599 goodbye 大魔導
「な、何をッ!?何をするのじゃ、エミーッ!?」
私の【黒触手】に持ちあげられ、ジタバタと無駄に慌てながら先生が叫ぶ。
大きな胸、少ない布地、そして私の触手があわさり、なんか凄くエロい感じになっているけど、詳細な描写は省く!
「『何をする』?簡単な話」
私は転移魔法陣を避けふわりと床に着地すると、触手を動かして先生を運び始めた。
ゆっくり、慎重にね。
人体は脆いから。
魔導義体も、極端に頑丈であるというわけでは、なさそうだし。
気を抜くとすぐに潰しちゃうから。
運ぶ先に、あるのは。
紫色の光を放出し続ける、転移魔法陣。
......うん。
「転移するのは、私じゃない。先生で、あるべき」
一人しか、転移できないのならば。
私はここに、残るから。
ドオンッ!!
この制御室の出入り口の扉の奥から、破壊音が響いた。
またしても、汚泥に隔壁が破られたのだ。
その音、大分こちらに近づいてきた。
あれがこの部屋に雪崩れこんでくるのも、時間の問題だ。
「それは、いかんぞエミー!馬鹿なことを、言うのではないのじゃッ!」
「馬鹿なこと、言っているのは、先生」
空中でジタバタ暴れながら、先生は叫ぶ。
でもね、私の決意は固いよ。
「食糧食べたのも、魔石壊したのも、全部私。全部、私が悪い。きっと、あの汚泥が湧いたのも、私のせい。私は呪い子だから」
「......!!それは」
「だから、私が残る。先生は、逃げて」
「違うのじゃ、エミーッ!!おそらく、あの汚泥はッ......!!」
ドオンッ!!
またしても隔壁が破られた音が響く。
部屋が、ビリビリと震える。
もはや、一刻の猶予もなし!
「じゃあね、先生。一月一緒にいて......楽しかった」
私は先生を転移魔法陣の上に浮かばせると。
先生が痛くないように、そっと......触手をほどいた。
トンと、先生の体が魔法陣の上に落ちる。
魔法陣から発せられる光が強くなり、部屋中が紫色に染まる!
「“またね”!」
私からの、最後のお別れの言葉を聞いて。
先生は驚いて、目を丸くして。
......そうしてから、紫色の光に包まれて。
次の瞬間には、この部屋から姿を消した。
「............」
制御室の中が、再び薄暗くなる。
魔法陣の光はすっかり消えて、辺りを照らすのは頼りない非常灯。
試しに転移魔法陣の上に立ってみるけど、もはや何も起こらない。
この魔法陣は、きっともう壊れちゃったんだろう。
......とにかくこれで、いつも通り。
私は、独りだ。
<私だって、いますーーーッ!!>
えへへ、ごめんねオマケ様。
わかってるって。
ドオオンッ!!
......さてさて、うるさいね。
また、隔壁が破られた。
多分、次だ。
次の隔壁が、最後の砦。
次が破られれば、汚泥はこの部屋に入ってくる。
<さて、ここからどうするんですか、エミー?>
オマケ様が、私にそう問いかける。
......あれ、全然慌てていないね、オマケ様?
<だってエミー、マジュローグに“またね”って言ってましたし。死ぬ気は、ないのでしょう?>
そりゃあ、もちろん。
私にとって一番大切な物。
それは、私の命。
助かる見込みがないのなら、私は先生の意思を尊重して、さっき転移していたよ。
......多分。
<では、どのようにして汚泥の包囲から、逃れましょうか>
それは、簡単なことだよ、オマケ様。
実は......途中でこの方法には、気づいていたんだ。
その時点でやったら先生が死ぬから、やらなかったけど。
大丈夫、大丈夫。
いつも通り、やるだけ。
<......『いつも通り』、とは?>
訝し気に疑問を呈するオマケ様の言葉を聞き流しながら、私は再度【黒触手】を、残った巨大魔石の欠片に突き刺した。
そして、勢いよく魔力を吸う。
極力、今のうちに、できる限り、魔力を補充しておく。
「ごふ」
口から血があふれる。
<エミー!無理をしないでください!>
ごめんね、オマケ様。
今は少しでも、魔力を増やしておきたいんだ。
......仄かに黄色く輝いていた巨大魔石の欠片の光が、急速に消え去っていく。
転移にも、大分魔力が使われたらしい。
現在、ほとんどこの魔石の中に、魔力は残っていなかったみたい。
魔力を吸いつくし、魔石をすっからかんにしたところで、【黒触手】を引き抜いて、消す。
ドオオオオオンッ!!!
と、ここで。
最後の隔壁が、破られた。
タイムリミットだ!
制御室の扉を吹き飛ばし、濁流のような勢いで、汚泥が室内に侵入してきた!
<で、で、でッ!?結局何を、どうするつもりですかエミーッ!?>
あのね、オマケ様。
私がここから逃げることを阻んでいたのは、結局のところ、この汚泥ではないんだよ。
<はあッ!?>
私がこのデレネーゾ大監獄から逃げられなかったのは、結局のところ、デレネーゾ大監獄のせい。
デレネーゾ大監獄がこの施設の壁だの床だのに施していた、今の私でも破壊不可能な、結界処置のせいだ。
だけど今、この施設の結界は、すっかり消え去っている。
<ま、まさかッ!?つまりッ!!>
そう、つまりッ!!
この、デレネーゾ大監獄ッ!!
今なら強行突破で......逃げることが可能ッ!!
「らあああああーーーーーーッ!!」
私は、魔力を使って自らの足を動かし......私の方へと流れこんでくる汚泥に向かって駆けだした!
次いで、水泳の飛びこみのように、跳躍!
そのまま空中で体を捻り、ドリルのようにくるくると高速回転をしながら......全身を【黒触手】で覆い......円錐のような形状を作り出した!
そして!
後方から魔力をジェット噴射!
汚泥だの、大監獄の壁だのを全てぶち破り、外に出るための......突撃を開始した!
「脱獄ッ!!だあああああーーーーーーッ!!!」




