587 encounter with a 謎の女
突如として、廊下の多分天井辺りに埋設されたスピーカーから響く、謎の声!
<この声は、一体!?>
わからないこと、だらけだけど!
もはや、躊躇する猶予なし!
私は、謎の声の指示に従って......十字路を右に曲がった!
すると、そこに待ち構えていたのは......!
道を塞ぐようにしてこちらに押し寄せて来る......汚泥津波だった。
『あッ!ワシから見て、右だったのじゃ!本当は、左だったのじゃ!すまないのじゃ!カカカッ!』
「ざけんなッ!!」
私は思いきり両足で踏ん張って、急ブレーキ!
その状態から、天井に向かって跳躍!
縦に半回転して方向転換し、次いで天井を蹴り!
今度は、体を横に半回転!
床に、着地!
そして、正しい進路に向かって、頭から飛びこむ!
背中のノズルから魔力をジェット噴射して、急加速!
正しい横道に到達し、前転をしながら床に着地!
その勢いのまま体勢を立て直し、再度走り始める!
背後の十字路の交差点で二方向から押し寄せてきた汚泥津波が、もの凄い轟音を立てながらぶつかりあったのは、ちょうどそれと同時だった!
危ねーーーーーーッ!!
『次は、その先の階段を、あがるのじゃ!』
この謎の声には文句を言ってやりたいところだが、そんな余裕はない。
汚泥は、既に私の方に向かっても、移動を開始している。
とにかく、追いつかれるわけにはいかない!
「らッ!」
見えてきた階段を、ぴょんと跳躍して登る!
踊り場の壁を蹴って、今度は次の階へ!
『そして、次の丁字路を右に進むのじゃ!今度は、間違えてないぞい!』
本当だろうね!?
<すみません、エミー!私がもっと、占神の異世界転生配信を良く視て、占いを学んでいれば、こんなことには......!>
変な嘆き方をしている場合じゃないよ、オマケ様!
<そうですね......!なら、今の私にもできる、占いをします!......今日一番ラッキーな星座は、ゴドロンボ座です!!>
いや、結局は占いに身を委ねることになるのは、嫌だよって話だよ!
ってか、ゴドロンボって何!?
私、この世界の星座、知らないよ!
<とある神代の英雄の妻の従兄の友人の弟の飼っていた、芋虫です!>
そんな奴、星座にするんじゃねーーーーーーッ!!
<その全長たるや、おおよそ500キロメートル!>
でかーーーーーーッ!?
そりゃ、星座にもなるなーーーーーーッ!?
<......調子、出てきましたね、エミー!>
......まあ、多少は、余裕、出てきたかなッ!
私とオマケ様は互いに軽口を言いあいながら、前に向かって走り始めた。
でも後ろからは、轟々という音が再び近づいてきているのを感じる。
汚泥が、階段を登りきったんだ。
ちょうどそのくらいの時に、謎のアナウンスが予告していた、丁字路が見えてきた。
私は壁を蹴って飛び跳ね、ナビゲートされた通り右方向へと進む。
するとその先にしばらく続くのは、先ほどまでと変わらぬ、左右に無人の牢が点在する光景。
でも。
「はあッ!?」
私は思わず、怒気も露わに声を荒げてしまった。
だって、その、進んだ先にあったのは。
行き止まりの、壁だったんだから!
<背後から、汚泥津波が迫っています......もはや、引き返せません!>
オマケ様も、悲鳴をあげる!
『カカカッ!案ずることはないのじゃ!速度を落とさず、そのまま行き止まりの壁に、突進するのじゃ!』
しかし、アナウンスの声は、呑気に笑っている!
「ちッ......!」
私は混乱したまま、指示に従い壁に向かって走り......拳を振りあげ、思いきりそれで、壁を殴りつけようとした!
でも!
「......あれッ!?」
勢い良く突き出された私の拳は、宙をきった。
壁があるはずのそこには、実際には何もなく......私の体は、石壁をすっかり、“通り抜けて”いたんだ!
『カカカ......幻影なのじゃ!本当にこの大監獄は、小癪な真似をしかけてくるのう......』
アナウンスの声は笑いながら......呆れたように言った。
『ともかく、ゴールは近いぞい!そのまままっすぐ行った先にある、扉じゃ!』
そして続いて発せられたその言葉を聞いて気を取り直し、私は全速力で走る!
『むむ、さらに加速できるのか!?良いぞ良いぞ!汚泥には、おそらく幻影は効かないからのう!なるべく、距離をとってもらうことが肝要なのじゃ!そうすることで......』
『そうすることで』、というアナウンスと同時に、パチーンという、何かボタンのような物を叩いた音が聞こえた。
すると。
『隔壁を、落とすことができるからのう!カカカッ!』
そう言って笑うアナウンスの声と、同時に。
私の背後で、ドスンという、重々しい音が響いた。
何事かと振り返ると、私の背後の廊下に重厚な金属製の壁が出現し、道を塞いでいる!
それも、一枚じゃない。
ドスン、ドスン、ドスンッ!
そんな轟音を立てながら、次々にアナウンスが言う所の隔壁が、天井から落ちてくる。
<おそらく、この大監獄の石壁と同じ、結界的な措置を施された隔壁です!いかに災厄“幸福なる汚泥”コルマリャと言えど、これをすぐに突破するのは難しいはずです!>
オマケ様が、喜びの声をあげる!
