吸血…ではなく飲血
生き残った系糸達は、いつシンジュに遭遇するか分かったものではない以上、このマンションから出るには危険過ぎる。かといって5人を詰めるには狭いため、それぞれが別の部屋でしばらく過ごすことになった。
「まず血走と系糸は同室。俺と交河も同室。療病はそもそもここに住んでたわけだし一人でいいだろ」
収川が部屋を独断で振り分けたところで、系糸から横槍が入る。
「“まず”って何ですか?」
「血走と同室は嫌か?」
「そういうわけじゃ…ない、ですけど」
「…あー!なるほど!そうかそうか…系糸、そういやお前高校生だったな!はいはい…」
今度は更に療病が乱入。
(よからぬことを察知された気がする…)
「血走は、性格はアレだが――」
「はぁ!?」
「見た目はかなり美人だ」
血走の容姿について言及したことは無かったため説明しておく。一言で言うなら、「ミディアムボブの大人顔スレンダー」。かといって「お姉さん」というよりは「ボーイッシュ」のほうが雰囲気としては近い。
「オエッ…冗談でしょ?ちょっと吐いてくる」
「まぁ待て、単純な話だ。赤亡、お前は照れているんだろ?」
「は?」
普段の敬語を忘れ、思わず言葉が荒くなる系糸。
「よし療病、決めた。私があんたと寝るから、赤亡くんを一人にしよう。そしたらいつでもあんたをボコボコに出来るから」
「俺が寝込みを襲っても構わねえってのか?」
「…やっぱやめとく。赤亡くんに委ねたほうが早いや」
「えーと…じゃ、じゃあ…血走さんの部屋で…」
「おっけい。というわけで、解散っ!」
―――
一夜明け、昼。
「刃血鬼は日焼け対策しっかりしとけば焼けないよ。吸血鬼なら余程のことが無い限り確実に死ぬからね」
思い返せば、怨野は常に厚着をしていた。なぜ体育祭に出ようと思ったのかは分からないが、ともかく、練習中も常にジャージと帽子を外さなかった。
徐々に、ピースがはまっていく。軌跡を辿るようにして、系糸は考えていた。
「…怨野の目的は何だ?何で僕が…」
ふと思い浮かんだのは幸辛の顔だった。
「そういえば、僕は五亡家だったな…」
刃血鬼の名門とやらの血を引いている以上、確かに系糸には何らかの才能があるかもしれない。
(けど…)
だったらなぜもっと早く刃血鬼化させなかったのか。それこそ、知り合ったその日の夜に襲えば良かっただろうに。
「ああもう知ったこっちゃない。強くなれば会ってくれるわけだし…作戦を成功させないと、成長すらできない。目の前のことに…」
突如、系糸の視界が歪んだ。
「あ…何これ…」
「さーてと…って、赤亡くん!?」
いざ外に出ようとした血走が振り向くと、系糸が青い顔で倒れていた。
「…さては」
血走はドアを乱暴にこじ開けて外に出ていった。数分後、戻って来た血走は、2Lボトルに大量の赤い何かを詰め込んでいた。
「ひとまずこれでいいかな。ほい、飲んで」
そのボトルに入っているのが何かを悟った赤亡は冷や汗をかく。
「…え?血?」
「うん。忘れたの?赤亡くんも今は立派な刃血鬼だよ?普通は血刃から注射みたいに摂取するんだけど…短時間で満腹になりたいなら、こういうふうにボトル詰めで飲ませたほうが早いんだ」
「そ、そうなんですか…もごっ!」
口に血液のボトルをねじ込まれた。
「ゲホッゲホッ!…久しぶりに、口に物を入れた気がします」
「なんなら血液を飲んだのも初めてでしょ?前は寝てる間に、私が取ってきたやつを摂取させてたんだけど…」
「だからか…」
三ヶ月前。刃血鬼になりたての系糸は、よく食べ物の夢を見ていた。「美味そう」という感情こそあったものの、起きてから口寂しくなることなどは特に無かったのでスルーしていたが。
「つまり血液の味を感じるのはこれが初めてって事になるね。どう?味は」
「…鉄じゃない。ぶどうジュースみたいだけど…何ですかこれ」
「知らないよ、飲む人によって味が変わるんだから。ぶどうジュースだと思うならそうなんじゃない?」
「せめて吸血鬼らしくワイン味とかが良かったな…」
「…あれ、赤亡くん高校生だよね?ばんばん罪競い殺してる私が言うことでもないけど、未成年飲酒?」
「酒なんて飲んだことないですし、そういうのってビールとかじゃないんですか?」
「知らないよ今の人間の文化は。私が刃血鬼になったの五十年前だし」
「五じゅっ…ああ、そもそも人外だった」
「そうそう。赤亡くんも慣れたほうがいいよ」
「慣れたほうが…」
(慣れたら。もし慣れてしまったら…その時が、本当の、人間としての終わりじゃないのか。僕は…)
系糸は、瞬沢との戦いを思い出していた。終わった後の恍惚感は、既に人間をやめているという証ではないのか。
精神が、既に慣れ始めている証拠では無いのか。




