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白月のエルフ  作者: 鳥部 本太郎
第二章 禁忌に抗う者たち

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19.エルフ脱獄大作戦_8


 ──数分前。


 リグとサリーは窓の外の足場に立ち、息を殺して慎重に中の様子を伺っていた。


 牢獄の鍵が解錠される音が響き、狐の面を付けた司祭の様な男が牢獄の中へ足を踏み入れる。


 鉄格子のボルトはすでに緩めてある。

今にも外れそうで、手を離せば鉄格子が落ちてしまいそうだ。


 反対側のサリーも同じ気持ちなのだろう。右手でしっかりと鉄格子を支えている。


「バンビの親父だな……」

サリーが小声で呟く。


 司祭は教典を読む為に下を向いているので、こちらを見上げる事は無さそうだ。それでも見知った人物が近距離にいる事で緊張感が高まる。


 司祭の後を追う様に二人の兵士が牢獄の中に入った。

エルフの存在を恐れているとはいえ、一人の少女相手に大人が三人でイヴァを取り囲む姿は不条理さと冷徹さを感じさせた。


 続いて、白い仮面とローブを纏った二人組が牢獄に入る。


 その瞬間「ブフッ!」とサリーが吹き出す。

鉄格子を支える力が一瞬弱まり、少しだけガシャンと音を鳴らした。


「おい! サリー」

 小声で叱りつける。


「す……すまん」


 叱ったものの、サリーの気持ちはわかる。

白いローブの二人はどこからどう見てもバンビとディンだ。体型に合っていない衣装がなんとも不格好で笑いそうになる。



 ──その後、司祭が偉そうに講釈を垂れると、イヴァが最期の言葉を紡ぐ。


 下を向き、その言葉に耳を向けながらリグは右手の拳を固く握る。


(大丈夫……絶対に救い出すから!)


 次の瞬間、牢獄の中に青白い煙が一気に広がった。

バンビが叫び、次々と牢獄から人影が走り去っていく。


「今だっ!」


 サリーの号令と同時に鉄格子を勢い良く引く。

緩ませておいたボルトはあっさりと外れ、力無く落下した。固定されていた鉄格子がガシャン! と音を立てて窓枠から外れる。


(よしっ!)


 鉄格子を壁に立て掛けると、リグは瞬時に窓枠に飛び移り、右手を伸ばした。


「イヴァ! 掴まれ!」


 イヴァは突然の事に驚いた様で、尻餅をついたまま壁の方へ後退(あとずさ)りしている。


「え……ええ……? 何……?」

 イヴァはリグの一声で振り返ったものの、状況が掴めずに困惑している様だ。


「大丈夫、オレを信じて! 手を掴んで!」

 リグは必死に手を伸ばす。


「は……はい!」

 イヴァは立ち上がり、そっとリグの手を握る。


 リグはまだ戸惑いの残るその手を強く握り返すと、力一杯引っ張り上げた。


 サリーも右側から手を伸ばしてイヴァの脇を掴み、力を合わせて引き上げる。


 イヴァは窓枠を乗り越え、リグとサリーのいる足場へと降り立った。


 強風が唸り、イヴァの長い髪の毛を乱舞させる。


 「う……うわぁぁ……」

イヴァは、あまりの高さに唖然としながら、両手を下に付いてしゃがみ込んだ。


「イヴァ、君を脱出させる!」

 リグは簡潔に目的を伝える。


 イヴァはリグを見上げた。


「あの、あなた達……あれからずっとここに居たの?」


「そんな訳あるかっ!」

 イヴァの天然な発言に、リグは思わずツッコんだ。


「はっはっは!」

 イヴァの身体にロープを巻き付けながらサリーが笑い声を上げる。


「イヴァ、アアラから事情は聞いてる。あの時は酷い事言って悪かった」


「え? アアラに会ったの!? アアラは大丈夫!?」


他人(ひと)の心配してる場合か! 詳しい話は後だ。今のうちに逃げるぞ!」

 サリーは軽やかにロープを登り、屋上に渡った。


「イヴァ、上から引っ張るからな! しっかり掴まってろ」


 サリーが勢いよくロープを引き上げる。


「う……うわぁぁぁぁぁ!」

イヴァが堪らず悲鳴を上げる。


 リグは下からイヴァを押し上げようとしたが、尻を触りそうになり躊躇(ちゅうちょ)する。

仕方なく足の裏を両手で支えて持ち上げた。


 イヴァがなんとか屋上まで這い上がると、サリーはロープを解き、リグへ垂らす。


「ほら、リグも早く!」


「おう!」


 リグも続いて屋上へ登った。



 イヴァは吹き抜けの縁にしゃがみ込み、遥か下の広間を見下ろしていた。


「あの……次は……ここを降りるんでしょうか?」

 恐る恐るサリーに尋ねる。


「当然!」

 サリーは即答した。


 最初に忍び込んだ時は梯子を使って屋上へ登ったが、今はその隣に一本の長いロープが垂れている。

 天然繊維で編まれた丈夫な縄で、屋上の床に打ち付けた杭にしっかり固定され、先端は広間の床まで届いていた。


 サリーはイヴァに皮の手袋とベルト状の器具を手渡す。

「これを腰に装着してくれ」


「……なんですか、これ?」


「下降機だ。この金具をロープに引っ掛けて一気に降りる」

 サリーが手際よく説明する。


 その下降機は建築作業用の器具で、サリーが学園の建築クラスから“拝借”してきたものだ。

 リグとサリーはすでに装着済み。あとはイヴァが身につけて、順に降りるだけだ。


 イヴァは震える手でベルトを巻きながら、涙目になっていた。


「イヴァ、大丈夫? 怖い?」

 リグが優しく声を掛ける。


「ちょ……ちょっと……いや、凄く怖いです……!」


「あのなぁ!」

 サリーが呆れたように声を荒げる。

「お前、さっきまで処刑されるとこだったんだぞ!? それは平気で、こっちはダメってどういう理屈だよ!」


「だって……処刑は眠ってる間に終わるって聞いてましたから! それとこれとは違うんです!」

 イヴァは泣きそうな声で反論する。


 先ほどまでの凛とした態度との落差が激しすぎて、まるで別人だ。


 サリーは深く溜め息を吐いた。


「ったく、分かった。じゃあ俺が先に降りる。イヴァはそれを見て真似すればいい」


 そう言うとサリーは金具をロープに引っ掛け、リグへ振り向いた。


「リグ、イヴァが無理そうだったら梯子を使って降りていい。ただし、梯子だと相当時間がかかる。そのぶん危険も増すからな」


「ああ、分かった」


 返答を聞くや否や、サリーはためらいなく屋上から飛び降りた。


 ──ギュイイイイ!

 金具とロープが擦れる音が屋内に響く。

 サリーの姿がみるみる小さくなっていく。


 イヴァは青ざめた顔でそれを見下ろしていた。


「イヴァ……出来そう?」

 リグが優しく声を掛ける。


「や、やります……」

 そう言って手袋をはめようとするが、手が震えてうまく入らない。

 

 息が荒くなり、やがて両手で顔を覆った。


「ごめんなさい……アアラが崖から落ちた時のことが、頭から離れなくて……」


 リグはハッとした。


(そうか……無理もない。友達が崖から落ちるのをイヴァは目の前で見たんだ。今この状況が、その悪夢を呼び戻してるんだろう)


 作戦会議の時、敵と遭遇しにくいという理由で屋上ルートを選んだ。だが、それは間違いだったのかもしれない。


 リグはそっとイヴァの背に手を添える。

「ごめん……そりゃ怖いよな。俺たち、そこまで考えてなかった。ゆっくりでいいから、梯子で──」


「はーい、そこまで。動くな」


 背後から、不意に声がした。


 続いて、規則的な靴音がゆっくりと近づいてくる。


 リグは全身を強張らせた。


 その声──忘れようとしても忘れられない。幼い日の恐怖が、鮮明に蘇るのを感じた。


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