570 【美少女探偵アカシテリカ!】旧帝都フロゼンド博物館殺人事件8
全身を包みこんだ白銀の光が薄らいだ時、アカシテリカは変わらずそこにいた。
しかし、その雰囲気は......それまでとは大きく異なっていた。
強烈な存在感......威圧感。
支配者然とした、堂々たるたたずまい。
彼女は腕を組み、ただそこに立っているだけなのに......思わず頭を垂れたくなるような衝動を、ジミーヤックは必死に抑えた。
「ブシュウウウウウッ!!」
しかし、スチール・インデックスは止まらない!
極度の発光がおさまり標的を再度視認したこの古代兵器は、構えていた巨大な槍を、未だうっすらと白銀の光をその身にまとう少女に向かって、思いきり突き出した!
「あ、危ないでやすッ!!」
「避けるでかすッ!!」
それを見て意識のあった警察官たちから、悲鳴じみた叫び声があがる!
しかし......。
アカシテリカはその槍を避けるため、逃げようとはしなかった。
彼女はにっこりと微笑み、そして。
「【皇帝のつま先は鞠を天へと送る】ッ!!」
凄まじいスピードで、その右足を振りあげた!
そして、己の体を貫かんと迫る巨大槍の穂先を、後方に宙返りしながら......思いきり、蹴りあげた!
「ブシュウウウウウッ!?」
ガゴンッ!!
大きな音を立てながら、スチール・インデックスの槍は、そのベクトルの変更を余儀なくされる。
巨大な質量による古代兵器の攻撃は、小さな体の少女によって、上方向へと弾かれる!
バランスを崩したスチール・インデックスは、周囲に蒸気をまき散らしながらその場でよろめき、数歩後退した!
「ジミーヤックさん!」
ここで。
アカシテリカは呆然とするジミーヤックを睨みながら、彼に声をかけた。
「血筋を理由に他者を軽んじ、身勝手な理由で傷つけ理不尽を振りまく!そんなあなたを......私、アカシテリカ・スゲーワは、決して許しません!」
それは、断罪の宣言であった。
「大貴族の末裔であろうと、あなたは殺人を犯した犯罪者です!大人しく逮捕され、法による裁きを受けなさい!」
ジミーヤックがその主義主張上、一番に尊重し何においても優先すべき存在からの、彼を否定する言葉であった!
「う、嘘だ......嘘だぁぁぁーーーッ!」
対するジミーヤックは......突然叫び始めた。
困惑、絶望、怒り、恐怖......まぜこぜになってわけがわからなくなったやり場のない感情を、ダン、ダンと床を踏みつけて少しずつ発散しながら、混乱する思考をまとめ、何とか意味のある言葉を紡ぐ!
「お前が、皇族なんて、嘘だろッ!?どうして皇族が、探偵なんぞやっているッ!?」
「それは、愚問ですね。私は皇族である以前に、探偵なのです。魂のあり様に従い、私は私らしくしているだけです」
青い顔で喚き散らすジミーヤックに対し、アカシテリカはフンと鼻から息を吐き、誇らしげに胸をはった。
魂のあり様。
ジミーヤックどころか......アカシテリカ以外には、納得することのできない理由である。
「ならば何故、その尊い血筋を隠すッ!?」
そして次に、ジミーヤックはこの疑問を、思いつくままに聞いた。
聞いてしまった。
彼は今、冷静ではない。
だから思ったことを、そのまま口に出してしまった。
「理由はいくつもあります」
アカシテリカはにっこりと微笑んで、答えた。
「例えば、『あなたのような人がすり寄って来て、面倒である』......とか。言ったでしょう?私たち家族は、あなたたちには本当に、迷惑しているんです」
「あああ、ああ......ああああああーーーーーーッ!!」
その結果として......聞いてしまった。
一番聞きたくない言葉を、聞いてしまったのだ。
ジミーヤックは必死になって耳を塞ぎ、大声を出してその言葉をかき消そうとし、そして......。
「言わないッ!皇族は、オレ様の皇族は、そんなことを、言わないッ!!」
しかしながらどうしても耳に届いてしまったその言葉を、ブンブンと首を横に振りながら、拒絶した!
「オレ様を否定する皇族など......あってはならないッ!そんな皇族の言葉を聞いてしまった人間など......いてはならないッ!!ケケ......ケケケケケケッ!!」
さらにジミーヤックは、肩を揺らして不気味に笑いだした!
そして右手人差し指を天井に向けて伸ばし、それをクルクルと回し......。
「スチィィィーーール・インデェェェーーーックス!!皆殺しだぁぁぁーーーッ!!今ッ!!この場にッ!!いるッ!!全ての人間をぉぉぉーーーッ!!皆殺しにッ!!せよぉぉぉーーーーーーッ!!!」
非道な命令を、くだした!
「ブシュウウウウウッ!!」
スチール・インデックスはその命令を、瞳を模した赤色発光体を点滅させながら、“一言一句誤りなく、正確に”理解した!
そしてその手に持つ巨大な槍を構え、まずは手始めに......。
一番近くに立っていた、ジミーヤック目がけて、その槍を振り回した!
「ぐげぇーーーーーーッ!?」
全く予想だにしない、一撃である!
ジミーヤックはそれを避けることもできず、ただ小石のように吹き飛ばされ......頭から壁へとつっこみ、上半身をそこにすっかりめりこませ、ぐったりと動かなくなった。
......ジミーヤックは、『今、この場にいる全ての人間を皆殺しにせよ』という命令を、スチール・インデックスにくだしたのだ。
彼は本来ならここに、『ただし自分を除く』と、一言追加しなければならなかったというわけだ。
「ブシュウウウウウッ!!」
さて、まずは一人目の人間の無力化に成功したスチール・インデックスは、ガシャン、ガシャンと重々しい足音を鳴らしながら、現在命令を遂行する上で一番の脅威となりうる存在へと向き直った。
それは、白銀に光り輝く少女、アカシテリカ!
「私は、守ります。あなたを、倒します」
アカシテリカは腕を組んだまま、巨大なスチール・インデックスを見あげた。
その表情に、怯えはない。
決意と、覚悟。
その二つによって、彼女の表情は引き締まり......その瞳には闘志が燃えていた!
「ブシュウウウウウッ!!」
「はあああああッ!!」
そして、次の瞬間には!
スチール・インデックスとアカシテリカ......この相対する両者は!
お互いに向かって......ほぼ同時に、駆けだしていた!
【白銀の光】
神珠の力を引き出している者がまとう光。
本作ではアカシテリカの他にも、第16章にて、巨大なフジツボが白銀に光り輝いていた。
ただしフジツボの時とは違い、変な鏡に干渉を受けていた方を除けば代々の皇帝は概ねまっとうな統治を行っていたので......スゲーワの神珠冠には、妙な精神汚染効果はない。




