24.料亭海猫_1
「うーむ……これは、悪夢か何かかのう……」
料亭海猫の厨房で、老人が頬杖をつきながら項垂れていた。
魚を煮る甘じょっぱい匂いと、出汁の湯気がゆらゆらと立ちこめている。
朝の仕込みを終えた店内には、どこかのんびりとした潮風が流れ込み、木の床板が小さくきしんだ。
店の中央には、リグ、バンビ、サリー、ディン、イヴァの五人が、丸いテーブルを囲むように座っている。
「リグ……お前、いつかは何かしでかすとは思っておったが、まさかエルフを連れてくるとはのう……」
イヴァは申し訳なさそうに視線を落とした。
そして、膝の上で指をぎゅっと握りしめ、膝の影に小さく身を沈める。
「だから謝ってるじゃん、ごめんって。でもな、イヴァはすっごくいい子なんだ。心配すんなよ、じいちゃん!」
リグが慌てて反論する。
「良い子悪い子の問題ではないじゃろう……まぁええ、店に来たからには客じゃ。飯を食っていけ」
「っしゃー! 俺、海鮮丼な!」
サリーが勢いよくガッツポーズをした。
それを見たディンも「僕も、それ!」と手を挙げ、二人の騒がしさにバンビが苦笑を漏らす。
「うむ、今日は全員海鮮丼じゃな。今朝仕入れた魚だからな、新鮮で美味いぞ」
祖父は立ち上がり、腰をさすりながら厨房へ戻っていく。その背を見送りながら、リグが肩をすくめて笑った。
祖父の料理を待つ間、リグがみんなに向かって言った。
「そういえば、イヴァにちゃんと自己紹介してなかったよな」
「確かにそうですね」
バンビが頷く。眼鏡のレンズが、厨房の明かりを反射してきらりと光る。
「あ、でもみなさんの名前、分かります! 会話を聞いていたので」
イヴァは一人ずつ指をさしながら呼んでいく。
「リグ……バンビ……サリーさん……デーン……」
「ディンだよ! 何だよデーンって!」
ディンがすかさずツッコミを入れる。
「あ、ごめんなさい。デン?」
「デンでもない! ディン! ディ! わざとだろ!」
イヴァは顔を両手で挟み、赤面を隠すように俯いた。
テーブルには笑いが広がる。
「ところでイヴァ、なんで俺だけ“さん”付けなんだ?」
サリーが首を傾げる。
「あ、あの……年齢が離れているかと思って……」
「俺は十五だ。リグとディンも同い年だけど?」
「ええっ!? 五つくらい上かと思ってました!」
「い、五つも上に見られてたのか俺は……!」
サリーが頬をヒクつかせた。
「はっはっはっ! サリーが老け過ぎなんだよ!」
リグが笑う。
「うるせぇ! お前らがガキっぽ過ぎんだよ!」
サリーはあからさまに不貞腐れる。
「あのー、僕はみなさんより一つ下ですね。十四です」
バンビが空気をなだめるかのように手を挙げた。
「わぁー同じ! 私も十四! アアラも同い年なんだよ!」
イヴァは嬉しそうに小さく拍手をする。
「あ、そっか! だからバンビはみんなに敬語なんだね!」
「いえ、これは癖みたいなものです。父が神父でして、小さい頃からこの話し方なんですよ。そういう家庭なんです」
「へぇー、神父さん! すごい!」
イヴァが目を輝かせる。
(まぁ、さっき貴女に“死の宣告”をしたのがその父なんですがね……)
バンビは心の中で呟いたが、口には出さなかった。
「イヴァ。捕まった経緯を聞かせていただけますか? アアラから転落事故の話までは聞いていますが、その後のことを。何か手掛かりがあるかもしれません」
「あ、はい。えっと……アアラが病院に運ばれたあと、私はあの魔導士の男の人に捕まったの。今日、ずっと追ってきたあの人」
「魔導士って……ナリル先生ですか!? 初対面ではなかったんですね」
「うん。じゃあ……捕まった日のことを話すね」




