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白月のエルフ  作者: 鳥部 本太郎
第三章 境界の潮風

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30.島抜け大作戦_3


「これは何の騒ぎだ? ナリル殿」


 女性の剣士がナリルに尋ねる。


「いやぁ……これはこれは、王女様。こいつは、お恥ずかしい所を見られましたな」

 ナリルは片手で後頭部をさすりながら笑う。


「……バンビ、あれってカラディア騎士団だよな?」

 リグがバンビに問いかける。


「ですね。そしてあれはカラディア帝国の王女──『リンドウ』です」



「なぜ子供達を拘束している?」

 リンドウが問う。


「いやね……こいつらは馬車に隠れてあなた達の帝国に忍び込もうとしていたんですよ。まったく無法者でしてね、捕まえてなかったら飛んだご迷惑を掛けるところでした」


 ナリルの言い訳に対し、見張り台の上からアアラが声を荒げる。


「違う! こいつらはその子を処刑する気だ! 縛られている彼らは、ただ島から逃がそうとしているだけ!」


「……処刑だと?」


 リンドウの瞳に静かな怒気がひたひたと溢れた。


「いやいや、子供の言う事をそんな簡単に信じないで下さいよ。我々がそんな事する訳が無いでしょう!」


 リンドウは、ゆっくりとイヴァへ歩み寄る。


「顔を見せろ」


 イヴァは警戒しながらも顔を上げた。


 リンドウは血の滲んだイヴァの頬を、親指でそっと(ぬぐ)う。


「可哀想に……綺麗な顔が台無しじゃないか。あの男にやられたのか?」


 リンドウの手がイヴァのケープマントに触れ、隠れていたイヴァの耳が(あら)わになる。


「リンドウ! その子、エルフだわ!」

 赤髪の魔導士の少女が声を上げた。


 リンドウは驚愕したようにイヴァを見つめた後、ナリルを睨みつけた。


「ナリル殿、一体どう言うことだ? エルフが産まれたという報告はもう百年以上も無いはずだが?」


「いや、まぁ……ちょっと色々と事情がありまして」

 ナリルが歯切れ悪く答える。


「ねぇリンドウ。処刑の話は本当かもしれない」

 赤髪の魔導士の少女が呟く。


「ティオ、詳しく説明してくれるか?」


 魔導士の少女は『ティオ』と呼ばれた。


「『(にえ)の誓い』って言ってね。この島では、エルフを処刑する恐ろしい風習があると聞いたことがある。私も、まさかとは思っていたけど……」


「はははっ! それは単なる噂話ですって」

 ナリルが笑って誤魔化す。


 ──その時、バンビが賭けに出るかのように片膝を付いて叫んだ。


「カラディア騎士団、それは事実です! この島の住人はエルフを見境も無く処刑しています!」


 慌てて兵士がバンビを取り押さえる。

それでもバンビは顔を上げて叫び続ける。


「そのエルフは心の優しい少女です! 治癒能力があり、人を救うことが出来る! それをこいつらはエルフだという理由だけで……無慈悲(むじひ)に──


 そこまで言うと、バンビは兵士に頭を押さえつけられた。


「彼の言うことは本当です! 私もその子に命を救われました!」

 アアラも必死にカラディア騎士団へ訴えかける。


「カラディア騎士団、その子を助けて! その子を……死なせたくないんだ!」

 リグも声を振り絞って叫んだ。


「み、みんな……」

 イヴァの胸が熱く震えた。


 リンドウは唇に指を置いてしばらく沈黙する。


「……アラン、どう見る?」

 

 屈強な肉体の剣士は『アラン』と呼ばれた。


「……うーん、この島の連中は何考えてるか分からんからなぁ……本当にやってもおかしくないかもしれねぇ」


「ナリル殿、説明頂きたい。あなた達は本当に罪も無いエルフを処刑しているのか?」


「ふふっ、まさか……お言葉ですが王女様。あまり島の事情に首を突っ込まないで頂けますか?」


 ナリルの目が細くなり、口元の笑みが消えた。まるで仮面を脱ぎ捨てたかのように冷酷な目でリンドウを威嚇する。


「島の事情で済む話では無いだろう。これは人命に関わる重要な問題だ」


 しばらく睨み合うナリルとリンドウ。


 やがて、リンドウは腰に付けた短剣を抜くと、イヴァの両腕を縛っていた紐を切り捨てた。


「おい……何しやがる!」

 ナリルは取り乱す。


 リンドウは、イヴァを抱き寄せながらナリルに一括した。

「この少女は、これより我々カラディア騎士団がその身を保護する!」


「えぇ……!?」

 当のイヴァも驚いたように口を開ける。


「はぁ!? ふざけんなぁ!」

 ナリルは怒りで顔が真っ赤になり、声が裏返っていた。


 しかし、(ひる)む事なくリンドウは続ける。


「加えて──あの少年達を解放しろ! 島を出るというのなら、我々カラディア帝国が迎え入れよう!」


「あーあ……また始まったよ。リンの暴走が……」

 アランは両手を上げて呟いた。


「ほんと、勝手なんだから。でも私もリンドウに賛成──女の子の顔を傷付ける奴なんて誰が信じるもんですか」

 ティオは小さく口元だけを緩めた。呆れながらも、その判断に異論はないようだった。


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