594 become a 生徒
「強い魔力を持つ生物は、その魔力で肉体を保護することができると判明しておる。一部の大型竜などが、それほど食べずにその巨体を維持できる理由も、同じじゃ。飲まず食わずでも、魔力さえ供給できれば......ふむ!一か月半ならば、余裕でもつじゃろうな!」
ウロウロと歩き回り、語りながら考えをまとめていたマジュローグはここで足を止め、パンと手を叩き、輝くような笑顔を浮かべた!
でも、その笑顔もすぐに消える。
マジュローグは続いて眉間に皺を寄せ、じっと私を見つめ、言った。
「......しかし、そんなことをできる人間を......ワシは聞いたことがないのじゃ」
そして物憂げな表情を浮かべ、ため息をつく。
「さっき、自分がやってたでしょ」
「ワシのこの体......魔導義体は特別製なのじゃ。【アブソープション】で活動エネルギーを補充できるようにと、そもそも設計されておる!以前の生身の体では......【アブソープション】が成功した試しはないのじゃ......」
「なんでさ」
「最大の理由はのう、単純に魔力制御が難しいのじゃ」
そしてそう言うとマジュローグは右手のひらを広げて前に出し、5本の指をピンと伸ばした。
するとそのそれぞれの指先に、火球、水球、光球、雷球、闇球が出現する!
「エミーちゃんには、これができるかのう?」
私は、首を横に振った。
雷球とかどうやって出せば良いのかわからないし、その真っ黒な闇球ってそもそも何なのか理解できてないし、っていうかそれ以前に......。
<そんな!5種類の異能......魔導を同時に行使するなんて!>
それがオマケ様が舌を巻く程に、細やかな魔力制御の賜物であるからだ。
今の私にはちょっと、ここまで正確な異能の使い方は、まだできないと思う。
5種類同時は、さすがに無理だ。
「さすが“大魔導”......」
「いや、これも生身ではできなかった芸当なのじゃ。この魔導義体は、これ程までに魔導の行使に対する親和性が高い」
だから、容易く【アブソープション】も成功できるってこと?
指先の5種類の球をくるくると回転させながら、マジュローグは苦い顔で言葉を続ける。
「壁を走ったり、どす黒い何かを出したり......エミーちゃんがいくつかの魔導を行使できることは、既に監視カメラ越しに確認しておるのじゃ。しかしのう......」
次いでマジュローグはそう言いながら、開いていた手のひらを握りしめた。
それと同時に、5種類の球が霧散して消える。
「魔力を、吸う......言うなればそれは魔導の基本である魔力移動の一種であるが、実に繊細な魔力制御を必要とするのじゃ。下手に行えば、“魔力を吸うために使用した魔力が、吸った魔力よりも多くなる”という、本末転倒な結果を招く。そして魔力を吸い過ぎれば、今度は魔力中りにより死ぬ可能性すらある。さらに魔力制御は、一朝一夕で身につく類の技術でも、ない」
マジュローグは額に手を当てながら、再びウロウロと歩き始めた。
「その上、訓練の方法も確立されておらん。ワシの経験則を元に、試行錯誤して......それでも習得は、できないかもしれないのじゃ。命の危険すらある、分の悪い賭けなのじゃ。そんな技術を教えるなどという無責任なことを、ワシは......」
「それでも私は、やるしかない」
私はそう断言して、ごちゃごちゃと言うマジュローグの顔を、じっと見つめ返した。
「やらなきゃ、死ぬ。だから、やる。悩む前に、まずやる」
そして左右の腕を、前へと突き出す。
両手のひらを開き、上に向ける。
「私だって......魔力制御、少しはできる」
そう言うと私は......2つの異能......マジュローグが言うところの、魔導を行使した!
「ほう......!」
マジュローグはそれを見て、興味深そうに声を漏らした。
今、私の右手のひらの上では、小さな炎がパチパチと弾けている。
これは、【着火】。
サバイバルの、お供。
そして、左手のひらの上には、小さな水たまりが発生している。
これは、【集水】。
サバイバルの、お供。
どちらも、私がナソの森で暮らしていたころからお世話になっている異能であり......しかしながら、それほど成長を見せなかった技術でもある。
結局のところこれらの異能は私にとって、サバイバルのお供でしかなかったから。
だって、敵は殴れば死ぬから。
でも。
「教えて」
それでも私は......私だって実は、マジュローグみたいに魔導を使えるんだ。
他にも、【紙魚】だって【魔力斬糸】だって【黒腕】だってあるんだ。
全くの素人というわけでは、ないはずなんだ。
「【アブソープション】......魔力吸収のやり方、教えて」
だから、学ぶ。
そして、絶対に、ものにする。
新たな、技術を!
これまでだって、できた。
だから今回だって、きっとできる!
「「........................」」
私とマジュローグは、しばらく無言のまま、見つめあっていた。
でも。
「............カカカッ!」
その沈黙をまず破ったのは、マジュローグの笑い声だった。
マジュローグはひとしきり笑うと、その美しい顔を私に近づけ......私の瞳を覗きこんだ。
「エミーちゃんは......凄いのう!これほど絶望的な状況下においても、その瞳には闘志が燃えておる!そうじゃのう......そうじゃのう!諦めては、ならないのじゃなあ!カカカカカカッ!」
「私は、生きる。どんな窮地も、生き抜く」
私はそう言って、マジュローグの瞳を見つめ返した。
これまで不安げに揺れていた紫色のそれは、今ではやる気と好奇心に満ちあふれ、イタズラを思いついた少年のそれのように光り輝いている!
今、この瞳からは......決して目を反らしては、ならない。
どうしても、教えて欲しい。
その気持ちを、瞳から瞳へ、まっすぐに送り続ける!
「まあ、今回その窮地を招いたのは、エミーちゃん自身なんじゃが......」
私はさっと目を反らした。
「とにかく良し、ワシも腹を決めたのじゃ!故に......エミーちゃん!お主はこれより、我が教え子である!お主は今、魔導を極め世界の理を解きほぐす、探求の徒となったのじゃ!」
次にマジュローグは、腰に手をあて堂々と立ち、良く通る声ではっきりと、そう宣言して。
「未だ未熟なれど、しかしながら先達として、ワシはお主の成長に手を貸そう。お主はワシのことを......父と思い、頼るがよいのじゃ!」
美しく......にっこりと笑った!
でも......ちょっと待って。
私は首を傾げた。
「今の体は女なのに......『父』?」
「じゃあ、母と思い、頼るが良いのじゃ!」
「いや......義母が『母』って言葉に凄いこだわりがあるので、それもちょっと」
「ええい、ならば師匠で良いのじゃ!ワシのことは、師匠と呼ぶが良いのじゃ!」
「ごめんなさい。既に師匠と呼んでいる方は他にいるので、絶対に嫌だ」
「何なのじゃーーーッ!?ならどうすれと言うのじゃーーーッ!?」
頭を抱えて叫ぶマジュローグを眺めながら、私は少し考えた。
そして、頭を下げた。
「“先生”......これから、よろしくお願いします」
「......カカカ、“先生”か」
マジュローグは私のそんな姿を見て、そう言って笑いながら頭をかいた。
「......確かに結局それが、一番しっくりくるのじゃ。ワシもそう呼ばれ慣れて、おった故な......」
そして嬉しそうに、でも少しだけ寂しそうに、目を細めた。




