592 there is a 大問題
「............」
抱擁は、それほど長くは続かなかった。
私が気恥ずかしくなって、マジュローグの体を押して、離れたからだ。
<エミー、気をつけてください。現在の見た目は爆乳美女でも、これの本性はエロジジイです。きっとエミーを抱きながら、邪な思いを抱いていたに違いありません>
オマケ様はなんか嫉妬していたので、無視した。
「さて」
「これから、どうする?」
立ちあがったマジュローグに、私は目線をあわせずに質問した。
どうにも恥ずかしい。
顔は......赤くなっていないと思う。
多分。
私の顔面は、感情を表現する機能を持ちあわせていないようだから。
「もちろん早速、転移魔方陣の制作に着手するのじゃ!」
マジュローグは楽しそうに声を弾ませながら歩きだし、部屋の隅へ。
良く分からない機械と機械に挟まれた木箱を開け、中から黄色い宝石をとりだした。
「これは、ダーケーヤロン魔石。かつてダーケーヤロン川上流に多く転がっていたため、ダーケーヤロン魔石じゃ。まあ、この制御室中央の巨大魔石の小さい版と考えて良いのじゃ。いくつかの魔道具の動力源として、用意されておったらしいのう。この魔石を砕き、魔水と混ぜ、魔法陣を描く」
「魔水?」
「魔力をこめた水なのじゃ。幸いこの部屋、貯水庫も併設されており、蛇口をひねれば水が出る。その飲料水を利用して作成するのじゃ」
私にそう説明を続けながら、マジュローグはテキパキと準備を進める。
「......私は、どうすれば?」
「すまんが、やることはないのう」
「お手伝い、しなくて良い?」
「......エミーちゃん、ありがとうのう」
ここでマジュローグは振り返り、手持無沙汰でたたずむ私を見つめて、にっこりと微笑んだ。
「しかし魔方陣の作成には、コツがいるのじゃ。こればかりは、経験が物を言う作業なのじゃ。素人のお主を関わらせるわけには、いかん」
そしてそう言って、私の手伝いをやんわりと拒絶した。
まあ、それは良い。
難しい作業は、プロに任せるのが一番だ。
退屈だろうが何だろうが、私は黙って待つよ。
でも......マジュローグが放った次の言葉。
それが、大問題だった。
「故に......少なくとも一か月半ほど、じっとしておるのじゃ」
「一か月半!?」
思わず、声を荒げる。
なんでそんなに、時間かかるの!?
<......マジュローグは先ほど、魔石と魔水を混ぜると言っていましたね?おそらくその作業に、時間がかかるのでしょう。かつて超古代魔導文明においては、工業的に大量生産されていましたが、なるほど、言われてみれば、それを手作業でとなると......半月ほどかかるというのも、無理のない話ですね......>
オマケ様は冷静に補足の解説をしてくれたけど......その声は震えている。
だって。
だって、ね?
......まずい、よね?
<まずいですね。ものすごく、まずいです>
「子どもを退屈させるのは忍びないがのう......ここは一つ、我慢してくれんかのう?」
マジュローグは可愛らしく手を合わせ、舌を少し出しながらあざといお願いポーズをした。
いや、うん。
かつてのエロジジイのあざとさについては、置いておいて。
周りは、危険な汚泥に囲まれて。
普通ならば、ここで、意義を挟む筋合いなど、どこにもない。
でも。
でも、さあ......!
「......?エミーちゃん......?」
ここで。
マジュローグは、思わず挙動不審気味に、チラチラと“とある場所”に視線を送る私の様子に、気づいた。
そして私の視線の先に、マジュローグも目をやる。
そこにあったのは、扉。
......食糧庫の、扉。
「......え、まさかッ!?」
おそらく......とある可能性に、マジュローグは気づいたんだろう。
すぐさま食糧庫へと駆けだした!
そして、思いきりその扉を開け!
絶叫した!
「はあああああーーーーーーッ!?」
それは!
何故かと......言えば!
食糧庫の中身は......ほとんど、食べ物を食いつくされ、すっからかんになってしまって......いたから!!
「いや、だって、そんな、一か月半も脱出に時間かかるって、思わなかったから......」
食糧庫の入口でプルプルと震えているマジュローグの背中に向かって、私は頬をかきながら言い訳をした。
もちろんこの惨状、原因は私だ。
だってさっき汚泥から逃げている内に、お腹空いていたし。
備蓄された保存食も、様々に趣向が凝らされて、凄くおいしかったし。
さすが、神が関わる神造施設は違うもんだと、ついつい、ね?
手が、止まらなくて、ね?
<おいしかったですよね......>
ね?
おいしかったよね......?
「ぜ、全部......全部、食べてしまったのかのう......?三か月分は、余裕であったかと、思ったのじゃが......」
マジュローグは震えながら、青くなった顔をこちらに向けた。
「お腹、空いてて......」
いや、本当に、申し訳ない。
私と、空になった食糧庫。
何度も何度も視線を行ったり来たりさせながら見比べるマジュローグのアホみたいな姿を見ると、本当に罪悪感でいっぱいになる。
でも、マジュローグのお話も、長かったし。
つい、口寂しくなるのは、しょうがないことだと思う。
うん。
うん......。
「ワシが......話している途中、長いこと食糧庫に入っている時間......あったのう、そう言えば......何を食べるか、選んでいるのかと、思ったのじゃが......」
「私は、選ばない。食べたいと思ったら、全て食べる」
「あの......わずかな時間で......?」
「全部食べた」
それはもう、胸をはってそう答える。
私、早食いも大食いも、得意だから。
麺料理はお湯を入れて待つタイプの保存食だったから、持って行って話を聞きながら食べたけどね。
ちなみにお湯は、食糧庫に魔道具のポットが備えつけてあって、それで沸かしました。
「お腹も......膨れては、おらんようじゃが......?」
「不思議だよね......?」
マジュローグは、今度は私のお腹をじっと見つめて、首を傾げた。
食糧庫に詰まっていた保存食が、今や全て私の腹の中にあるわけだからね。
それなのに体型が微塵も変わらない私の体、凄く不思議だよね。
私も思わず、首を傾げちゃうよね。
「ど、どどど、どうするつもりなのじゃーーーッ!?」
マジュローグはここで頭を抱えて、再び絶叫した!
「どうしよう......」
私も腕を組み、首をひねった......!




