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白月のエルフ  作者: 鳥部 本太郎
第二章 禁忌に抗う者たち

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20.エルフ脱獄大作戦_9

 

 ──ナリルは魔動車を停止させ、白月の塔を見上げる。


 『眠り師』を気絶させ、衣装を強奪した犯人の意図は明確には解らない。


 ただ、わざわざ衣装を剥ぎ取って着用していた様子から『成りすまし』が目的であることは推測できる。


 加えて、魔動車が乗り捨てられていた位置からして犯人の目的地が白月の塔である事は容易に予測出来た。


(となると、狙いは──エルフだろう)

 ナリルは顎に手を当て、短く息を吐く


 その時、塔の門が開いてぞろぞろと人影が飛び出してくるのが目に入った。


 長老、案内人、兵士2人、司祭の計5人だ。


「何事だ?」


「あぁ、ナリルさん! 逃げましょう! エルフが暴走しました!」

 兵士の一人がナリルに慌てて伝える。


「はぁ? ……エルフが?」


 案内人が兵士に代わってナリルに詳しく説明する。


「儀式の際中に突然青白い煙が発生しました。眠り師様が『エルフの暴走だ!』と叫び、私達を先に逃がしたんです」


「青白い煙? なんだそれは」


「分かりません……もう一人の眠り師様が『身体が焼ける!』と叫んでおりましたので、恐らく高熱を帯びた魔術かと……」


「ふーん……下らねぇな」

 ナリルは後頭部を掻きながら(だる)そうに呟く


「え?」

案内人は言葉を失う。


「まぁいいや……とにかく、長老の身の安全を最優先とする。レミリア、長老と司祭を連れて魔動車で避難しなさい」


「分かりました。あの……ナリル様、エルフの暴走を止めるおつもりですか?」


「ん? そりゃもちろん」


「危険です! 眠り師様が対処されていますので、ここは一旦任せて──」


「そいつらは偽物だよ」


「……ええ!?」

 再びレミリアが絶句する。


「グリー、リカルド。行くぞ。奴らを捕える」

 ナリルは塔の入り口へ向かいながら、兵士たちに命じた。


「は、はい!」

 二人の兵士が慌てて後を追う。


「おい、早く出さんか!」

そそくさと魔動車に乗り込んでいた長老がレミリアを急かす。


「はい、只今!」


 レミリアが魔動車の操縦席に乗り込む。

司祭も荷台に乗り、魔動車が発進した。


 塔に入ると、ナリルが兵士に命令する。


「手分けしようか。グリー、お前はこの入り口周辺を見張ってくれ」


「はい!」


「リカルド、お前は裏門に向かえ。とにかく塔の外へ逃がさないこと。いいな?」


「裏門……水路がある広間ですね。わかりました!」


「頼んだぞ。私は最上階へ行く」


 ナリルは魔導昇降機の方へ歩き始める。


「あの、ナリルさん。奴らを見つけたら、どうしましょう?」

 リカルドが不安げに指示を仰ぐ。


「あ? 決まってるでしょ。捕まえて目的を吐かせるんだ。エルフの方は……まぁいいや、殺しちゃっても」


 冷酷なその発言に、リカルドの背筋が凍った。



  昇降機に乗り込んだナリルは水晶に手をかざして魔力を込める。


 魔力が流れ込み、昇降機が静かに上昇を始めた。

 

 だが、途中で眩暈が襲い、壁にもたれかかる。


(ちっ……まだ麻痺が抜けきれてない……)


 胸に手を当てて、治癒の魔法を発動させる。


(この麻痺は、毒性を持つ菌類(きんるい)の胞子だろう。その陳腐(ちんぷ)な発想から察するに青白い煙というのも、恐らくただの『こけおどし』に過ぎない……まったく……)


 ナリルは、ドンッ! と昇降機の壁に手の平を叩きつけた。


(舐めやがって……)


 昇降機が最上階で停止する。

 

 扉が開くと同時に、ナリルは牢獄の方へと向かった。


 中を見渡すが──エルフの姿は無い。


(ここには居ないか……廊下の扉が開いていた。と言う事は、やはり階段で下へ降りたか?)


 階段へ向かおうとしたその時、視界の隅で何かが揺れる。


(……ん?)


 牢獄の窓を見上げると、外で一本のロープが風に揺れていた。


 ナリルは窓に近づき、顔を出して外を確認する。


(鉄格子が外れてる……? しかもこのロープ、屋上まで伸びているだと?)


「……屋上に逃げたか」


 ナリルは天井を睨みつけ、低く呟いた。


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