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刃血鬼  作者: Omsick
六章 [四柱]血戦
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弧々逆治理の憂鬱

 刃血鬼世界、S県立病院、5階最奥の一室の引き戸が乱暴にこじ開けられた。

「うるさぁ〜い…何ぃ?今作業中なんだけど」

 白衣にタイトスカートの気怠げな女性が、座っているオフィスチェアを回す。

「隊長…まさか、あの要請を受けたんですか!?」

「君は…所属番号682、辻田(つじた)抜無(ばつな)か。私にはなるべく敬語を使わないでほしいなぁ。隊長ってのもほとんど名前だけだし」

 隊長と呼ばれた女性は、光のこもってない、死んだ魚のような目で辻田の方を見た。

「辻田が敬語で呼びたいってならいいけど。強制する気もないからね」

「そうじゃなくて…」

「要請の話だよね、知ってるー。辻田、沸血まだでしょ?じゃ行かなくていいよ」

「沸…血?」

「うん、その調子じゃ知らなそうだね。沸血ってのは要するにハイリスクハイリターンの強化技だよ。感情が昂るか、めっちゃ鍛えるかしないと覚えらんないんだ」

 女性は、オフィスチェアから立ち上がる。

「今回の要請で必要なのは、沸血が出来る戦闘メンバーだけだよ。辻田、君は他の非戦闘員とここに残って作業しといて欲しい」

「ッ…」

 歯ぎしりする辻田。まるで、役立たずと言われたかのように。

(んー…なんか、不快にさせた感じ?あっち側からの要望なんだけどな…)

 女性は困った顔で頭を掻く。

(なんか、決定的な間違いを犯したような…)

(この人…得体が知れない!抜け殻か何かなの!?目が死んでるし!)

 女性が意思の伝え方に四苦八苦する一方で、辻田も意思の受け取り方に四苦八苦してあた。

「そんな怖がんないでよ…戦闘メンバーは割と要請に乗り気だよ?」

「そんなッ…わけッ…」

「洗脳だってしてない。いや、マジで。信じて?悲しくなるから」

「じゃあなんで…あの人が…」

「ね〜、記録作業終わんないって…」

卑劣なる推理ラチオナメントディスプレツイトール!」

「うぐっ」

 辻田は無抵抗の女性に血刃を投げつけた。女性の胸元に深々と血刃が刺さる。

「痛いってぇ〜。君の刃術って確か嘘を見抜くやつでしょ?そんなに私信頼できない?」

「信用できるわけ無いでしょう!?戦いたくないとあれほど言っていた彼が…彼が…」

「全部知ってるよ。私はお見通し。その「彼」ってのは村砂(むらさ)でしょ?辻田と村砂が付き合ってることくらい私はお見通し。どう?私が何か嘘ついてるように見える?その刃術がどんなものなのか詳しくないけどさ」

 血刃が刺さったまま平然と喋る女性の問いには答えず、辻田はただひたすら、目を見開いていた。

(「凹むって、ここまで信用されてないとか。ていうかこれ痛いんだけど。いつになったらこの修羅場終わるの?」…心の中で喋り過ぎじゃない!?それに悪意が一切感じられない…じゃ、本当に…)

「読み終わった?もう抜いていい?人の脳に土足で踏み込んでくるの結構嫌なんだけど」

「あ…すみません」

 女性は血刃を慣れた手つきで引き抜き、辻田へ放り投げて返した。

「ふぅ…これで気が済んだ?」

「は、はい。全く嘘はついてませんでした…」

「おーし、じゃあ罰として…」

 辻田は唾を飲み込んだ。明らかにマッドサイエンティストの風貌の女である、何か人体実験のようなものをされるに違いないと…。


「村砂を説得してきて。私の名前出しとけばどうにかなるでしょ。そんなに行かせたくないなら、さ」

「…よろしいのですか?」

「堅苦しいのは嫌いだし、私は他人に危害を加えることに向いてないんだ。罰らしい罰も思い浮かばないしね」

 目を閉じて微笑む女性に、辻田は大粒の涙を流しながら一礼し、部屋を出ていった。

「…泣きたいのはこっちなんだけどな。もちろん、悲しい方の涙で」

 女性は背後の引き戸へ血刃を投げた。刺さった途端に引き戸がひとりでに動き出し、閉められた。

 女性は懐からスマホを取り出した。

「…あ、きょーちゃん?今暇?ちょっと慰めてくんない?」

〈ココ?もしもしの一言くらいあるでしょ!!何?また怖いとかなんとか言われた?〉

「いやもっと酷い。嘘ついてるとまで思われた」

〈あっはっはっは!ちょっと待って、しばらく話せなくなりそう…お腹痛い…〉

「やめてよ、結構本気で傷ついてんだよ?」


 女性の名前は弧々逆(ここさか)治理(ちり)。[調査隊]隊長にして、ルックスとかけ離れた性格を持つ女性。そして、性格とかけ離れた強靭な精神を持つ女性。

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