表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異能監獄記  作者: 濃支あんこ
12 終幕

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

570/571

相性

 夜宮ほおずきが、異能柄味方との共闘にあまり向いていない事は、周知の事実ではあるはずなのだが。


「なんであんたついて来たの?普通に邪魔なんだけど」

「せっかくついて来てあげた先輩に、そんな酷いことを言うなんて。ほおずきは悪い子だね」

「キモいから黙ってくんない?」


 何故だか戦いに出向く夜宮の横に、紺野がいた。


「相変わらずつれないね、君は。まあ、構わないけれど。なんと言われようと、私は君についていくだけだもの」

「そういう所が嫌なのよ。ていうか、なんの意図もなくついてきた訳じゃないでしょ」


 いくら紺野が倫理的によろしくない人物であるからといって、完全に常識が欠如している訳ではない。そうでなければ、曲がりなりにも尋問要員として、監獄に重宝されてなどいないだろう。


「勿論。いくら君が優秀であろうと、人間向き不向きというものがあるからね。それは君だってわかっているでしょう?私はそんな君を補佐するために、今ここにいる」

「……わかってるわよ」


 残念ながら、流石に紺野がこの場にいる意味を知らない訳ではないのだ。……むしろ、知っているからこそ、こうして抵抗しているのだが。


「はあ。あーもう、絶対あんたの世話になんかやってならないんだから」

「やっぱりつれないなあ、君は。まあ、そういう所が吸血姫、なんて呼ばれる所以なんだろうけれど」

「……そのあだ名いつの間にか浸透してたけど、一体誰が考えたの?ていうかあんただって、なるべく私の世話にならないようにしなさいよ」

「無論、君の足を引っ張るつもりはないよ、吸血姫」

「だからその呼び方やめてくれない?!」


 世界が終わる、だなんて荒唐無稽な非常事態だというのに。どこまで行っても調子の変わらない紺野のセリフが、余計に夜宮を苛立たせる。


『N25二名接近中、異能はそれぞれ【汚泥】と【赤糸】です。先程自爆が報告されておりますので、兆候が見られた際は無理せず退却を──』


 夜宮と紺野のやり取りに、凪仁のテレパシーが終止符を打つ。そこからほんの少しの間をおいて、今回の標的たるN配属が姿を表した。

 とはいえ、いくら強化されていようとN配属はN配属だ。監獄最強たる夜宮の敵ではない、そう思っていたのだが。


「あら?監獄最強って聞いていたのに、大したことがないのね?」

「うるさい……!」


 異能【汚泥】とやらを持つ少女とやらが、夜宮を苦戦に追い込んでいた。


「阿ヶ野……調子乗るのやめなよ」

「ちょっとぐらい良いでしょう?!私達、せっかく異能者として生まれたのに、今の今まで大した超常現象なんか引き起こせなかったんだから!最後なんだし、思いっきり楽しみたいじゃない?」


 阿ヶ野と名乗る彼女の異能【汚泥】はどうやら、N配属を戦闘員に仕立て上げた敵側の異能によって強化されているらしく。おそらく元の異能から比べ物にならないほど強化されていると思わしきそれは、先代S配属総代(ファースト)、水伐莉亜禰と似た力を持っていた。


「監獄最強は、本当にこの程度なのかしら?!」

「だから阿ヶ野やめなって」


 ぱきり、と彼女の肌に亀裂が走る。その中から、泥が溢れ出す。夜宮が放つ血液で形成された弾丸は、そのすべてが泥の中に飲み込まれ、血液にたどり着くことは叶わない。


 まるで水伐が、自らの体を水に変換することにより、夜宮の異能を無効化していたように。シンプルに、相性が最悪だった。


「さっきから黙れって言ってるでしょ?!」


 そんな彼女は、積極的に夜宮の前に身体を晒し、もう一人のN配属たる綺槍という名の少年の盾になっていた。少女に庇われるという、字面だけであれば情けない彼は、しかし射撃手として存分に役目を発揮している。

 囮役と攻撃役、役割分担をきっちりとこなすこの二人は、N配属とは思えないほど強い。


「おわっ、びっくりした!まあ、無駄なんだけど」

「〜ッ」


 阿ヶ野の身体を引き寄せて、叩き込まれた体術をもとに一撃を加えようとしても。拳が当たる箇所が泥に沈み、衝撃を殺される。その上隙ができたと言わんばかりに銃弾も叩き込まれるのだから、埒が明かない。


『ねえこれ明らかに采配ミスじゃない?!ちょっと旺架そこらへんどうなのよ?!』

『……すまない。人員を配備出来次第、交代させる』


 思わずテレパシーで苦言を呈せば、苦々しい松太郎の言葉が返ってくる。だが即座に、彼が言葉を続けた。


『だがその為にも、僕は君に紺野を同行させたんだがね』

『……やっぱりあいつを使うしかないの』

『使えるものはなんでも使うべきだろう?』

『……』


 その通りである。だがその「なんでも」があんまりにもあんまりな手段であるが故に、夜宮は抵抗し続けているだけで。


「……はあ」

「あら、考え事?そんなことをしている暇があなたにあるのかしらねぇ?!」

「……阿ヶ野……もう、言うだけ無駄かなあ」


 ため息をつけば、嬉々として阿ヶ野に煽られる。先程から淡々と彼女を宥め続けている綺槍の言葉も、夜宮は眼中にない、と言われているかのようで、本人にその気があろうとなかろうと、夜宮の平常心を崩す材料にしかならなかった。


 いくら、外的要因によって文字通り規格外に強化されたN配属が相手とはいえ。こちらだって、例の襲撃事件と、先程の対DEM戦時に支給された、異常に身体を強化するドーピング剤を投与されているのだ。

