598 the beginning of the collapse of the 大監獄
私の触手に流れこんだ大量の魔力......【魔力視】に頼らずとも黄色く輝いて見えるそれは、勢いよく、まるで濁流のように私の中のどこか......きっと魂へと、注ぎこまれていく!
「あああ......ああああああ!」
カラカラに乾いていた魂が潤い、満たされていく!
凄まじいまでの快楽!
私は思わず恍惚として、声を漏らした!
もっと......!
もっと、欲しい!
この程度では......全く足りないッ!
私は無意識の内に【黒触手】を追加で何本も生み出しては、それを次々に巨大魔石へと突き刺していく。
流入する魔力量が、どんどん増えていく。
私が、満たされていく!
「エミーッ!!落ち着くのじゃッ!!」
しかし、その時だ。
泣きそうな声と共に、柔らかな感触が私の背中を覆い......魔力吸収の快楽に溺れ、理性を失いかけていた私は......はっと我を取り戻した。
先生だ。
先生が後ろから私を抱きしめて、必死になって叫んでいる。
「手綱を握るのじゃッ!!しっかりと、意識を保てッ!!魔力を制御せよッ!!」
「......!!」
私はその言葉ですっかり目を覚まし、口から零れ落ちる水気を拳でゴシゴシとぬぐった。
そしてふと、その手を見れば......快楽のあまり零れたよだれと思いきや、その水気。
正体は真っ赤な、私の血だ。
<マジュローグの言う通り、落ち着いてくださいエミー!あなたは、魔力中り......即ち魔力の吸い過ぎで死ぬことは、ありません......ですが!慣れない方法での魔力吸収は、肉体に多大なダメージをもたらします!>
オマケ様も、先生と同じく、必死になって叫んでいた。
快楽に目がくらみ耳を塞がれ、私にはその声すらも、届いていなかった。
「大丈夫......もう、大丈夫」
私は、ぎゅっと絡まる先生の白い腕を丁寧にほどくと、パンと自らの頬をはり......立ちあがった。
体中に、魔力が満ちている。
魔力を操作することで、弱り切った肉体を制御する。
そして次にやるべきは、触手から流れこむ魔力流の制御だ。
全くもって、この魔力吸収用【黒触手】の機能は、有能だ。
魔力を吸収することに、何の抵抗も感じない。
ただ、『吸おう』と思えば。
少しの魔力消費で、多大な量の魔力を取りこむことができる。
魔力収支は、大幅にプラス。
実にスムーズ。
まるで、息を吸うように。
“本能に刻まれた行動であるかのように”。
スムーズに魔力を吸収できる。
でも、慣れないうちからの、大量吸収は危険。
身をもって知った。
<............そうです、エミー。まずはゆっくりと、体を慣らすことです。ゆくゆくは、あなた“も”きっと十全に、その技を使いこなせるようになりましょう。今はまだ、少しずつ、ですよ......>
なだめるような落ち着いた声で紡がれるオマケ様の声を聞きながら、私は深く息を吐いて、私に流れこむ魔力の量を、少しずつ絞り始めた。
触手を経由して私に注がれる光り輝く魔力が、徐々に減り始める。
しかし、まだまだ私の魂が魔力を欲しているのは、事実だ。
ゆっくり、さっきよりは少しずつ、でも確実に、魔力を吸収し続ける。
「エミーよ。頭痛、めまい、吐き気等の症状が出れば、それは魔力中りの兆候なのじゃ。その場合には、即刻魔力吸収を中止せよ」
先生が強張った声で、心配そうにそう注意を言うけど。
大丈夫、全然そんな兆候はない。
気にせずに、魔力を吸い続ける。
「......あれ?まだ、なんともないのかのう?」
とまどう先生の声に、頷いて返答。
「......なんという、巨大な魂なのじゃ......!?まさか......許容量に制限がない?いや、そんなはずは......!?」
そんな私の様子を見て、先生は後ろで何やらブツブツ言っていたけど......。
私は魔力制御に手いっぱいだ。
気にしている余裕がない。
「ぐ、うッ!!」
今も、少しのミスをした。
大量の魔力が、再び一斉に流れこんでくる。
魂はその快楽に震え、肉体は悲鳴をあげ血反吐を吐き出す!
