600 a 弾丸 moving forward into a new era
「らあああああーーーーーーッ!!」
【黒触手】で全身を覆い人間大の弾丸と化した私は、魔力ジェット噴射の力でまっすぐに、飛ぶ!
すると途端に感じる、ドプン、という感触。
弾丸になっている間は周囲の様子が視認できないけど、何が起きたのかは容易に想像ができる。
汚泥の中に、侵入したのだ。
“幸福なる汚泥”コルマリャは、私の動きを止めようと絡みついてくる。
でも、私は知っている!
今の私は、持っている!
汚泥を決して寄せつけない、力を!
<その力とは、一体!?>
「それはッ!!遠心力ッ!!」
私は回転速度を上昇させつつ、まっすぐ、まっすぐ直進する!
多少魔力を吸われるけど、汚泥は回転している私にうまくまとわりつけないらしく、そんなに被害はない。
泥属性の敵の弱点は、遠心力属性!
これが、これからのファンタジーの新定番!
<なるほどつまり私たちは、新時代先駆ける一筋の弾丸ッ!!>
「ああああああーーーーーーッ!!」
そうアホなこと言っている間に、ガツン、ガツンと何度も、何やら硬い物にぶつかった感触を得る。
おそらく、デレネーゾ大監獄の壁だ。
でもその壁、それほど丈夫でもない。
どんどんぶち壊して、前に前に進む!
<結界による補強ありきで作られた壁ですし、既に汚泥に浸食され、脆くなっていたんでしょう!>
ガツン、ドプン、ガツン、ドプン、ガツン!!
何度も何度も、壁の破壊と汚泥への侵入を繰り返し、どれだけ前進しただろう。
多分時間的には一分も経っていないくらいの短さ。
でも、大分魔力は消耗した。
せっかく血反吐を吐きながら吸収した魔力が、再び尽きつつある。
もうそろそろ、限界!
そう、危機感を抱いた......その時だ!
ドプンッ!!
最後に、膜を突き破るような、そんな感触を得た後。
私は前進することに、一切の抵抗を感じなくなった。
つまり!
<汚泥を、突破しました!デレネーゾ大監獄の、外に出られたんです!>
「らあああああーーーーーーッ!!」
私は最後の力を振り絞って、高速回転!
【黒触手】で作った外装にまとわりついていると思しき汚泥のしずくを吹き飛ばしながら、ダメ押しでバシュッと、最後の魔力ジェット噴射!
その後は慣性によってしばらく空中を飛行し......重力に引っ張られ、地面に着地。
ドサササササーーーッ!!
粒の細かい......砂を押しのけながらまっすぐに滑り、やがてその動きを止める。
ぐうううううッ!!
腹の虫の悲鳴を聞きながら、全身にまとった【黒触手】を解除。
すると、途端に私に襲いかかってきたもの。
それは......砂の熱さと、日の光だ!
「あああッ!?熱いッ!?まぶしいッ!?」
たまらず、手足指先に再度【黒触手】をまとう。
<エミーでなければ、大火傷するところでした>
ああ、頑丈で良かった!
「............」
そして、慣れない砂に足をとられながら、なんとか体を起こして立ちあがる。
目を細めながら周囲を見回すと、そこにあったのは、一月前デレネーゾ大監獄に来た時に換気口から覗き見た風景だ。
即ち、一面の砂。
雲一つない青空の下で、日の光を浴びて白く輝く、砂漠。
そんな風景が、地平線の向こうまで、どこまでも続いている。
“ただ一つの例外”を除き、それ以外の要素は、私の視界には存在していない。
......“ただ一つの例外”。
それは、今まで私が収監されていたデレネーゾ大監獄だ。
それは、数百メートルは離れてもなお、見あげるほどに巨大な、石造りの塔であり......。
周囲の白い砂漠と同じような色合いの石が積まれて作られたその塔は、堅牢そうに見えるその見た目とは裏腹に、内部よりミシミシと、不吉な音を響かせている。
何故か?
<それは当然、汚泥が原因でしょう>
この私が、ぶち破って脱獄できたんだ。
おそらく、これまでは結界に阻まれ、デレネーゾ大監獄内部に留まっていた、“幸福なる汚泥”コルマリャも......。
そこまで、考えて。
果たして、想像通りの出来事が起きた。
ミシ、ギシ、ビシという嫌な音と共に、デレネーゾ大監獄の白い外壁に、大きなヒビが入り始める。
そしてそのヒビから漏れ出すのは、大量の汚泥。
汚泥はなみなみとあふれ出しながら、デレネーゾ大監獄をあっという間に包みこむ。
美しかったデレネーゾ大監獄は、今や汚泥の噴水と化した。
汚い茶色で。
悪臭を発し続け。
ゴポゴポと湧き出る、音も不快。
誰しもが近づきがたい、巨大な、汚泥の噴水。
「!!」
そんな、汚泥の噴水に、動きがあった。
頂点の部分が、もこもこと膨れあがり、球体を形作り。
その球体には次第に、優しく細められた目が生まれ、形の整った鼻が生まれ、微笑みを浮かべた口元が生まれた。
それは、美しく優しい表情をした、女性の顔だった。
汚泥はその顔を私の方に向け、次いでもこもこと、左腕を作り出した。
そして、その左腕を使って。
おいで、おいでと。
私を、手招きした。




