悲惨の追撃戦
――[死生朱雀]、本陣。
「いいか。さっきの大爆発は、あの連合軍によるものだ。さて、お前らはどうするべきだと思うか?」
[爆賛會]のメンバーが、少年たちに問いかけた。
「刃血鬼が感情で覚醒するように、お前らも感情を解放すれば強くなれる。やるべきことは奴らを倒すことじゃない、憎むことだ。憎めば憎むほど、力は強まる」
―――
「…[白虎十字軍]に変化が見えるっす」
軽装でショートヘアの女性に、収川が問いかけた。
「具体的には?」
「目が血走ってるし…なんか、全体的に、“淀んでる”んすよね」
名前は査繰 調。[調査隊]の大半がそうであるように、戦いではなく斥候としての役割が強い。
「そういや、見立てでは敵戦力300人のはずだが、現状は?」
「[死生朱雀]としての人数っすか?それなら…ざっと100人っすね。[爆賛會]と[白虎十字軍]の比率が1:4くらいと思うっす」
「で、その淀んだ集団が目ェ血走らせてこっち向かってきてんのか?バケモノの俺らが言うことじゃねえが、軽くホラーだな」
収川は銀の剣を取り出し、査繰に渡す。
「…え?」
「お前も戦え。人数が足りん」
「待つっす!あたし[調査隊]非戦闘員っすよ!?」
「そーか、そーか。じゃ報酬の1000万円は無しだな」
ピクッと、調の身体が反応した。
「今、なんて言いました?」
「1000――」
「さてと…行くっすよ収川さん。[爆賛會]、全員ぶち殺してやるっす!!」
「その意気だ」
収川は続いて、系糸の方を向く。
「なあ、系糸。どうだ?銀剣を持ってみた感想は」
「めっちゃ軽いですね」
「それは刃血鬼だからだな。お前の血刃は投擲メインだし、銀剣をメインウェポンとして使ってみてもいいかもしれねえ」
「かっこいいですけど、僕の戦闘スタイルに合わないんで無理ですね…」
両軍衝突、一分前。
「いいか、俺ら連合軍の目的は殺戮じゃねえ。[死生朱雀]の瓦解、[白虎十字軍]の無力化、[爆賛會]の壊滅だ。最悪、[白虎十字軍]は無視してもいい。とにかくその奥、[爆賛會]を追撃する」
30秒前。
「…行くぞ」
10秒前。
「突撃!!」
「捕縛血糸!」
系糸はまず左手の人差し指からの糸で一人を捕らえ、「次ィ!」と言いつつ右手の薬指から更に別の糸を伸ばし、数人の足に引っ掛けて転倒させた。
「まだ子供だってのに、銃なんて持たせないでよ。僕も大概だけどさ」
血刃と銀剣を見比べながら自嘲し、転倒させたうちの一人が持っていた拳銃を取ろうとした。
「やめろ!」
系糸の手が止まる。
「お前ら罪競いは…僕の親だけじゃなく、抵抗する手段まで奪うのか!?」
涙で顔をグシャグシャにしながら言う。その目には憎悪が籠もっていた。
「いや…そもそも僕ら罪競いじゃ――」
「嘘を付くな!…僕はお前らを倒せなくていい。皆で倒せれば、それでいいんだ!」
彼は系糸から銀剣を奪い取り、振りかざした。
「…やめろ」
「皆、」
「やめろォォォォ!!!」
「罪競いを、倒してね」
「「我らの心は、シンジュ様と共にあり」」
一緒に捕まっていた者達が一斉に何かを唱え、彼はそのまま、自らの心臓を貫いた。
(クソッ!どういう刃術か知らないけど、現代で子供に集団自決させるとか正気じゃない!しかもこの子ら、爆弾持ちだろ!?[爆賛會]はどういう思考で動いてるんだ?)
系糸は沸血を発動し、全力で範囲外へと逃走した。しかし、系糸の逃走方向は後ろではない。
(…いや、むしろチャンスだ。思うところは山ほどあるけど、これで[白虎十字軍]の意識は少しだけ爆発の方へ向く)
「収川さん、今からこっちに呼び出せる人はいますか?」
〈悪い、今んとこ黄田しかいねえ〉
「分かりました。なるべく急いでお願いします」
前方、[爆賛會]を目掛けて走っていた。
「…これで仕掛けは完了」
彼の特殊刃技は、沸血の習得時期に反し未だ判明していない。だが、この《《仕掛け》》のように、頭脳によってそれを補っていた。
「…上から行ったほうが速いか?」
系糸は数棟先のビルの屋上に血刃を投げ、ジャンプ。屋上に着地し、再び走り出した。
「なんか、忍者になった気分」
軽快にビルからビルへと飛び移りながら、先回りする方法を系糸は模索していた。
「あー…ダメだ。年季と、単純に大人と子供の能力差で追いつけない」
「系糸!」
ビルの下、後方より、系糸を呼ぶ声。
「えー…と」
「あれは黄田連。本人は強くもないけど、なんかカリスマ性がある」
カリスマ、民衆を惹きつける能力。彼の姿は特別個性が際立ったものでも無いが、会う者の心に強く刻まれる。
刃術では無い「彼が持つ何か」に、系糸も嵌まっていた。
「黄田さん!」
「加勢した。一旦降りて、私の手を掴め」
「はい!」
系糸は言われるがまま飛び降り、「うっわ全然痛くない」と刃血鬼の丈夫さに感心しながら、黄田の手を掴んだ。
「行くぞ」
黄田は血刃を背後に投げ、巨大化させた。
(巨大化?大宮のとは別物か?)
二車線分のサイズに巨大化した血刃を両足で蹴り、爆発的に加速。
「うわッ!」
「その反応だと、血走と飛行したことは無いようだな」
「共闘してないんで…ちょ速い速い!」
黄田はそのまま敵陣へ突っ込み、再び血刃を巨大化させ、水平に振るった。
「ぶった斬る」
10人ほどの身体が切り裂かれて上下に分離し、下半身からは血が噴水のように舞い上がっていた。
「突っ切るぞ」
「はい!…って、待って、これって…」
系糸の心配は当たった。
噴水ならぬ噴血を突っ切り、真っ赤になりながら系糸は遥か前方へ放り出されたのだ。
「挟み撃ちするぞ」
「言うのが遅いんですけど!?それに――」
何度か回転しながら、逃走する[爆賛會]の上を飛び越え、地面に叩きつけられた。メガネのレンズが、片方割れている。
「痛った…あーもう!何なんだあの人、雑だし荒いし」
こぼしながら系糸は、大通りの左右のビルに血刃を投げつけた。
「…一対多、それもド初心者とかほんとに運が悪いな…はぁ」
連血糸刃を作り出し、系糸は立ち上がる。
「いや、そもそも何で投げ飛ばされた?仕掛けも無駄になったし…」
残る[爆賛會]残党の前に、一人で立ちはだかる系糸。
「黄田さん、多分僕より百倍くらいは強い…決めた。無理そうなら逃げる逃げる一択!やれるだけやってやろうじゃんか!」
投石器の要領で、系糸は回している最中に連血糸刃を解除し、血刃を投げた。




