589 大魔導's history 1
さて、改めての名乗りとなるが、ワシの名前はマジュローグ・マジュガムじゃ。
ワシはどうやら常人と比べれば、魔力量が多い体質での、そのせいで幼い頃はかなり苦労したもんじゃが......成人してからは、その魔力量を活かし、魔法使いとして全世界を股にかけ冒険しておった!
時に大魔法で竜の群れをなぎ倒し、時に有り余る体力で未開の魔境を踏破し!
そしてさらには、いくつもの超古代魔導文明の遺跡を発見し、あの時代の考古学的研究を大いに進めた、第一人者でもあると自負しておるのじゃ!
気づけば特級冒険者なんぞに認定されておったのじゃから、その自負もあながち自惚れではないと、思っておるぞい!
とにかく、冒険者として大成功を果たしたワシは、それなりに歳を食ってからは、己の研究と後進の育成に力を注いだ。
ん?
研究とはもちろん、魔導の研究じゃ。
魔導が何かについては、先程話した通りじゃ。
ワシは若い頃より超古代魔導文明の遺跡に潜り、その卓越した技術力の残滓に触れることで......かの文明、そしてその発展の礎を築いた魔導という技術に、並々ならぬ憧れを抱いておっての!
どうせ、腐る程金は稼いだからの。
晩年は冒険ではなく、憧れの魔導技術の復権に、全力を尽くそうと心に決めたわけじゃ。
それは......確か三人目の妻と暮らしていた頃じゃから、ちょうど60歳の時なのじゃ。
え?
ああ、そうじゃ、ワシには妻が、五人おったのじゃ。
恋人関係で終わってしまった女性も含めると、もう、おつきあいした女性の人数は数えきれんのう......。
皆、素晴らしい女性たちじゃった......。
ワシ、自分で言うのもなんじゃが、モテモテじゃったからのう!
今の顔とて、少し女性っぽく調整はしておるが、ほとんどワシの若い頃の顔と、変わっとらんのじゃ!
強くて、大金持ちで、イケメン!
カカカ、モテないわけがないのじゃ!
いや、う、嘘ではないのじゃ!
それと、『やっぱりエロジジイ』ではないのじゃ!
ワシは、恋多き男であっただけなのじゃ!
......話を、戻すぞい。
ええと、何の話じゃったか。
そう、とにかくワシは、60歳になったあの年、冒険者としての活動から足を洗い、仲間たちと共に魔導研究を本格的に開始させたというわけじゃな。
錬金術師イーナレダに、魔道具作家ギャシキヌー......皆、ワシよりも若いが、頼りがいのある仲間たちだったのじゃ。
......今生きとるのは、ワシだけじゃがのう。
妻も、友も。
皆、ワシを置いて、先に逝ってしまう。
長生きは、もっともっとしたいがの。
こればっかりは、寂しいことなのじゃ。
現在の、ワシの年齢かの?
通しで数えるならば、今年で139歳なのじゃ。
この体になってから2年とちょっとじゃから、『139歳です』と名乗って良いものかどうか、微妙なところじゃがのう。
あ?
ああ、そうじゃのう、この体のことが結局のところ、エミーちゃんも一番知りたいことなのじゃろう?
カカカ、この体はの、魔導技術の粋を集めて密かに作成した......行ってみれば、義体なのじゃ!
ワシは単純に、“魔導義体”と呼んでおる!
『魂を別の肉体に移し、不死を実現する』。
これは......かつてわが友イーナレダが掲げていた、研究テーマなのじゃ。
奴は志半ばで謎の死を遂げ、その研究資料も全ては火事によって焼失した。
と、世間的には、そういうことになっとるがの。
実は奴の資料は、全て残っておるのじゃ。
ワシの、頭の中にの!
そして奴の研究は、既に理論的には完成しておった!
故にワシは数年前より、奴の志を引き継ぎ、その他の研究と並行して、この魔導義体の制作に力を注いでおったわけなのじゃ!
幸いにして、当時ワシは世界に名だたるソーマトーコ学院の学院長として、自由に使える金や施設や権力を、持ちあわせておったからの!
公私混同?
それは違うぞい、エミーちゃん。
その当時、既にワシの肉体は、そろそろ限界だったのじゃ。
死期が見えてきた......そんな感じだったのじゃ。
良いか?
ワシが死ぬと、どうなると思う?
まず魔導研究は、間違いなく、停止する。
遅れる、ではなく、完全なる停止じゃ。
場合によっては、後退するまである。
......喋りすぎたの。
今の言葉は、忘れて欲しいのじゃ。
色々と事情があるのじゃよ、大人の世界にはな。
それは、エミーちゃんは、知らなくても良いことなのじゃよ。
とにかく、ワシが死ぬこと。
それは間違いなく、世界の損失じゃ!
故に、ワシはこの世界のためにも、まだまだ死ぬわけにはいかなかったのじゃ!
もっともっと研究したいし、後進の行く末も見守りたいし......カカカ、この歳にして、真に師として仰ぐべき存在にも、出会えたしの。
だからちょっと、私的な魔導義体を作るために学院の研究予算を使ったとしても、何ら責められるいわれはないのじゃ!
研究レポートさえ、まとめておけばの!
......いや、本当に、後ろめたいことはやっていないのじゃ。
だから責めるように、無言でじっと見つめてくるのは、やめて欲しいのう。
あーーー......こほん、さて。
そんなこんなでの、元の肉体にガタがきていたワシは、現在のこの体......魔導義体を作った。
そして、いよいよワシの魂をこの体に移植するために、あれこれ準備を進めようと思っていた、その矢先のことじゃ。
......事件が、起こったのじゃ。
カカカ......その事件、現在では、こう呼ばれておるらしいぞい?
『“大魔導”マジュローグ毒殺事件』、と。
【錬金術師イーナレダ】
ソレナクの町に住んでいた錬金術師。
第3章にて言及されている。
覚えていた人は、凄い。




