撤退戦:1
刹那、彼らは一斉に“敗北”の二文字を思い浮かべていた。
「草木の黙示録」
「意味わかんねえ刃術名付けやがって!アポカリプスだと?」
「この力を上手く使えば世界を終わらせる事だって出来る。意味が分からないのは君の教養不足だ」
シンジュは血刃から木の幹を生やし、上に掲げた。
「木槌…だとインパクトに欠けるな、鉄槌でいいか。それじゃあ今から君たちに鉄槌を下す」
シンジュはそう言うと、空高く伸びた一本筋の、大黒柱の如き木を思い切り振り下ろした。ただ、振り下ろした。それだけ。
(まずい、衝撃波が…!)
木の先端が地面に衝突し、遠心力によって生み出された膨大なパワーが爆発。衝突地点を爆心地とし、地が裂けていく。
(どうする!?系糸はもう戦闘には使えない!防御役も死んだ!つかこの共同作戦において単独戦闘力トップの血走が、こいつに為す術もなくやられた時点で俺等の勝ちは無い!)
衝突から衝撃波が走るまでの僅かな間に、収川は脳内で思考を重ねる。
(どうすんだあのバカ!あんな血刃1本あったところで状況は何も変わらねえだろ!自害でもするつもりか!?)
無数の思案も虚しく、収川らは横のビルに叩きつけられた。
「[死生朱雀]用の連合軍で僕に勝てると思っていたのかい?心做がいない今、この地方の罪狩り全員が束になっても僕には敵わない…って、何これ」
直後、シンジュの体を血刃が貫いた。刺突によって貫かれたのではなく、まるで弾丸のように背から腹へと突き抜けていったのだ。
「…」
シンジュが振り向いたその視線の先、遥か遠くまで何重にも重ねられたリングの奥に見えたのは。
「またかい、血走」
「まただよ、シンジュ」
他でもない、血走凶だった。
「一応、今私総指揮官なんだよ。ここで死ぬと困るんだよね、私も皆も」
「君一人出てきたところで、状態は何一つ変わらない」
「そりゃそうだよ。この「負け」が覆ることはない。だからここからは」
「ああ、そういうことか」
「「撤退戦だ」」
速走加輪はまだ発動中。血走は、残像すら残らないほどのスピードでシンジュに突っ込んだ。
「はぁ?少しは学べよ…なんでバカの一つ覚えみたいに――」
シンジュは血刃を振るうが、真上に躱される。
「…空中戦が出来ないのは厄介だけど、こっちは対空砲があるんだ」
伸ばした木から枝が伸びた。少なくとも、この大通り全域を覆えるくらいに。
「そんなのあり?」
血走は空中で驚きつつ、着実に準備を進めていた。
(あと少し…あと少し耐えれば、助けなきゃいけない人を助けられる!)
血走は今、たった一人だった。




