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白月のエルフ  作者: 鳥部 本太郎
第二章 禁忌に抗う者たち

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13. エルフ脱獄大作戦_2

 

 ──カラララララ……と、金属の軋むような音が徐々に近づいてくる。


 魔動車が、確実にこちらへ向かっていた。


「アアラ、簡単に制圧の流れを説明します。まずは──これを飲んでください」


 バンビは腰にぶら下げていた竹筒を取り出し、アアラへ差し出す。


「なんだこれ?」


「いいから、早く」


 促されるまま、アアラは竹筒を受け取り、一気に中身を飲み干した。


 途端に顔をしかめる。


「ぐえっ……舌がピリピリする。何だよこれ」


「我慢してください。説明は後です」

 バンビは淡々と答え、指で山道の方を指した。


「あそこを見てください。木箱がありますね? 魔動車が近づいたら、あれに火を点けて燃やします」


 視線の先には、山道を塞ぐように置かれた大きな木箱。

 アアラが眉をひそめた。


「まさか……爆弾?」


「まさか。死人を出すつもりはありませんよ」


「良かった……でも、どうやって火を点けるの?」


「原始的ですが──」

 そう言って、バンビはリュックから太めの木の枝を取り出した。先端には布が巻かれている。


「これに火を点けて、僕が木箱に直接引火させます。ただ、ここからでは僕のサイコキネシスでも届かない。もう少し近づく必要があります」


「近づくって、どれくらい?」


「木箱まで数メートルの地点まで……その距離なら点火できます」


「危険じゃない? 見つかる可能性だってあるだろう」


 アアラの言葉に、バンビは一瞬だけ視線を落とした。


 けれど、すぐに顔を上げて言い切る。


「大丈夫です。上手くやります」


 アアラは短く息を吐くと、バンビの手から木の枝をひったくり、先端の布を解きはじめた。


「ちょっと、アアラ!? 何を──」


 制止するバンビを無視して、アアラは背中の矢筒から一本の矢を抜く。

 その先端に布を巻きつけ、さらに髪の三つ編みをほどいた紐でしっかりと固定した。


「これで私が射抜く。それなら、ここからでも点火できるでしょ?」


 その言葉に、バンビの目が輝く。


「素晴らしい案です! いけますか、アアラ!」


「任せろ!」


 力強く弓を掲げるアアラ。

 その直後、山道を見張っていたディンが叫んだ。


「ねぇ、もう来るよ!」


 確かに、魔動車の車体が木々の合間から姿を現していた。

 バンビは矢先にエルピスマツの樹脂を垂らす。


「これでよく燃えます。──準備完了ですね」


 小さな火打石を両手に握り、魔動車の位置を確かめた。

「まだ撃たないでください。もっと引きつけてからです。今は伏せて」


 三人は地面に身を沈める。

 魔動車は、砂利を巻き上げながらゆっくりと木箱へ接近していく。


 屋根のない馬車型の魔動車には、三人の姿が見えた。

 運転席には青いローブを被った男。

荷台には白いローブを纏う二人。全員が、白い丸型の仮面で顔を隠している。


「文献通りですね。白いローブの二人が眠り師。青ローブは……恐らく運転手でしょうか」


「バンビ、弓を構えていいか?」


「まだです。……もう少し」


 アアラの焦りを抑え、バンビは息を潜めた。

 やがて魔動車は木箱の二メートル手前で止まる。

 運転席の男が降り、木箱へと歩み寄った。


「アアラ、弓を構えて。合図したらすぐに撃ってください!」


 バンビの指示に、アアラは中腰の姿勢で素早く弓を構える。

 左手で弓を握り、右手で弦を引き絞る。

 その矢先に、バンビは火打石を強く打ち鳴らした。


 カチッ──

 瞬間、矢先の布が炎をまとい、ゴォッと燃え上がる。


 アアラは狙いを定め、一瞬、呼吸を止めた。

 張り詰めた空気が静止し、時間さえ止まったような静寂が訪れる。


 長い黒髪が風に揺れた。

 その一瞬を見て、バンビは思わず息を呑む。


「頑張れ……アアラ……」

 ディンが両手を握りしめ、祈るように呟いた。


 山道では、青ローブの男が木箱を覗き込み、荷台の白ローブ二人に合図を送っている。


 木箱をどかすつもりなのだろう。


「そう、想定通りです」

 この為に、大人一人では持てない大きさと重量の木箱を用意した。


 白ローブの二人がゆっくりと魔道車から降り、木箱へ歩み寄る。


「そうだ……来い!」

 バンビの目が光る。


「アアラ、今です!」


 その号令と同時に、アアラの指が弦を放った。


 矢が弾かれたように一直線に飛び、木箱へと吸い込まれる。


 次の瞬間──


 ダァンッ!


 乾いた衝撃音と共に、火矢が木箱へ突き刺さった。

 立ち尽くす三人のローブ姿。


 直後、ボンッ! と爆ぜる音。

 木箱が破裂し、薄紫色の煙幕が勢いよく噴き出す。

 濃い煙が一瞬で周囲を覆い、視界が奪われた。


 まず青ローブの男が崩れ落ち、続いて白ローブの二人もふらつきながら倒れ込む。


 バンビ一同は、しばしその光景を見つめ、言葉を失った。


「な、なんだあの煙……毒?」

 アアラが目を丸くする中、バンビは小刻みに震えていた。


「せ……成功しました!」


 その声には、確かな歓喜が滲んでいた。


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