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異能監獄記  作者: 濃支あんこ
12 終幕

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指揮

「どう考えてもS配属レベルの大所帯にはならないのに、なんで無駄にI配属のラウンジってこんなに広いんだろ、ってずっと思ってたんだけどさ。今となっては感謝しかないかも」

「そうだねー!」


 霧丘が引き連れてきたN配属達の処遇がひと段落着いた古城涼は、誰に聞かせるでもなくそう呟く。何故か敵から相槌が返ってくることについては、この際聞かなかったことにしたかった。


「ないかも、じゃないのよ。何よこいつ?!」

「ひどーい!桐子ちゃんは桐子ちゃんだよー!」


 涼が既に諦めかけている桐子の存在に、霧丘が熱心にツッコミを入れてくれる。流石霧丘、極めて常識的な感性を持つ人物だ。だがその実直さは、彼女の前では無意味である。


「俺も詳しいことはわかんないけど、とりあえず本体じゃないよ。強いて言うなら実際に触れる幻覚、もしくはホログラム」

「は?!何その意味わかんないの?!」

「俺もそう思ってる。だからあんま気にしない方がいいよ、多分あれ、考えた方が負けだから……」

「うっわ」


 露骨に霧丘の顔が歪む。その顔にはありありと「あんたにそこまで言わせるの?」と書かれていた。そこまで言わせるのである。だからこそ、こちらとの会話に思考リソースを割かせることができてラッキー、ぐらいに捉えておくしかないのだ。


「って、桐子ちゃんのことなんかより、ちょっと聞きたいことがあって。宙溟さんと沢谷さん、どこ行ったの?一緒にいたんじゃないの?」


 避難してきたN配属達の集団に、どういう訳だか件の二人がいなかったのだ。かたや良くも悪くも影響力を持つ配属総代、かたや上峰側の薬学に通じた研究者だ。そのどちらも、可能であれば味方にいてほしい人材である。


「……なんか知らないけど、沢谷のヤツ、突然「自分にゃやらなきゃなんねえことがある」とか言い出して、飛び出してったのよ。宙溟はその巻き添え」

「は?マジで何してくれてんのあの人」


 思わず低い声が口からこぼれ落ちる。何故この後に及んで単独行動に移ろうとするのか。いやまあ、それを避けるために宙溟が巻き添えになったのだろうし、ついでに言えばあげはも彼女達について行ったのだろうが。結果がよければ全てよし、で片付くわけがない。


『ま、まあ鏡香ちゃんのことだから、全くの考えなしではないと思うよ?』

「そう言われても」

『でもちょっと、とりあえず、とりあえず俺が代理で謝っとくね!ごめん(>_<)!』

「不穏だからやめてくれない?」


 鏡香と比較的親しいであろう静に、先んじて謝罪を繰り出されると、余計不安になってしまうのだが。


「回収するのにも人手がいるって、ちゃんとわかってるのかな」

「流石に、理解した上での行いだと思いたいがね。沢谷の才女が愚行を犯してまで得なくてはならない、何らかのメリットがあるのだろう」

「お、お話し中の所すみません!その、あ、赤神さんが……!」


 涼の愚痴に、松太郎が己の見解を述べる中。引き続き【多言無揚】によるテレパシーを行使させられている少女、凪仁が無理やり話に割り込んでくる。その顔色は、明らかに悪い。


「どうしたんだい?先程の不可解な自爆らしき何か以上の問題が発生したのか?赤神や推瞳のバイタルに異常は見られないが……」

「い、いえ!そ、そのぉ……」


 松太郎に冷静に問いかけられ、凪仁が露骨に言い淀む。即座に報告しない時点で、本当の意味での最悪の事態ではないことは明白であったが、にしたってアクシデントは恐ろしい。

 しかし凪仁の行動も虚しく、アクシデントは自ら飛び込んできた。


「つ、つかれた……」

「湖上!旺架!ちょうど良いところに!今からわらわは竹渓をこの場に連行する!その為には当然S1の移動系の小娘の協力が必要じゃ、ちと借りていくぞ!」

「えっ」


 推瞳の手繰る獣に無理矢理飛び乗ったかのような体勢で、何故だか妙に疲労感を滲ませた推瞳当人と共に、赤神が現れたのだ。

 涼や松太郎もさることながら、当然、突然名前を出された沙絢も他人事ではいられなかったようで。


「……あたし、さっきめっちゃ仕事してきた後なんだけど?ちょっとは休ませてくんない?」


【仮想人格】を用いてもなお、憔悴が隠し切れない様子で沙絢が返答する。彼女の上司である涼でなくても、心の底から勘弁してくれ、と顔に書いてあるのが見て取れる有様であった。


「あの、赤神さん?竹渓って、たしか仲良くしてる職員さんだよね?その人をなんで連行するの?」

「決まっておるであろう?!何故だかあやつが【終幕(C u r t a)( i n c)(a l l)】に協力しておるからじゃ!それはわらわの役目であって、竹渓の役目ではなかろう?!」

「……うーん」


 正直、話の流れが掴めない。竹渓小路が【終幕(C u r t a)( i n c)(a l l)】の味方についていること自体は、彼が上峰の職員である以上特に疑問はないのだ。ただひたすらに、それに対する赤神の言い分と行動原理がわからないだけで。


