721 足をひっぱる
「び、びびってんじゃねぇぞテメエらッ!!撃てッ、撃てぇーーーッ!!」
威圧的に窓を赤く光らせる隠れ家......もといヒドゥン・インヘリターに対峙して、バーデンガジューは冷静ではいられなかった。
部下達に命じたのは、攻撃の継続。
冷静でいられなかったのは部下達も同じであり、半狂乱になりながら魔導銃を撃ちまくった!
彼らの狙いは、ヒドゥン・インヘリターであるが......当然狙いが外れることもある。
それらは流れ弾となって......エミー達を襲った!
「あ、ひッ!?」
今も、四つん這いになって立ち上がろうとしたダラケルスの頬を、魔導銃の弾丸がかすめて薄く傷跡を作った!
「おい、おいおいおいッ!『土よ、動いて穴となれ!【スモールピット】!』
ダラケルスは真っ青な顔で震えながら呪文を詠唱すると、魔法で落とし穴を作成!
人一人が、しゃがめば身を隠せるほどの、小さな落とし穴だ。
ダラケルスはその中に飛び込み、身を隠そうとして......。
「待てッ!!その穴はッ!!私にッ!!寄こせーーーッ!!」
撃たれまいと必死の、鬼の形相になったフレットに後ろから抱きとめられた!
「私はッ!!死にたくないッ!!こんなッ......何もッ、成せないままにッ!!私は栄光を手に入れるんだッ!!」
「う、うおーーーッ!?わけわかんねぇこと、喚いてんじゃねぇッ!!穴に入るのは、テメエが死んだ後にしろよーーーッ!!」
魔導銃の弾丸飛び交う死地にあっても、この二人は相変わらず押し合いへし合い、胸倉を掴み合ってもめた!
そんな、戦場TPOをわきまえない行動をしているものだから......。
ビュンッ!!
「「うひゃあッ!?」
ほぼ同時に流れ弾が飛んできて二人の腕をかすり、二人は抱き合って驚いた後、すぐさま弾除けのため地面に転がった!
「『土よ、動いて壁となれ!【スモールウォール】!』
ダラケルスはとっさに、次の詠唱を唱えた。
するとモコモコと土が盛り上がり......彼の膝上程の高さの、頼りない土壁が形成される。
ダラケルスはゴロゴロと転がってその土壁にぴったりとはりつき、脱力した。
フレットも必死になって匍匐前進し、ダラケルスと共に土壁に身を隠した。
「畜生!もう、からっけつだぞ、おい......吐きそ、おえッ」
ダラケルスはもはや、青い顔で息も絶え絶えといった様子。
彼はもともと保有している魔力量が少ないので、下級魔法と言えど、連続使用は体に負担がかかるのだ。
「ふーーー......ふーーー......」
ダラケルスは二度、大きく息を吐いて......ぐったりと力を抜き、目を閉じた。
「くそッ!!くそくそくそッ!!」
一方のフレットだが、こちらは荒い息を吐きながらも未だ悪態をつくだけの体力があった。
頼りない土壁に隠れながら上を見上げれば、パン、パンという激しい音と共に魔導銃の弾丸が隠れ家に向かって飛んでいく。
「やめろッ!!物の価値をわからない愚か者共がッ!!それは私のものだぞッ!?」
慌てて喚きながら隠れ家の方に向けて体を転がす。
大切な、将来の栄光への足掛かり......憎き弟への、逆転の一手。
そんなギャシキヌーの隠れ家が、無事かどうか。
気になって仕方がなかった。
「あッ!?」
しかし、そんな隠れ家よりも前に、フレットの目を引いたものがあった。
それは、エミーだ。
この不吉な色合いの美少女は、周囲を弾丸が飛び交っているのにも関わらず、草原の上に無表情のまま棒立ちだ。
そんな彼女に、流れ弾が迫る。
魔導銃の弾丸は魔力により形成されており、発光している。
だから、よく見える。
「あッ......!!」
フレットの心臓が痛いほど高鳴り、主観的な時間の流れが遅滞する。
名も知らぬ荒くれが放った弾丸は、棒立ちの少女の後頭部へと、吸い込まれるように進み......。
パアンと、弾けた。
少女の頭が、ではなく。
弾丸の方が。
エミーは、無傷!
「なんでッ!?」
その後、何発も弾丸はエミーの体に命中していたが、彼女はそれを、まるで意に介していなかった!
普通、魔導銃で撃たれれば、人の肉体は耐え切れず、弾けて死ぬのに!
己の常識を覆す光景を見せつけられ、フレットは思わず頭を抱えた!
『エネルギー、充填完了』
しかし、その時だ。
フレットの耳に、再び冷たい機械の音声が届く。
はっと息をのみ、隠れ家を......ヒドゥン・インヘリターを見れば。
そのキノコの傘のような屋根から飛び出た煙突が......煙突だと思っていた、突起が。
ガシャン、ガシャンと音を立てながら変形し、その攻撃性を隠しもしない魔導砲の砲身へと姿を変えているではないか!