私もほっと息を吐き、走る速度を緩めた......。
でも。
『あッ!立ち止まったらダメなのじゃ!』
......どうやらまだ、休んじゃいけないらしい。
何故かと、言えば。
ドスン、ドスン、ドスン、ドスン、ドスン、ドスンッ!
廊下を塞ぐ隔壁が落ちる場所は、どんどんこちらへと近づいてくる。
ちらりと、上を見る。
ちょうど、今私が立っている場所の真上にも、普通の天井のとは違う色の線が見える。
あの線は、おそらく、隔壁。
つまり、このままぼーーーっと、立っていれば。
<あの隔壁に、押し潰されてしまいます!>
「らあああああーーーーーーッ!!」
私は最後の死力を振り絞って、走った!
ドスン、ドスン、ドスン、ドスン、ドスン、ドスン、ドスン、ドスン、ドスンッ!
近づいてくる!
どんどん、隔壁が落ちる音が、近づいてくる!
『い、一旦、隔壁の展開を、止めるのじゃ......あッ、やべ』
何!?
最後の小声の『あッ、やべ』って、何!?
そう、疑問に思った次の瞬間!
ドドドドドドーーーッ!!
隔壁の落下ペースが、逆に速くなり......そりゃもう、凄い音が、後ろから聞こえてきた!
『操作を間違ったのじゃ。ごめんなのじゃ』
「ざけんなーーーーーーッ!!」
私は走った!
走って、走って、走った!
ぐううと、腹の虫が悲鳴をあげ始める!
<あ、見てくださいエミー!おそらくあの扉が、ゴールです!>
オマケ様のそんな声を聞いて前を注視すると、そこにあるのは石造りの大監獄には実に不釣り合いな、なんとも近未来的な形状の扉だ。
隙間から何やら黄色い光を漏らしていたその扉は、近くに誰もいないのにも関わらず......シュッという音と共に、勝手に開いた。
自動扉だ!
『さあ、飛びこむのじゃーーー!!』
「らあああああーーーーーーッ!!」
アナウンスに従い、私が頭からその扉の先の部屋に飛びこむのと、最後の隔壁が落ちてきたのは、ほぼ同時のことだった。
ズザザザザザーーーーーーッ!
私は疲れから受け身をとることもできず、うつぶせのまま、部屋の中央部分まで滑って行った。
「............む」
そして、なんとか上体を起こす。
するとまず目に入ったのは......部屋の中央に設置された、黄色い巨大な、透明の......宝石のようなものだ。
床から生え、天井に突き刺さっているそれは、仄かに発光しており......【魔力視】を用いずとも、そこに膨大な魔力が秘められていることが感じられる。
次いで、周囲を見回す。
それまでの石壁とは異なり、実に近未来的な部屋である。
床も壁も天井も、素材のわからない、白っぽい何かで作られており......あちこちに、用途のわからない大型の機械が設置されている。
前に......天空王国の最奥まで潜りこんだことが、あったけど。
あそこに、雰囲気は、似ている。
パチ、パチ、パチ。
と、ここで。
拍手が、聞こえた。
「よくぞ、この制御室までたどりついたのじゃ。頑張ったのう!」
......これまで館内放送で聞いていた、私をここまで導いた......女の声だ。
声のした方向に振り向くと、そこにいたのは。
みすぼらしい囚人服を身にまとった......絶世の、美女だ。
丸く、大きな目。
瞳は、光り輝く紫色。
髪色も、紫だ。
艶々と波打ちながら、背中のあたりまで伸びている。
小顔で、おそらく、背も高い。
おそらくっていうのは、彼女が椅子に座っているからなんだけど......足を組んでいて、膝から下が、とても長い。
そして、何よりも目立つ、身体的特徴は。
胸が、びっくりするほど、大きいということだ。
でも、まあ、そんなことはどうでも良い。
「誰」
そう、問題は、この女の人が誰なのか、ということだ。
囚人服を着ているんだから、おそらく囚人なんだろうけど......。
拳は、構えない。
彼女が私を、おそらくひとまずは安全と思われるこの部屋まで導き、助けてくれたことは明白だからだ。
でも、警戒は、する。
<そう言えば、三大獄卒が言っていましたね。エミーの他に、『乳のでかい神敵』が一人、収監されていると>
つまりは、この人が、神敵......?
あんまり悪い人には、見えないけど......。
<言ったでしょう?この世界では、神々が気に入らなければ、その人間は神敵です。悪い、悪くないは関係ありません>
「カカカッ!うーむ、かわいらしいお嬢ちゃんじゃのう!」
首を傾げる私を優しいまなざしで眺めながら、その美女は呑気に笑った。
「それでは、名乗るとする。仲良くなるための第一歩と言えば、自己紹介じゃ。ワシはいつだって、かわいらしいお嬢ちゃんとは仲良くしたいのじゃ!良いか......聞いて驚け!」
そして、おもむろに立ちあがり。
「ワシこそは、特級冒険者にして、現代の大発明家と呼ばれた“男”ッ!そして、世界一の学び舎が長ッ!その名も......」
腰に手をあて、大きな胸をはり......名乗りをあげた!
「“大魔導”......マジュローグなのじゃーーー!!」




