593 what I have to do to 生存
制御室内に、沈黙が満ちる。
時折聞こえてくるのは、部屋の中に設置された良く分からない機械の、コココ、という小さな駆動音のみ。
食糧不足。
この問題を解決するアイデアは、思い浮かばない。
時間だけが、過ぎていく......。
<あ!この部屋の床材は、食べられませんか?>
ここで、このいたたまれない沈黙に耐えきれず、オマケ様が思いつきを口にした!
よっしゃ、それだ!
早速しゃがんで、床をひっかいてみる。
でも、だめ。
この部屋の床も......おそらく壁も天井も、私が入れられていた牢と同じく、結界で守られている。
「削って食べることは、できない......か」
「当たり前なのじゃーーーッ!!」
私の冷静な分析に、マジュローグはイライラと床を何度も蹴りながら、つっこみを放った!
しかし、何度も窮地に陥り、その都度乗り越えてきた私には、わかる。
こういう時こそ、冷静にならなくちゃ、いけない。
だから、キョロキョロと辺りを見回す。
状況を打破する何かを、探す!
すると、ふと......先ほどマジュローグが開けた木箱が目についた。
中に入っているのは......黄色い魔石......。
「これだ......!」
私は木箱に駆け寄り、その黄色い魔石を取り出して掲げると、勢いよくマジュローグを振り返って、叫んだ!
「ねえ!ダーケーヤロン魔石って、食べちゃだめ!?」
「何言ってんのじゃーーーッ!?」
マジュローグは慌てて私に駆け寄り、魔石を無理やり奪い取ると、大声で叫び返した!
「ダメに決まっておるのじゃ!石は食べ物ではないのじゃ!お腹を壊すのじゃーーーッ!!」
「大丈夫。私のお腹、壊れたことない」
「何そのお腹に対する篤き信頼ッ!?しかし、よしんばお腹が壊れんとしても、ダメなのじゃ!あれは転移魔法陣を描くのに使うのじゃ!数は減らせないのじゃーーーッ!!」
「む......」
さすがにそう言われると、この魔石を食べるわけには、いかない。
だからマジュローグ......そんな警戒しなくても、良いんだよ?
大丈夫、大丈夫、食べないから......。
あ、箱に鍵かけやがった。
<でも......ならば、どうしましょうか>
キョロキョロと、再度辺りを見回す。
もう、こうなるとさ。
目につくのは、後一つなんだよ。
......一応、聞いてみる。
「じゃあ、部屋の真ん中にある、あのでっかい魔石は?」
「もっとダメなのじゃ!あれはこの大監獄の、主たるエネルギー源なのじゃ!無くなると、床や壁を保護している結界が消え、汚泥がすぐさま雪崩れこんでくるのじゃーーーッ!!」
それは......ダメだね。
<ダメですね......>
もはや、八方ふさがりだ。
全く、アイデアが浮かばない。
さすがに、落ちこむ。
「......ごめんなさい」
思わず、謝罪が口に出る。
「マジュローグも、困るよね?食べる物、無かったら......」
ことは、私一人の問題ではないからだ。
私のせいで、マジュローグも飢えて死ぬ。
それはちょっと......申し訳がなさすぎる。
でも。
「あーーー......」
私のマジュローグへの謝罪に対する反応は、ちょっと予想外なものだった。
マジュローグはまずキョトンとしてから、すぐにバツの悪そうな顔をして首を横に振り......。
「いや、ワシはのう......良いのじゃ。食事をとらずとも、生きてゆけるからのう......」
......と。
ちょっと、とんでもないことを、言った!
「え!?」
「もはやこの身は、魔導義体......いわば人形。一応食事は取れるようになってはおるが、今のワシはリビングドールとでも言うべき、魔法生命体じゃ。精霊などの、お仲間のようなものじゃの。故に......」
そう言うとマジュローグは、制御室中央の巨大魔石へおもむろに近づくと、それに手のひらを当てた。
そして。
「【アブソープション】」
何やら一言、つぶやいた。
間違いなくそれは、異能......マジュローグが言う所の魔導の行使!
私はすぐさま【魔力視】を発動し、その様を観察した。
そして、驚く。
巨大魔石から、魔力が......凄い勢いで、マジュローグの中に流れこんでいる!
「魔力を......吸ってる?」
「......エミーちゃん、わかるんじゃのう......そう、その通り。ワシはこのように、少し魔力を吸えば生きてゆける。食事も可能じゃが、それはもはやワシにとって、生きるために必須の行動ではないのじゃ」
「......あれ、でもそのでっかいの、食べちゃダメなんじゃ?」
「食べて減らすのは、ダメじゃ。しかし多少魔力を吸う程度なら、問題はない。常に大地の魔力が供給され続けるからのう。いわばこれは、魔力を蓄えるための、ため池のようなものなのじゃからのう」
<つまり、常に充電され続ける乾電池が、この巨大魔石であると。物理的にかじって削るのはご法度でも、魔力を吸う程度なら、問題はないのですね>
オマケ様が私に理解しやすいように、マジュローグの言葉を言い換えてくれた。
......ここで。
私は、一つの事実に気づく。
マジュローグはさっきから、困って怒ったような態度をとっているけど。
それは、自分のためじゃなくて。
......私のためだったって、こと?
<まあ、自分は食べなくても良い、というのならば。そういうことなのでしょう>
オマケ様は私の考えに同意して、でもおもしろくなさそうな、拗ねたような声をだした。
「マジュローグは......」
私は......つい。
思うがままに、口を動かしていた。
「優しいね」
エロジジイなのに。
「エロジジイなのに」
「一言余計なのじゃ......」
マジュローグは、私の賞賛に肩を落としてため息をついた。
<でも、優しさではお腹は膨れませんよ。そんな優しさに、意味はありませんね>
オマケ様は私の中で上昇したマジュローグへの評価に嫉妬して、悪態をついた。
たまに本当に、大人げなくなるよね、オマケ様は!?
でもね、オマケ様。
<なんでしょう?>
さっきのマジュローグの話なんだけどさ。
あれを聞いていて、『マジュローグは優しい』以外にもさ。
私、思ったことがあるんだ。
それはつまり。
「私も、魔力を吸えば、死なないんじゃない?」
......ということだ。
これまで、私はどうしてもお腹が空いて、石をガリガリ食べていたことが、割とある。
そして、普通なら体を壊すだけのそんな行動も、私にとっては問題にならない。
何故なら、その石は、私のお腹の中で“なんちゃら分解”されて、吸収されてしまうから。
......だよね、オマケ様?
<“魔素分解”です、エミー。しかし言っていることは、正しいです。そしてそれが故にあなたは、石だろうが砂だろうが......お腹の中に入れる物さえあれば、生きているのです>
その“魔素分解”って、魔力を吸うことと、なんか違いはある?
同じなんじゃない?
私、これまでも、魔力をエネルギー源にして、生き残ってきたんじゃない?
<............厳密に言えば、“魔素分解”は先ほどマジュローグが行った【アブソープション】......いわば“魔力吸収”とは、異なるものなのですが......ええ、そうですね、『魔力を吸えば、死なない』......それは確かに、事実です>
「『魔力を吸えば、死なない』......むむ、ふむ。例え人間でも、理論上は......確かに、そうかもしれないのじゃ......」
オマケ様の解説にかぶせるように、マジュローグも顎に手を当て、考えながら語り始めた。