『【黄色魔導光球】発射まで、5、4、3......』
その砲身の先端に集まる黄色の光が、カウントダウンと共に強くなっていく!
「............」
その様を見て、エミーは無表情のままため息をついた。
彼女はこの時点で、諦めたのだ。
生きることを?
もちろん、違う。
『森の中の素敵なおうち』を、手に入れることを。
エミーはいつだって、自分の命以外の色々なものを諦めてきた。
故に、“諦めの技術”とでもいうべきスキルが、熟達している。
粘るべきか諦めるべきか......その判断が、早いのだ。
判断の早さと正確さは、厳しい旅路を歩む彼女にとっては、美徳である。
残念では、ある。
手に入るかと思った、安穏とした生活。
それを自ら、殴り壊さなくてはならないとは。
しかし、エミーは諦めた。
安らぎを求める柔な心をを殺意で覆い、破壊衝動に身を委ねることで、躊躇したくなる気持ちを押し込める。
「【黒腕】」
エミーは一言、そうつぶやくと......己の右肩から巨大で威圧的などす黒い腕を、“生やした”。
そしてその腕の、ゴツゴツとした拳を強く握りしめ、大きく振りかぶる。
撃たれる前に、殴り壊す。
先手必勝......しかし!
「やめろーーーーーーッ!!」
それを止める人間がいた。
フレットだ!
欲に目のくらんだこの男は、エミーとは違いこの期に及んでまだ、諦めることができていなかった。
彼にとって、あの隠れ家は......再起への象徴!
壊させるわけには、いかなかった。
フレットは衝動的にエミーに駆け寄り、彼女に飛びついた。
それはエミーが【黒腕】の拳を放った瞬間と、ほぼ同時!
まさか、流れ弾に当たる可能性も厭わずフレットが自分に飛びつき妨害してくるなんて、エミーは想像だにしていなかった。
ダラケルスの無詠唱【クラック】に引き続き、本日二度目の予想外!
強靭なれども、成人男性と比べるとまだまだ小さく軽いエミーの体は、フレットの突撃を受けて、少しよろめいた。
【黒腕】の軌跡が、かすかにずれる。
まっすぐに、隠れ家の二階部分を打ち抜くはずだったどす黒い拳はその狙いを外し、二階の右壁面を、抉った!
『発射』
そしてそれと同時に、ヒドゥン・インヘリターの【黄色魔導光球】が打ち出された!
【黄色魔導光球】は、着弾と共に魔導爆発を引き起こす。
ヒドゥン・インヘリターは、効率的に一撃で敵を殲滅するため、その着弾箇所をドンゴズゴズ会の連中の立ち位置、そしてエミー達のいる場所のちょうど中間地点に設定していた。
その地点で爆発が起きれば、ちょうど周囲の敵性存在を巻き込み、一網打尽にできる。
そう計算していた。
しかし、エミーの【黒腕】の一撃で、【黄色魔導光球】の軌道が、ずれた!
具体的には、ヒドゥン・インヘリターは少しばかりのけぞってしまったため、着弾地点は目標よりも少し遠く......ちょうど、ドンゴズゴズ会の連中の斜め後ろあたりに変更されてしまい......。
「「「「「ぐわあーーーーーーッ!?」」」」」
その爆発による被害は、ドンゴズゴズ会のみが被ることとなった!
黒服に身を包んだドンゴズゴズ会構成員たちは爆風により吹き飛び、頭からズボズボと地面に突き刺さった!
この世界の人間は無意識に【身体強化】を使用できることから丈夫であり、地面の状況によってはこのようにギャグマンガめいた現象が発生する!
しかし見た目はともかく、間違いなくダメージは重篤......バーデンガジューを含め、彼らの生死は不明だ......!
『敵性存在殲滅の失敗を確認。攻撃を継続します』
魔導爆発による被害を免れたエミー達だが、ヒドゥン・インヘリターは止まらない。
攻撃続行を宣言した後、ヒドゥン・インヘリターは......ガゴン、ガゴンと音を立てながら壁面を変形させ、二本の腕を作り出した。
その先端は円錐状に尖っており......甲高い音を立てながら、高速で回転している!
つまり、ドリルだ!
【スモールピット】と【スモールウォール】
どちらも初出の魔法だが、これらの魔法の上級版は第12章で変態ジジイことアースセルが使用している。
【黄色魔導光球】
第20章にて、天空王国において使用されていた魔導兵器。
神々の思惑的には、天空王国以外に広まっては困る技術だが、ギャシキヌーは得られた情報からこっそりとこの兵器を再現し、ヒドゥン・インヘリターに装備させた。




