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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
25 監獄!災厄!大魔導編!
595/724

595 長所 are 短所

「........................」




 さて。

 私が“先生”の生徒になってから、三日が過ぎた。


「............」


 マジュローグ先生は今、ダーケーヤロン魔石を砕いてできた黄色い粉と魔水を混ぜ合わせて作った......何故か紫色に変色した塗料を使って、床に大きな魔法陣を描いている。

 四つん這いになって、ゆっくり、ゆっくりと......集中して。

 手元を【魔力視】で見つめれば、魔法陣を描くため塗料を乗せたその指先には、一定のリズムで魔力が流れていることがわかる。


 トン、トン、トトトン、トン。


 そんな感じで、先生の指先では魔力が流れたり、止まったりが繰り返されている。

 先生曰く、転移魔法陣を描く際には、その一定のリズムをずっと保たなくてはならないらしい。

 また、描きながら魔法陣に注ぎこむ魔力量も、一定でなければならない。

 その理由は......説明されたけど、超難しくてわからなかった。

 少なくとも、私には一生魔法陣は描けない。

 それだけは、わかった。


 とにかく、先生はずっとそんな感じだ。

 時折休憩のために立ちあがり、私の様子を尋ねはするが、それ以外はずっと静かに魔法陣を描いている。

 並大抵の集中力ではない。

 凄いと思う。


 オマケ様に聞いたら、『ソーマトーコ学院』は、<この世界最大規模の教育機関であり、研究機関>であるらしい。

 そんな場所の長を務めていたんだし、やっぱりこの人、凄い人なんだよな、中身はエロジジイだけど。

 ......肉体が女性になり、男性を対象に恋愛をしようとしているヒトを、“エロジジイ”と呼び続けるのもどうなのか、とも思うけど。




<エミー、集中が途切れていますよ>




 と、ここでオマケ様の注意を受け、私は視線を先生の手元から自分の目の前の巨大魔石へと移す。

 先生は、転移魔法陣を描き続けている。

 では、私は何をしているのかと言えば......。


 このデレネーゾ大監獄制御室の中央に設置された、施設の動力源である巨大魔石に手のひらを当てて......ずっと、じっとしている。


 もちろん、ただ休んでいるわけではない。

 魔力吸収......【アブソープション】を習得するための、訓練をしているんだ。

 久しぶりの、修行タイムですよ。


 じっとして、肉体的には動きはなくとも、魔力的には、かなり色々と動かしている。

 魔力を吸い取るために。


<しかし......なかなかうまくは、いきませんね>


 そう、うまくいかない。

 でも、まだ三日目だよ、オマケ様......。

 まだ、焦らなくても大丈夫......。


 私は、ぐうと鳴ったお腹の音を無視して、目を閉じて......巨大魔石と接している手のひらの辺りの、魔力制御に集中する。




 先生曰く、『魔力移動の基本は、“高から低”なのじゃ』、とのこと。

 例えば、いっぱい魔力を含んだ魔石だの魔鉱石だのと、魔力が空になっている状態のそれらを経路で繋ぐと、自動的に空になった魔石等の方へと、魔力が流れていく。

 そして魔力の流れは、両者の魔力量が等しくなった時点で止まる。

 これが魔道具作りの基本なんだそうな。


 魔力吸収を行う場合、この性質を利用する。


 たくさん魔力を含んだ巨大魔石。

 それと接する私の手のひらに含まれる魔力を、意図的に空にする。

 無意識に、肉体を保護するために注ぎこまれている魔力を、無理やりせき止めて、手のひらまでいかないようにする。

 すると、低魔力状態......魔力圧が低下した状態の私の手のひらに巨大魔石から魔力が流れ込み始める。

 これが、魔力吸収の仕組み。


 だけどこれが、めちゃくちゃ難しい。

 難しいっていうか、『できんの、それ?』っていうレベルの話だよ。

 だって、『今から手のひらに流れている血を、一旦止めてください』って言われて、できる?

 そういうことを、しなくてはいけないのだ。

 ......本当にできるの?


<......頑張りましょう、エミー。マジュローグは、『生身の時はできなかった』と言っていましたが......実は歴史上、魔力吸収を“活用していた”と言われる人間は、3人程実在します。決して不可能ではありません>


 歴史上......3人......。


 ......本当にありがとう、オマケ様。

 成功例が存在しているってわかっただけで、それが心の支えになるよ。




「............」


 とはいえ。

 状況は、ちっとも改善しない。

 魔力吸収、全然できない。




 ......実は私は、この魔力吸収のこと......ちょっと、なめてた。

 容易く習得できるもんだと、軽く考えていた。


 だって、思い起こせば、あれはかつて師匠の小屋で過ごしていた時のこと。

 私には、確かに魔力を『吸った』経験がある。


 師匠から渡された、光る鹿の角......エレキディアの角だったか。

 私はあの角から魔力を吸って......壊した。


<懐かしい、思い出ですね>


 あの時、確かに私は魔力吸収を、していたはずなんだ。

 だから、今だってできるはず。

 そう、思ったんだけど......。


<全然、できませんね>


 なんで?


