590 大魔導's history 2
そう、毒殺じゃ!
ワシ、なんとなんと、毒を盛られてしまったのじゃ!
カカカ......ぬかったわ。
ワシも、耄碌したものよ。
それにあの程度の毒、かつてならば少し寝込む程度で済んだはず、だったのじゃがのう。
いかんせん、体にガタがきとったでのう。
耐えきれなんだよ。
全く、歳はとりたくないのじゃ。
お?
犯人を、知りたいかのう?
カカカ......エミーちゃん、まるで探偵みたいなことを言うのじゃな!
もちろんワシは天才故に、誰が犯人で何を動機にあんなことをしたのか、完璧に見抜いておるのじゃーーー!
......でも、その詳細は、秘密なのじゃ。
いや、なんと言われようとも、教えんぞい。
研究者として、教育者として......あまり使いたい言葉では、ないがの。
世の中にはのう、知らない方が良いことも、あるのじゃ。
とにかくの、ワシは、毒を盛られたのじゃ。
『このままでは、死ぬ!』......そう確信したワシは、震える体に鞭打って、研究室へと向かったのじゃ。
......魔導義体の調整は、八割がた済んでおったからのう。
魂を移植し、体を乗り換える。
この窮地を乗り切るためには、それしか道はないと、そう考えたからじゃ。
そして、その結果は見ての通りなのじゃ!
“大魔導”マジュローグは、ヨボヨボになったジジイの体から、若くてピチピチのお姉さんの体に、魂を移植することができたのじゃ!
だが、計算外のこともあったのじゃ。
先ほど、『魔導義体の調整は、八割がた済んでおった』と言ったがのう。
それはつまり、完璧ではなかったということなのじゃ。
端的に言えばのう、うまく動けなかったのじゃ。
体を乗り換えた、直後はのう。
声も、出せなかった。
辛うじて、指先を動かす......あるいは、体を震わせる。
その程度のことしか、できなかったのじゃ。
で、その結果、どうなったかと言えば。
“大魔導”マジュローグが毒を盛られたうえ、謎の装置に繋がれ、死んでいる。
そのそばには、へたりこんで震える、身元不明の怪しい女。
つまり、『マジュローグを殺したのは、その怪しい女だ!』と、まあ、そうなったわけで。
このワシ、“大魔導”マジュローグは......“大魔導”マジュローグを殺害した罪によって、捕縛されてしまったのじゃ!
カカカ......あまりにも、迅速に。
反論する隙を、与えずに、のう。
まあ、隙があったとしても、その頃のワシはうまく声を出せなかったわけじゃがのう。
......ふむ、そうなのじゃ、エミーちゃん。
この稚拙な捜査の背景には、間違いなく......実行犯の思惑が、絡んでおるのじゃ。
都合良く、罪を着せられる怪しい女がおったのじゃ。
奴は、その女の正体に気づくことなく、濡れ衣を着せたと。
まあ、そういうわけじゃのう!
カカカ、しかしまあ、おかげさまで、こうして生きておるのじゃ。
奴がワシの正体に気づいておれば、ワシが抵抗できない状態である内に、ワシのことを殺しにきたはずなのじゃ。
その点については、運が良かったのじゃ。
運が悪かったのは......このデレネーゾ大監獄に、神敵として送られてしまったことかのう。
当初はのう、ワシはソーマトーコの刑務所に、入れられておったのじゃ。
ところがのう、ある晩のことじゃ。
......あ、エミーちゃん、お主、神の実在を信じているかのう?
ん?
ああ、そうか、エミーちゃんも、あの牢に入れられておったのう。
お主も神敵扱いされたということは、神、ないしはその使徒に、出会ってはいるか。
ワシはのう。
長生きしとったし、色々と......伝手も持っておったからのう。
神が実在していることを、知っておった。
なんちゃら神の使徒を名乗る存在に出会ったことも、何度かあるのじゃ。
......また、話がそれたのじゃ。
ある晩のことじゃ。
ソーマトーコの牢で一人震えておった美女たるワシの目の前に突然、神の使徒を名乗る男が現れた。
その男は、言ったよ。
『“大魔導”マジュローグは、我が神のお気に入りだった』と。
『そのマジュローグを殺した貴様を、許してはおけない』と。
そしてその男は、ワシに向かって紫色の球を、投げつけた!
その弾は狙い過たずワシのかわいらしい額にぶつかり、カッと激しい光を放った!
すると、次の瞬間!
ワシはこの、デレネーゾ大監獄の牢獄に......囚われていたというわけなのじゃ。
もう、本当にのう。
アホかと。
呆れるばかりなのじゃ。
ワシも、この世界の神々のアホさ加減は、良く知っておったつもりなのじゃ。
............長生き、しとったからのう。
それでも、いざ実際にそのやらかしの被害にあうと、本当に、のう?
......ため息しか、出てこないのじゃ!
まあ、外部からの干渉がほぼ不可能なこの大監獄に収監されたことが、ワシに時間的な余裕を与えてくれたことは、事実なのじゃ。
ここに来てから、はや2年。
ワシはこの新しい美女ボディの操作にも慣れ、魔導も、以前の体よりも遥かに強力に操れるようになった。
そしてこそこそと看守共の立ち話から情報を集め、いよいよ脱獄計画が完成した......その矢先じゃ。
あの、汚泥めが、現れおったのは!
全く、なんなのじゃ、あれは!
あの汚泥は、まず一般囚人共を飲みこみ、看守共を飲みこみ......そしてこのデレネーゾ大監獄を支配する監獄神の移し身すらも、飲みこんだ!
おそらく、監獄神本体は無事だろうが......結構フィードバックで、ダメージを食らっておるはずなのじゃ!
移し身とは言え、あの汚泥は、あまりにも容易く神を殺したのじゃ......。
端的に言って、激やばなのじゃ!
とにかく、魔導の力であの汚泥の存在、そしてその大暴れを感知したワシは、『これはまずい』と、思ったのじゃ。
故に、看守共がいなくなったのを良いことに、牢の脱獄防止装置を魔導の力で無効化し、脱出。
そしてこの、制御室へと、逃げこんだわけじゃ。
その後、この大監獄から逃げ出すための諸準備を進めている最中、監視カメラの映像を見て、汚泥から逃げ続けるエミーちゃんの姿が目に留まり......。
ここに逃げこめるよう、ナビゲートをした。
......と、まあ、そういうわけなのじゃ。
長々と、ワシばかり喋ってしまい、申し訳ないのじゃ。
とにかくこれが、デレネーゾ大監獄の中で、“大魔導”マジュローグが美女の体になって生きておった、理由なのじゃ。
ワシがマジュローグ本人であるという証明は......残念ながら、できないがのう。
......さて、何か他に、聞きたいことはあるかのう?
挙手をしてから、質問するのじゃ。
答えられる範囲で、答えるからのう!




