撤退戦:2
「逃げ回るばかりじゃん。君だけが撤退してどうするつもり?」
(答えるな…私が…最低でも三人は…)
「疲労困憊満身創痍の様子だけど、正気?」
「刃血鬼になったときから…正気なんてとっくに捨ててるよ!」
「…なんか、ウザくなってきたな。もうちょっと甚振りたいところだったけど、いいや。まとめて葬ってやる」
(ッ…やば!)
シンジュの毒牙が向けられたのは、系糸含む戦闘不能になった連合軍のメンバーだった。
「今だ!震奮さん!」
涙混じりの声で血走が叫ぶ。
「これで…最後だ…共鳴慄震!!!」
応えたのは、大爆発によって倒れたはずの震奮だった。地面が強く揺れ、転倒するシンジュ。
「誰だよお前は…!」
「後は…頼んだ…」
震奮は近くにあったリングに触れ、シンジュに向かって飛び出した。
(…地震によって僕を転倒させたのは分かるが、死にかけのこいつが何で僕に向かって…)
震奮は紋傷ではなく、懐からナイフを取り出して自分に刺した。
(…あいつの刃術か…!)
まだ生きていた[白虎十字軍]のメンバーから引き抜いた[爆賛會]の血刃。刺さっている者の死亡時に爆発を起こす刃術。
(こいつの傷は火傷痕、つまりこいつのダメージの主要因はあの爆発のはずだ!さっきの場所から震奮を持ってきた後、[白虎十字軍]から血刃を回収し、仕込みまでさせた!?いくらなんでも無理があるだろ!?)
シンジュの脳裏に浮かぶ敗北。自尊心の強い彼にとっては恥辱の極みである。
(仕掛けは完成した。後はここに放り込めば…)
彼女は吹っ飛ばされた後、療病と震奮、それから残った連合軍のうち最も屈強な者を回収し、[赤連]拠点前に配置。道中に幾つもリングを仕掛けておき、療病が震奮をある程度回復させたと同時にシンジュの近くに配置。収川から例の血刃を受け取って震奮に渡し、シンジュに血刃を放った。
彼女の「仕掛け」はシンジュを倒すためのものではない。窮地の罪狩り達を安全に輸送するためのものだ。
(優先すべきは赤亡くんと収川さん。最初に使うべきリングは覚えてる。後は誘導しさえすれば…っ)
突然の目眩に襲われる。彼女の身体は、負傷状態で沸血を発動し続けたうえに、特殊刃技をも維持していたことで既にボロボロであった。
(お願い…あと少し持って…)
系糸と、隣にいた収川を掴み、即座にそこでリングを生成。「仕掛け」の起点となるリングに射出した。
「行っけぇぇぇぇ!!」
「させな…チッ、速すぎる!」
空中で作った輸送路を猛スピードで駆け抜ける系糸と収川を見届け、血走は辺りを見回した。
(…あと一人…交河さんか)
血走は輸送路を経由して本陣に引き返した。
「僕を出し抜いただと?」
どんどん小さくなっていく血走を尻目に、シンジュは歯ぎしりをした。
「次に会ったら、確実に仕留めてやる」