「……あの、こじょうせんぱい。まよってるなら、ごーっていっちゃったほうが、いいとおもう。たぶん、とまんない」

「推瞳!わらわの味方をしてくれるというのか?!」

「ちがう。めいわくになりたくないだけ」


 頭を悩ませる凉に対し、げっそりとした顔の推瞳が進言する。おそらく彼は「止まんない」と思ってしまうような理由を既に見た後なのだろう。妙に疲れているのも、それが理由だと言うのならば、説明がつく。


『推瞳の言う通り、下手に暴走されるぐらいなら、こちらからお膳立てして竹渓を味方に引き込む方が有益か』

『やっぱ松太郎もそう思うよね……うん、申し訳ないけど、汀さんには働いてもらうことにするよ』


 涼と同じ結論に松太郎も至ったらしい。沙絢には悪いが、犠牲になってもらうとしよう。


「ごめん、汀さん。赤神さんを竹渓小路のところに送り届けてあげて。座標は餡条さんに特定してもらうから」

『すまん沙絢。赤神を止める労力と竹渓を味方に引き込む有益性を天秤にかけた結果、後者が勝ってしまった』


 古城側のテレパシー経由で、真意を伝えながら、表面的にも涼は沙絢に向けて指示を出す。案の定、沙絢は露骨に顔を顰めていた。


「うっわマジで言ってる?いくら特権階級だからって人使い荒すぎでしょ。まっ、そんだけあたしが優秀ってことよね〜」

『かしこまりました。ですが、寵愛残量の都合でそろそろ【御使降臨(オーバークロック)】を必要とするかもしれないことは留意していただきたいです』


 口ではこちらを罵倒し、嫌々といった素振りを崩さずに。しかしテレパシーでは必要な情報だけをしっかりと涼に伝えて。彼女が古城のエージェントとして重宝される所以をこれでもかと見せつけながら、沙絢は赤神の方へと向く。


「ほらクソガキ、連れてってやるから早くあたしに掴まりなさい」

「クソガキ……?!今偉大なる赤き神の御子たるわらわのことを、餓鬼と言ったのか?!」

「事実に狼狽してんじゃねえよクソガキ、早くしないとおいてくけど〜?」

「……ふん、わらわに舐めた口をきいた事、いつか後悔させてやる」


 汀心園として定めた【仮想人格(ペルソナ)】によるキャラクター的に仕方がないのだろう、赤神を煽るような口振りで、沙絢は赤神に声をかける。当然神経を逆撫でられた赤神が吠えるも、今回に限っては赤神の方が立場が弱い。故に渋々と沙絢の肩に掴まった。


「振り落とされんなよ!」


 そのまま、沙絢が己の異能【通抜】と限定拝受(リステクション)を併用して、赤神と共にこの場から立ち去った。そんな彼女を見送った後、涼は先程の赤神と推瞳による対N配属戦闘を思い出す。


 一見すれば、【悪魔】が絡んでいる割に、とでも言いたくなるような結果ではあった。しかし元を思えば、十分な脅威ではあるのだ。

 何せ彼らは数時間前まで拳銃すら握ったことがなかった、ただの人間なのだ。そんな彼らが、戦闘訓練を積んでいるS配属相手に「戦い」を成立させられる時点で、やはり【悪魔】は恐ろしい。


「麗。君は先程の不可解な自爆らしきものについて、心当たりはあるかい?」

『それ、俺も気になってた』

「あー、あれ?」


 涼が思索の海に沈んでいると、松太郎と静に声をかけられる。そういえば、死体の肉片すら残らぬあの現象は、見慣れない人からすれば、異様なものであったのだと思い出す。


「あれは多分、【悪魔】に文字通り全部捧げた結果だよ。創作上の悪魔は魂を対価にするけど、この世界における【悪魔】は真の意味で全てを対価として受け取るからね。全てを使って自爆した結果、死体すらも対価として徴収されたから、何も残らなかった、って所じゃないかな」


 要は古城の言う「リソース」の実態である。我ながらえげつないと思うし、ある意味上峰の研究所以上に悪質だとは思うものの。罪悪感を抱くには遅すぎた仕組みを、涼は淡々と語った。


「……なるほど、悍ましいな」

『正気?』


 口では非難しつつも、眉根一つ動かさないあたり、流石は上峰家の次期当主と言うべきか。冷静に受けと止める松太郎とは異なり、静は率直な感想をこぼしたのが対照的であった。


「えー?!そんなひどいこと言わないでよー!みーんなが頑張ってくれてる証なのにー!」

「今のはわざとでしょ」


 そんな二人を責め立てるように、倫理に反した文句を、さも本意かのように口にする桐子を、涼は直感で否定する。すると、桐子はひどく楽しそうに、にんまりと口角を釣り上げた。


「……ふうん、おねーちゃんの中で、桐子ちゃんはそうなんだね」

「何その意味深な言葉は。もっとはっきり言ってよ」

「やだ!」


 きゃっきゃ、と桐子は楽しげに声を上げる。世界を敵に回した女とは思えない、無邪気さであった。

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