「それ以外に理由なんている?」
「…っ…」
「療病、面貸して」
血走が、今までにないほどドスの効いた声とともに、療病の方を掴み…殴り飛ばした。
「痛ってえな…文句あっかよ!?口外無用って言われたけど知るか!言ってやるよ系糸、てめえが死んだら怨野が[赤連]の関連人物を全員消しにかかってくるんだ!」
「え…?」
系糸が目を見開いた。
「いや、え?怨野が僕を危険な方に追いやったのに、僕が危険に遭ったら関係者を皆殺し?何がしたいんだ?」
「そんなん私も、多分団長も知らないよ。意味がわからないのは大いに賛同するけどさ…って問題はそこじゃなくて」
血走は療病を睨みつけた。
「赤亡くんが負い目を感じないようにしてたのにさ。あんたもそれは聞いたはずでしょ?」
「だったら…」
療病は、怒りを多分に含んだ疑惑の声を吐いた。
「だったらなんでこいつを戦わせたがる!?俺にはその神経がさっぱり理解出来ない!その無駄な思いやり精神は何なんだよ!」
「あんたが理解できてないとか知らない。私は私なりに赤亡くんを可愛がってたわけだけど、それとは別に赤亡くんの意思を尊重してるだけ。選択肢は与えたよ。問にしては酷かったけど」
酔闇に叩きのめされた直後に問われた際の、系糸の回答。
――他の誰かじゃなく、僕自身の手で遂行するために。
「復讐を遂行するためには強くならなきゃいけない。赤亡くんが工鳴七に拉致されたのも、酔闇にボコボコにされたのも、要は強ければ起こり得なかった。運が悪いってのもあるだろうけど…」
穏やかな声で述べた後、血走は療病の首を掴んだ。
「赤亡くんが一言「嫌だ」と言えば私達はそれ以上何もしないよ。望んでいるから尊重してるだけ。なのにあんたは自分のことばっか考えてさ…」
「だからさっきから言ってんだろ…なんでお前らはそこまで系糸に拘るんだ!」
「赤亡くんは[赤連]、そして罪狩りの一員。それ以外に理由なんている?」
「血走さん…」
系糸の目が潤んだ。
〈話は済んだか?〉
「あーゴメン団長。ちょっと馬鹿を説教してて」
〈声は全て筒抜けだ…療病、私がいない以上、回復役は君一人。血走と相性が悪いのは分かるが、少しだけ我慢してくれ〉
「チッ…あぁ分かったよ、金払いの良い“お得意様”からの頼みだ」
「言い方がいちいち癪に障るね。もう一回殴り飛ばしていい?」
「あの、そろそろどうするか決めないと…」
交河が小さいままの声で諭すように言う。
「んー…そうだね。とりあえず今私達疲労困憊だし、ボトル一杯分くらいの血液が欲しいかな。療病、このマンションって何人くらい住んでる?」
「ざっと50人程度。全部屋埋まってるわけじゃねえが、俺が食うに困らない程度の人数はいる」
「まさかと思うけど肉とか食べてないよね?」
「…た、たまに一欠片だけ貰うことが」
「一発追加するね」
マンションの一階の端に、正体不明の木の根が生えていたことを知る者は、まだ誰もいなかった。ただ一人を除いては。




