残骸を撒き散らす。


「これは、我々カラディア騎士団へ対する宣戦布告と(とら)えてよろしいか?」

 砂煙の中からリンドウがナリルを威圧する。



「くそっ! お前ら、撃て!」

 ナリルの命令に反応した弓兵の二人がリンドウに向けて弓を構える。


 その刹那、ティオが抱えていた魔道書を開いて短く詠唱した。

「炎よ、焼き払え!」


 途端に弓兵の構えていた弓が激しく燃え上がった。


「う、うわあああ!」

 弓兵の二人は慌てて弓を放り投げて尻餅を付く。


「おっしゃ! お前らは俺が相手してやるぜ!」

 アランが笑いながら背中に担いだ大きな斧を手にリグの周囲にいる兵士目掛けて走った。


「う、うわぁーー!」

 兵士達は堪らず島の反対方向へ逃げ出す。


「何だよ、逃げちまった……」

 アランは拍子抜けした様子だ。


「ナリル殿、まだ歯向かうつもりか?」

 リンドウはイヴァを庇う様に立ち、ナリルの目の前に刀を突き付ける。


「ちっ……最悪な日だ」

 ナリルは仕方なく両手を上げる。


 ──「カラディア騎士団……何て強さでしょう……」

バンビが唖然とした。



「カラディアの者! 剣を納めなさい!」


 ナリルの降伏を遮るように、門の内側から声が響いた。叫んだのは、魔動車に乗ったレミリアだった。


 レミリアが魔動車の運転席から降りると、続いて兵士が荷台から“一人の男“を担ぎながら降りる。


 兵士は門の側に担いでいた男を降ろす。

その男は、両腕を背中で縛り付けられていた。


「エルドレッド……」

 リンドウが呟く。縛られた男の名前の様だ。


「この者は、貴方達カラディア帝国から派遣された使者ですね?」

 レミリアがリンドウに問い掛ける。


「そうだな。それが何か?」


「この者の命と引き換えに、取り引きを申し出ます。一つ、翌年以降の年貢の廃止。もう一つ、我々の島の事情に一切口を挟まない事。こちらの条件は今すぐに適用させます。よって、そのエルフを早急にこちらに渡して貰います」


「…………愚かな」

 リンドウはそう呟くと、刀を鞘へ戻した。


「ははは! 遅ぇよレミリア。やっと切り札の登場ってやつだな!」


 ナリルはそそくさとレミリアの近くへ向かい、ニヤニヤしながらリンドウへ語り掛ける。


「王女様、どうか懸命なご決断をお願いしますよ。我々も出来るだけ血を流したくないもんですから」



 ──リグは驚いた表情でその様子を見つめる。


「何だよそれ……あいつら、もう人質連れてきたのか?」


「妙ですよね……いくらなんでも、対応が早過ぎる」


 そう言った瞬間、バンビはハッと気が付いた。


「さっきのナリルの発言、僕はずっと引っかかっていたんです。イヴァを縛った後、奴はこう言いました。『まったくこんな時に(・・・・・)、面倒掛けやがって』と。つまり……“人質を使って取り引き“というこの流れは、元々計画していた事なのかもしれません」



 ──「さぁ、リンドウ王女。ご決断を……」

レミリアがリンドウに決断を迫る。


 リンドウは深い溜め息を吐いた。


「私が“愚か“と言ったのは、貴様らの無知に対する(あわ)れみからだ。知らぬ様なので教えてやろう、その男は『結界師(けっかいし)』だ」


「……結界師?」


「貴様らは、我々カラディア帝国がエルピス島から無償で食料を頂いているとでも思っていたのか? 違う、我々は定期的に島へ『結界師』を送り込んで結界を張らせている。異獣(いじゅう)が島に寄り付かない様にする為だ。食料はその対価として受け取っているのだ…………なぁ? 長老殿」


 リンドウは、魔動車の横でこそこそと隠れていた長老に問い掛ける。


「長老、どういう事でしょうか?」

 レミリアが不審な目で長老を睨む。


「そ、そんなのコイツらのデマかせだ。年貢欲しさに適当な理由を付けているだけだろう!」


「ふっ、デマかせか……まあ良い、すぐに答えが出るだろう。エルドレッド、今の結界の状況は?」


「リンドウ様。私は結界の再構築を始める前に囚われました。なので、結界はいつ崩壊してもおかしくない状態です……」


「承知した。アラン、ティオ、異獣(いじゅう)に備えるぞ。恐らく群れでやって来るだろう」


「ったく、こいつらは。どこまで面倒掛けりゃ気が済むんだか……」


「はぁー、そりゃ来るわよね。祭りだか知らないけど、こんなに食べ物の匂いを撒き散らして……まるで恰好(かっこう)()だわ」

 ティオは肩をすくめ、赤い髪を揺らした。


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