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白月のエルフ  作者: 鳥部 本太郎
第三章 境界の潮風

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24.料亭海猫_1


「うーむ……これは、悪夢か何かかのう……」


 料亭海猫(うみねこ)の厨房で、老人が頬杖をつきながら項垂れていた。


 魚を煮る甘じょっぱい匂いと、出汁の湯気がゆらゆらと立ちこめている。

 

 朝の仕込みを終えた店内には、どこかのんびりとした潮風が流れ込み、木の床板が小さくきしんだ。


 店の中央には、リグ、バンビ、サリー、ディン、イヴァの五人が、丸いテーブルを囲むように座っている。


「リグ……お前、いつかは何かしでかすとは思っておったが、まさかエルフを連れてくるとはのう……」


 イヴァは申し訳なさそうに視線を落とした。

そして、膝の上で指をぎゅっと握りしめ、膝の影に小さく身を沈める。


「だから謝ってるじゃん、ごめんって。でもな、イヴァはすっごくいい子なんだ。心配すんなよ、じいちゃん!」

 リグが慌てて反論する。


「良い子悪い子の問題ではないじゃろう……まぁええ、店に来たからには客じゃ。飯を食っていけ」


「っしゃー! 俺、海鮮丼な!」

 サリーが勢いよくガッツポーズをした。


 それを見たディンも「僕も、それ!」と手を挙げ、二人の騒がしさにバンビが苦笑を漏らす。


「うむ、今日は全員海鮮丼じゃな。今朝仕入れた魚だからな、新鮮で美味いぞ」


 祖父は立ち上がり、腰をさすりながら厨房へ戻っていく。その背を見送りながら、リグが肩をすくめて笑った。


 祖父の料理を待つ間、リグがみんなに向かって言った。


「そういえば、イヴァにちゃんと自己紹介してなかったよな」


「確かにそうですね」

 バンビが頷く。眼鏡のレンズが、厨房の明かりを反射してきらりと光る。


「あ、でもみなさんの名前、分かります! 会話を聞いていたので」

 イヴァは一人ずつ指をさしながら呼んでいく。


「リグ……バンビ……サリーさん……デーン……」


「ディンだよ! 何だよデーンって!」

 ディンがすかさずツッコミを入れる。


「あ、ごめんなさい。デン?」


「デンでもない! ディン! ディ! わざとだろ!」


 イヴァは顔を両手で挟み、赤面を隠すように俯いた。


 テーブルには笑いが広がる。


「ところでイヴァ、なんで俺だけ“さん”付けなんだ?」

 サリーが首を傾げる。


「あ、あの……年齢が離れているかと思って……」


「俺は十五だ。リグとディンも同い年だけど?」


「ええっ!? 五つくらい上かと思ってました!」


「い、五つも上に見られてたのか俺は……!」

 サリーが頬をヒクつかせた。


「はっはっはっ! サリーが老け過ぎなんだよ!」

 リグが笑う。


「うるせぇ! お前らがガキっぽ過ぎんだよ!」

 サリーはあからさまに不貞腐れる。


「あのー、僕はみなさんより一つ下ですね。十四です」

 バンビが空気をなだめるかのように手を挙げた。


「わぁー同じ! 私も十四! アアラも同い年なんだよ!」

 イヴァは嬉しそうに小さく拍手をする。

「あ、そっか! だからバンビはみんなに敬語なんだね!」


「いえ、これは癖みたいなものです。父が神父でして、小さい頃からこの話し方なんですよ。そういう家庭なんです」


「へぇー、神父さん! すごい!」

 イヴァが目を輝かせる。


(まぁ、さっき貴女に“死の宣告”をしたのがその父なんですがね……)

 バンビは心の中で呟いたが、口には出さなかった。


「イヴァ。捕まった経緯を聞かせていただけますか? アアラから転落事故の話までは聞いていますが、その後のことを。何か手掛かりがあるかもしれません」


「あ、はい。えっと……アアラが病院に運ばれたあと、私はあの魔導士の男の人に捕まったの。今日、ずっと追ってきたあの人」


「魔導士って……ナリル先生ですか!? 初対面ではなかったんですね」


「うん。じゃあ……捕まった日のことを話すね」


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