<......考えられる原因は、3つあります>


 ええ、オマケ様凄い!

 もう原因解明済みですか!?


<ふふん>


 オマケ様は私の賞賛を受けて小さく嬉しそうに笑うと、解説を開始した。




<まず、原因その一。残念ながらあの時、エミーはまず間違いなく、“魔力を消費して、魔力を吸っていました”。あの時やったことと今やろうとしていることは......ちょっとだけ、毛色が異なります>


 ......どういうこと?


<あの時あなたは、マジュローグが本末転倒な結果としてあげていた、“魔力を吸うために使用した魔力が、吸った魔力よりも多くなる”状態にあったということです>


 あーーー、なるほど......。


<あなたの前世的な例えをするなら、いっぱい電力を使ってポンプを動かして、ほんの少しだけ水をくみ上げた、というような感じでしょうか>


 凄くわかりやすいです。


<あの時に吸い上げた魔力も、使用した魔力も、共に微々たるものでしたので......あなたの体調に何ら影響はありませんでしたが、あれをずっと続けていたら、魔力が満たされるどころか減り続け、不調を感じていたはずです>


 なるほどね......。




<そして、原因その二。当時とは異なり、あなたの現在の魔力量は膨大です>


 いっぱい食べて、大きく育ちました。


<故に、魔力制御が非常に難しいのです。手のひらの魔力圧を下げても下げてもなお、その魔力圧は常人と比べると遥かに高い>


 むむ......育っちゃった分、調節が難しくなっていると?




<さらに、原因その三。それはあなたの肉体の、魔力抵抗の高さです>


 魔力抵抗?


<魔力的な干渉のされにくさ、ですね。あなたの肉体は、その魂が成長し大きくなるのと連動して......その魂に相応しい器になるべく、魔力変質を重ねています>


 魔力変質......。


<頑丈になっているということですよ。そしてそれに伴い、魔力抵抗値も尋常ではなく上昇しています。そして、その抵抗値の高さ故に、現在のあなたは例えば魔力を用いた精神干渉的な攻撃に対する抵抗が、非常に高い>


 そうなの?

 精神干渉......受けたのは、あの、麦の......グロウノードッカ村の時くらいだっけ?

 あんまり経験していないから、実感はないね。

 でも、防御力が高いのは、良いことだね。


<通常ならば。しかしそれが、今回に限っては悪さをしています。食事と言う方法を除けば......肉体の魔力抵抗が高いので、現在のあなたは体質的にそもそも外部の魔力を取りこみにくいのです>


 本来は肉体を守るはずの魔力抵抗と言う機能が、魔力の移動を邪魔しているってこと......?

 つまり......。


<結論を言います。あなたは体質的に、魔力吸収という技術とは、相当相性が悪いようです>




「........................」




 オマケ様の絶望的な宣告を聞いて、さすがに落ちこむ。

 うつむいて、肩を落とす。

 でも......。


 ぐううううう......と。


 うつむいた視線の先の、お腹が、鳴るんだ。


 生き残るためには。

 魔力吸収。

 どんなに相性が悪くとも、習得しなければならない。


「............」


 私は巨大魔石から一旦手を離し、パンと両頬をはって、気合を入れなおした。




 そして、ちょっと気分転換する。

 とことこ歩いて、魔石から離れ。

 向かう先は、以前先生とお茶をした、飲食スペース。


「............」


 私は、そこに設置されている机のふちに手をかけて。

 指先に、軽く力を込めた。


 バキッ!


 すると、そんな音を立てて、机にひびが入る。

 この机は、結界で保護されていない。

 そして、木製だ。

 容易く割れる。


「............」


 私はさらに指先に力を込めて机を割り、一切れのピザのような欠片を作り出す。

 そしてそれを、おもむろに口に運び......。


 バキ、ゴキと、噛み砕く。


 うっすらと、塗料の香り。

 それ以上に豊かな、木の香り。

 えぐみだの、苦みだの、嫌な感じの味はせず、食べやすい机だ。


「............」


 ゆっくりと、惜しむように噛み砕いてから、嚥下する。

 お腹の中に入って行った木くずは、あっという間に溶けてなくなり......気づけば、すっかり消失した。




 ふと、先生を見ると。

 私は結構、バキバキと音を立てていたと思うんだけど。

 さっきと変わらず、黙々と魔法陣を描き続けている。

 本当に......大した集中力だよね。


「............よし」


 私は再度、パンと両頬をはって。

 巨大魔石に歩み寄り......そこから発せられる、暖かな黄色い光を浴びながら。

 ツルリとしたその岩肌に、手のひらを押し当てた。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  やりだしたらクソ真面目なエミーさん、腹の虫がうめいても頑張るスタイルには賞賛しかありません♪(三ヶ月分の食料がインストールされた筈のお腹が三日で空になった事実からは目を背けつつ) [気に…
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