12.エルフ脱獄大作戦_1
いよいよ脱獄編のスタートです!
白月の塔からイヴァを救うことは出来るのか。
脱獄編はバンビ目線から開始します。
(*^ω^*)
──龍神祭、当日。
空が藍色に染まり始めると、夜の余韻が少しずつ薄れていく。
早朝の冷たい空気が肌を撫で、まだ人々の目覚めぬ静寂が辺りを包んでいた。
白月の塔へ向かうには、必ず通らねばならない山道がある。
その道を見下ろせる小高い丘の上で、バンビは息を潜めていた。
(大丈夫。きっと上手くいく。エルフを脱獄させるなんて、誰も想像していない。警戒なんてしていないはずだ)
何度も頭の中で反芻してきた作戦。
自信はあった。けれど同時に失敗への恐れも拭えない。
「ねぇ、やばい……バンビ、おしっこしたい」
緊張感を一瞬で打ち砕くディンの声に、バンビは思わず眉をひそめた。
「その辺でしてくりゃいいでしょう!」
「は、はーい! 待っててね!」
ディンはそそくさと茂みの方へ駆けていく。
(やっぱり、この作戦の相棒をディンにしたのは間違いだったかもしれない……)
そんな後悔がバンビの脳裏をよぎった。
その時、背後から声がする。
「バンビ!」
振り向くと、アアラが息を切らせて立っていた。
「アアラ! 抜け出せたんですね」
「ああ、作戦会議に出られなくて悪かった」
あの日、アアラが病院を抜け出して秘密基地に現れたことで、監視の目は一層厳しくなっていた。
「仕方ありませんよ。事情を知る人間が病院を抜け出したとなれば、処刑が終わるまでは見張られるのも当然です」
「だな。けど今日は龍神祭の準備で監視がゆるかった……でも朝の検診までには戻らないと」
「検診は何時ですか?」
「七時だ」
バンビは首に下げた懐中時計を開く。針は五時十五分を指していた。
「時間的には問題ありません。ただし、アアラは塔への潜入は難しいでしょう。ここから先は僕らだけで行きます」
「……分かった。塔に着いてからは任せるよ。どうかイヴァを助けてあげて」
「あ、アアラじゃん! やっほー!」
茂みから戻ってきたディンがズボンを上げながら手を振る。
バンビは呆れ顔。
「ディン、あなたに緊張感という概念は無いんですか?」
「ご、ごめんごめん……」
しゅんと肩を落とすディンを見て、アアラはつい吹き出した。
「さて、改めて作戦を確認しましょう。アアラには詳しく説明できていませんし、ディンも復習だと思って聞いてください」
「アイアイサー!」
「了解」
「まずは二人とも、伏せてください」
バンビの指示で、アアラとディンは丘の上に身を横たえた。
顔を上げれば、山道を見下ろせる位置だ。
「もうすぐ、あの道を魔動車が通ります」
魔動車──魔力を燃料に走る車。
エルピス島では製造できず、すべてカラディア帝国からの輸入品だ。
「魔動車には大人が二人か三人乗っているはずです。その中に必ず“眠り師”と呼ばれる魔導士がいます」
「眠り師?」
聞き慣れない言葉にアアラが首をかしげた。
「はい。"贄の儀式"、つまり処刑の手順ですが──まず眠り師が白月の塔へ行き、魔法でエルフを深く眠らせます。その後、眠ったまま処刑場へ運ばれるんです」
「なるほど……じゃあ、その眠り師がイヴァを眠らせに来るってことね」
「ええ。眠らせる理由は、暴走を防ぎ、運搬を円滑にするため。そして少なからず、苦痛や恐怖を与えないための配慮でもあると思います」
「じゃあ私たちは、その眠り師を足止めするのね?」
「いえ、足止めではなく──この場で制圧します。その上で、僕とディンが眠り師になりすまして塔へ潜入します」
「えぇっ!? そんなことできるの?」
アアラは信じられないという顔で、バンビとディンを交互に見た。
「や、やるよぉ……やるしかないもん……」
ディンは不満げに唇を尖らせる。
「そう、やるしかないんです。イヴァが眠らされたら、もう救い出せません。眠り師とイヴァを“会わせないこと”が絶対条件です」
「もし会ってしまったら?」
「その時点で失敗です。イヴァを救う手立てはありません」
「………………」
不安を隠せないアアラに、バンビは静かに言葉を重ねた。
「大丈夫ですよ。策はあります」
「すごいな、バンビ……儀式のことも、眠り師のことも、自分で調べたの? 本当に、私ひとりじゃどうにもならなかったね」
アアラがバンビの横顔を見ながら呟く。
「一応、過去の文献は全部目を通しました。それに──父が残していた段取りのメモを盗み見たんです。驚くほど細かく書かれてましたよ。ふふ……父のマメな性格が、仇になるとはね」
「バンビ……頼もしいけど、恐ろしい奴ね」
「え? 今なんて?」
バンビが首を傾げるが、アアラは敢えて黙った。
その時、微かな音が耳を打った。
カララララ……と、金属が回転するような響き。
「バンビ! あれ!」
ディンが山の麓を指差す。
霧のようにきらめく光が、木々の合間を漂っていた。
魔動車が消費した魔力を霧状に噴き出しているのだ。
「来ましたね。あと数分で、ここを通過します」
三人の胸に、緊張が走った。