そんなわけで。
必死だった私は、全く気づいていなかった。
私が【黒触手】を突き立て、魔力を吸い取っている巨大魔石に入った、小さなヒビが......。
徐々に、大きくなって、いることに。
「むッ!?」
だから、まずそのことに気づいたのは、先生だった。
「エミーッ!!魔力の吸収を中止するのじゃ!魔力流の勢いが、強すぎる!このままでは......」
そしてそう、注意を行った。
でもその注意、ほんの数秒、遅かった。
だって、先生がその言葉を、言い切る前に。
次の瞬間には。
パキイイイインッ、と。
甲高い音を、鳴らしながら。
巨大魔石の上半分が......砕け散り、吹き飛んでしまったんだから。
それと同時に、制御室を照らしていた魔灯がパチパチと点滅してから、すっかり消え去り......代わりに弱々しい非常灯が点灯する。
さらに、ふっと。
“何らかの気配”が、消えた。
その気配、私がこのデレネーゾ大監獄に来てからずっと、実に自然に周囲にあふれていて、“なくなったその瞬間に、あったことに気づいた”という感じなんだけど。
動力源たる巨大魔石が砕けて消える気配。
つまり、それは。
この大監獄を守る......結界の気配だ。
結界が、消え去ってしまったんだ。
ドオンッ、ドオオンッ!!
「「!!」」
そして、その気配が消え去った途端に聞こえて来た轟音!
それはビリビリと私たちがいる制御室を震えさせ、断続的に響き続ける。
さらにはその轟音は、どんどん大きくなっている。
音の発生源が、近づいている!
<“幸福なる汚泥”コルマリャが......活動を再開しましたか!>
つまりは、そういうことだ。
この音は、結界が消え去りただの壁と化した隔壁を、あの汚泥が破壊している音なんだ。
私たちを......泥沼にひきずりこんで、取りこむために。
「............」
とりあえず私は、半分になってしまった巨大魔石から【黒触手】を引き抜き、魔力吸収を中止する。
でも、もはやどうにもならない。
残った巨大魔石は未だに黄色い光を発しているから、魔力が空になったわけではないんだろうけど......。
私が魔力を吸うのをやめたところで、結界はもとに戻らないようだ。
「ちいッ!!」
と、ここで。
巨大魔石の半壊、そして汚泥の活動再開に呆然としていた先生が我を取り戻し、一つ舌打ちをしてから走り出した。
向かう先は、魔法陣を描くための塗料が入ったバケツだ。
先生はそのバケツの中に勢いよく手を突っこむと、たっぷりと塗料をすくいあげ......それでもって、転移魔方陣と残った巨大魔石との間に、一本の線を引いた。
魔力の通り道......魔導経路を、繋いだのだ!
するとチカ、チカと......転移魔法陣が、紫色に輝き始める!
「良し......未だ大地より、魔力は吸いあげられておるようなのじゃ!重畳ッ!!」
次に先生はそう叫んでから私に駆け寄り......私のことを、今度は前からぎゅっと、抱きしめた。
「一か八か......成功することを、祈るのじゃ!」
そして短く、そうつぶやくと。
私の体を持ちあげて......放り投げた。
......転移魔法陣に、向かって!
「さらばなのじゃ、エミーッ!!」
くるくると、宙を舞う私が見たのは。
満足そうに笑う、先生の笑顔だ。
この転移魔法陣、現段階では一人しか送れないって、言ってたのに。
先生は、このまま私を転移させたら、自分は助からないっていうのに。
食糧を食べちゃったのも、巨大魔石を壊しちゃったのも、全部私なのに。
それでも先生は、晴れ晴れとした表情で、笑っていたんだ。
私は。
私は。
私は......!
「ふざけ、んなあああああーーーーーーッ!!」
私は転移魔法陣に体が触れる、その直前に!
【黒触手】を数本展開!
現在この部屋の壁や床は、結界による保護が消失し、通常の強度に戻っているので......そこに思いきり、【黒触手】の先端を突き刺す!
そして、私の体を支える!
魔法陣まであと数センチという距離で、私の肉体を空中にとどめる!
転移を......拒否するッ!!
「え、え、えッ!?のわあーーーーーーッ!?」
そして、さらに追加でもう一本、【黒触手】を展開する!
その触手は、私の予想外の行動に混乱する先生のもとへと蛇のように素早く伸びて、あっという間に巻きつき......。
ひょいと、その体を......持ちあげた!




