18.エルフ脱獄大作戦_7
「では、エルフよ。我々は貴方の安らかな眠りを願い、祈りを捧げる。……最期に、言い残すことはあるか?」
司祭が静かに問う。
イヴァは目を閉じたまま、最期の言葉を噛みしめるように紡いだ。
「私は、この島のため……友人のため……両親のために、私の役目を全うします。どうぞ、お裁きください」
その言葉を聞いた瞬間、バンビの胸が爆発しそうになった。
(ふざけるな……! こんなに澄んだ子を殺していいものか! 何が“汚れた魂”だ……汚れているのはお前らのやり方じゃないか!)
バンビはサイコキネシスを発動させ、懐に忍ばせていた“白い布で巻かれた球体”を宙に浮かせた。
そして、そのままゆっくりと地面へと降ろしていく。
幸い、司祭も兵士たちも祈りに集中しており、目を閉じていた。
それが、絶好の機会となった。
誰も球体の存在に気づいていない。
球体は地面に触れると、イヴァの目の前あたりまでコロコロと転がった。
バンビは両手をギュッと握りしめる。
次の瞬間、球体が弾け、青白い煙が牢獄中に爆ぜた。
「な、何だこの煙は!?」
兵士の一人が慌てて声を上げる。
「まずい! これはエルフの暴走だ! 皆さん、逃げてください!」
バンビが叫ぶ。
「ぐうううっ! 熱い! な、何だこれは!? 身体が焼けるように熱いぞおお!」
ディンも派手に叫ぶ。(ちょっと演技が過剰すぎでは……)とバンビは内心ヒヤヒヤした。
「うわぁああっ! 逃げろおお!」
兵士たちは我先に牢獄を飛び出し、司祭も慌ててその後を追う。
バンビは牢の外に顔を出し、さらに一同を煽った。
「早く逃げないと焼け死ぬぞ! 昇降機へ走れ! 早くっ!」
兵士二人と長老は通路を駆け抜け、一目散に魔導昇降機へと飛び込む。
案内人は昇降機の前で、何が起きたのか分からずにうろたえていた。
その時、司祭が通路の途中で立ち止まり、バンビを凝視した。
「あの……君は……」
司祭が小さく呟く。
(……まずい。声でバレた?)
バンビの心臓が凍りつく。
「おい! 何してんだアンタ! 早く逃げろぉ!」
ディンが駆け寄り、司祭と案内人をまとめて昇降機の中へ押し込んだ。
(ナイスです! ディン!)
バンビは心の中でディンを称える。
「エルフはこちらでなんとかする! あんたらは早く逃げろ! 出来るだけ遠くへ!」
ディンは叫びながら扉を力いっぱい閉める。
ガシャン、と音を立てて昇降機が下降を始めた。
それを見届けると、ディンはバンビのもとへ走り寄った。
「イヴァは!?」
バンビは牢獄の中を見回す。
青白い煙が少しずつ薄れ、視界が戻る。
そこに──イヴァの姿はなかった。
まるで幻のように、忽然と消え去っていた。
「………………………」
二人は仮面を額の上にずらす。
「か……完璧だ……」
バンビが呟いた。
「やったー! 大成功! バンビ、天才!」
ディンが両手を上げて歓声を上げる。
「ディンもナイスです! 本当に助かりました!」
二人は思わずハイタッチした。
「それにしても、アイツらのあの慌てよう! 笑っちゃうね!」
ディンが堪えきれず吹き出す。
「ただの煙玉にあんなにビビるとは……傑作でしたね!」
バンビも釣られて笑った。
「さあ、イヴァはリグとサリーに任せて、僕らは下へ向かいましょう」
「アイアイサー!」
バンビは通路の途中にある扉を開けた。
ヒュウッと強い風が塔の中を吹き抜ける。
扉の先には、長い螺旋階段が遥か下方へと続いていた。
「さあ、目指すは──あの時の広間です」
「オッケー!」
二人は階段を駆け降りていく。
──途中、ふと外の景色にバンビは目を止めた。
「あれって……」
窓の向こう、空中を魔力の霧がゆらゆらと漂っている。
「魔動車……?」
車輪の軋む音が徐々に近づき、霧の中から黒い影が浮かび上がる。
間違いない、塔へと向かって魔動車が走っていた。
(まさか……もう追っ手が?)
バンビが足を止めていると、後ろから息を切らせてディンが追いつく。
「どうしたの? バンビ!」
「ディン、恐らく追っ手が来ました。とにかく広間へ急ぎましょう!」
「ええっ!?」
ディンが狼狽える中、バンビは再び勢いよく階段を駆け降りていった。