 それでも、こうして互角の戦いを演じざるを得ないほど、相性というものが作用している以上。やはり、使えるものはなんでも使わねばならないのかもしれない。このままでは、貧血というなの弾切れで、ジリ貧になるだけなのだから。


『紺野、綺槍を狙って』

『仰せの通りに、お姫様』


 だから夜宮は、N配属達と接敵した段階で、隠密を徹底させていた紺野にテレパシーで声をかけた。相変わらずのふざけた口ぶりでオーダーを受け取られるものの、遂行そのものはひどく真面目に行われる。


「──え」

「すまない。男を食う趣味はないんだが、犠牲になってくれたまえ」


 物陰に潜んでいた紺野が、夜宮に向けて拳銃を構える綺槍へと忍び寄る。その目は、夜宮とよく似た血のような赤に染まっていて。割れ物に触れるかのような手つきで、綺槍をふわりと抱きしめた。


「────────ッ?!」


 瞬間、綺槍が声にならない悲鳴をあげる。先程までの余裕ぶった表情を痛苦に染め上げて、紺野から逃れようと、手足を動かす。しかしその動きは、男の本気の抵抗とは思えないほど、ひどく弱くて、頼りない。


「綺槍?!」

「あんたの相手はこっちよ!」


 流石の阿ヶ野も、相方が突然もがき苦しみ始めたとなれば平静を保てるわけがなく。声を荒げる彼女相手に、夜宮は血液の弾丸を叩き込む。

 だがそれでも、汚泥は夜宮を阻むようで、弾丸は泥に飲み込まれる。


「……ぁ」

「ふむ、見事だ」


 一方、綺槍を抱きしめていた紺野が、不意に彼を解放する。床に崩れ落ちたその身体は、文字通り穴だらけであった。まるで、無数の棘に全身を刺し貫かれたかのように──アイアンメイデンに処されたかのように。その身体からは、一滴たりとも血はこぼれていない。

 異能【鋼鉄乙女】抱きしめた対象から血を搾り取る異能。人体を拷問器具に変換するようなそれの真骨頂は、紺野によるあまりに繊細な異能制御技術だ。


 この通り、失血死しないラインを見極め、血を搾り取る事など彼女からすれば造作もない。


「きそ」

「逃がさないわよ!」


 再び少年の名を呼んで、彼の元に駆け寄ろうとする阿ヶ野を牽制するように、夜宮は血液で作り出した弾丸を放つ──フリを、して。


「紺野!」

「わかっているとも!」


 紺野のもとに、駆け寄った。かつてないほどの満面の笑みを浮かべている彼女の存在は、あまりにも度し難いものではあるが、仕方ないと割り切って。



 夜宮は、紺野と口付けを交わした。



「……っ」


 こぽりと紺野の喉からあふれ出した【鋼鉄乙女】が搾り取った血液が、紺野から夜宮へと注がれていく。こんな状況下でなければ、バケツにでも吐血させた血液を取り込むのだが。残念ながら、そんなことを言っている暇はなかった。


「〜っ、きゃあ?!」


 ひとつ、甲高い悲鳴をあげる阿ヶ野を見れば自明であるように、キスという本来戦場とは対極に位置している行為は、戦場に混乱をもたらすが故に。


 ふたつ、紺野が搾り取った血液は、自らが手繰る血液として変換する際、異能的な消耗やロスなく変換することが可能な「極めて優れた健康的な血液」であるが故に。


「ぷはっ、あ〜気持ち悪かった!」


 悪態を吐きながら、夜宮は紺野から口元を離す。だが、これで勝利への道筋は揃った。人間一人を失血死するギリギリまで搾り取って、かつほとんどロスなく己の武器としたのだ。

 敵はN配属の小娘ただ一人、いくら相性が悪かろうと、今の夜宮からすればなんて事のない相手だ。


「た〜んまりとお返ししてやるから、覚悟しなさい」

「っ、何、を?!」


 阿ヶ野が声をあげるよりも早く、夜宮は自らが貧血にならないギリギリまで血液を体外へと放出する。嗅ぎなれた鉄臭さが周囲を支配する中、夜宮は己の泥で全てを飲み込まんとする阿ヶ野を──血液で、包み込む。


「ヒッ?!」


 生捕りがオーダーである以上、呼吸を確保するため顔は露出させたまま。阿ヶ野の全身にまとわりつかせた血液を、凝血させる。これで最早、彼女は動けない。

 ぽたり、ぽたり。血液が滴る音もしなくなった頃合いで、恐怖に涙を瞳に溜めた阿ヶ野を見下ろして、夜宮は言った。


「散々コケにしてくれたお返しよ。たっぷり味わいなさいな」

「……ッ!」


 そのまま、阿ヶ野を取り込んだ血液の塊、その内側に無数の小さな、小さな針を生成する。いくら、体の一部を泥に変化しようとも。数えるのも億劫になってしまう程の攻撃を前にしては、対応しきれまい。


 ……まあ、おそらく阿ヶ野の完全な上位互換たるあの女は、この状況からも平然と抜け出せるので、厄介だったのだが。


「……」

「はあ、やっと終わった……無駄に手こずらせやがって」


 己の異能が手応えを発する。そのまま制御権を握った阿ヶ野の血液をある程度取り込めば、彼女はパタリと意識を失った。同時に、くらりとしためまいと共に貧血を訴える己の体に、阿ヶ野を捕える為に使った血液を注ぎ込む。


「さすがは監獄最強、私の真似までできるなんて」

「うっさいわね。調子に乗ってんじゃないわよ」

「君の窮地を救ったんだから、ちょっとぐらいは構わないと思うけどね」

「……はあ」


 背後から、相変わらずにも程がある紺野の声がする。応対するのも面倒になって、夜宮はただため息だけをついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