569 【美少女探偵アカシテリカ!】旧帝都フロゼンド博物館殺人事件7
ダァンッ!
パパンッ!
バリバリバリッ!
警察官たちが放つ多種多様な魔法の光が、玄関ホール内の壁を賑やかに照らす。
魔法の一つや二つ、余裕で耐え凌げる外装を持つ魔導ドローンも、それが十、二十となれば話は別である。
良く訓練された警察官たちの連携魔法攻撃により、魔導ドローンはその数を徐々に減らしつつあった。
「ぐふふ、ふふふッ!!」
ラキガター館長の大剣さばきも凄まじく、魔導ドローンの攻撃はこれまで一度もアカシテリカへは届いていない。
もちろん、いかにラキガター館長が達人的な大剣使いであったとしても、全くの無傷というわけにはいかない。
彼の仕立ての良いスーツは、今や血がにじむ切り傷だらけになり、ボロボロだ。
「ぐあッ!?」
「負傷者は、後ろへさがるでやす!」
「交代!速やかに交代でがすよ!」
無傷ではないのは警察官たちも同じだ。
死者は出ていないが、徐々に大きなケガを負う者も増えて来た。
丸鋸で斬りつけてくる魔導ドローンたちに、手も足も出ないというわけではないにしても......戦況は、良くはない。
若干、警察官側が不利、といったところだ。
「............」
それを面白くなさそうに眺めているのは、ジミーヤックだ。
彼にしてみれば、魔導ドローンの一つ一つも、今後組織が兵器として活用するべき財産である。
この場で減らす魔導ドローンは、少ない方が良いのだ。
「戦闘テストは、ここまでだ」
ジミーヤックは人差し指をクルクルと回しながら、彼の横にたたずむスチール・インデックスに、指示を出した。
「本体が戦え。警察官共と筋肉爺を、ぶっ飛ばせ」
「ブシュウウウウウッ!!」
次の瞬間!
スチール・インデックスは蒸気をまき散らしながら......一瞬で警察官たちの目の前に移動!
そしてその手に持つ巨大な槍を、横薙ぎに振り回した!
「「「「「ぐはあーーーーーーッ!?」」」」」
技術も何もない、ただの振り回しだ。
ただし、その槍の質量と、振り回される速度は、尋常のものではない。
ほとんどの警察官たちは、スチール・インデックスの攻撃に耐えることができず......まるで虫を払うかのように軽々と、吹き飛ばされてしまった!
「ブシュウウウウウッ!!」
次いでスチール・インデックスは方向を変え、今度はラキガター館長に突進し、その槍を振るった!
「ぬ、ぐ、ふううッ......!!」
ラキガター館長はその横薙ぎの一撃を、下から大剣を振りあげて槍にぶつけ、その軌道を変えることで回避した。
しかし、その代償は大きい。
ラキガター館長が使っていた大剣は......その衝撃で、根元から折れてしまったのだ!
「まだまだぁッ!こんなことも、あろうかとぉッ!!」
ラキガター館長は叫び、再度ダンと床を踏み鳴らす!
すると彼の横の床がパカリと開き、新たな大剣が飛び出してくるも......。
「ブシュウウウウウッ!!」
ラキガター館長がその大剣を掴むよりも、スチール・インデックスが新たに槍を振るう方が、早かった!
「ぐふああああーーーーーーッ!!!」
巨大な槍でその体を思いきり打ちつけられ......ラキガター館長はたまらず、玄関ホールの壁まで吹き飛ばされた。
そこでさらに壁にぶつかることで、その全身にダメージを負ったラキガター館長は......意識を失い、がっくりとうなだれた。
「どうだ!どうだどうだどうだ愚民どもぉーーーッ!!これぞッ!我ら帝国のッ!新たな力ぁーーーッ!!ケーーーッケケケケケケッ!!」
すっかり静かになった玄関ホール内で、ジミーヤックは不気味に笑う。
そして歪んだ笑みを浮かべながら、アカシテリカを睨みつけた。
「さあ、美少女探偵、次は貴様の番だ!大貴族たるオレ様にたてついた罪は重い!」
ジミーヤックはそう言って、人差し指をクルクルと回した。
スチール・インデックスの瞳を模した赤色発光体が、点滅する!
「不敬罪で......処刑だあああああーーーーーーッ!!裁きをくだせ、スチィィィーーール・インデェェェーーーックス!!!」
「ブシュウウウウウッ!!」
スチール・インデックスはその命令を果たすため、蒸気を噴き出しながら......巨大な槍をゆっくりと掲げた。
まっすぐに突き出し、アカシテリカの体を串刺しにする構えだ!
アカシテリカは。
対する、アカシテリカは。
「ふううううう......」
大きく息を吐き、まっすぐにスチール・インデックスを見据えた。
そして、彼女のトレードマークであるキャスケット帽を......脱いだ。
◇ ◇ ◇
警察官たちが、そしてラキガター館長が次々に倒されていく中。
アカシテリカは、祈っていた。
(助けて......助けて、エミー......!)
しかし、現実は無情。
エミーは現れない。
彼女が落ちたと思しき大穴の底からは、今も轟々と水が流れる音が響いている。
(どうして、こんな理不尽な......!)
倒れ、痛みにうめく警察官たちを見つめながら、アカシテリカは世の不条理を嘆き。
そして。
ここで。
気づいた。
(私は、何を、考えているの......?)
自分が。
無意識の内に。
エミーに、甘えていたのだということに。
(理不尽......それを振り払うのは、私だッ!)
「さあ、美少女探偵、次は貴様の番だ!大貴族たるオレ様にたてついた罪は重い!」
目の前では殺人犯が、自分勝手な理屈を喚いている。
今、ここで自分が動かなければ。
目の前の殺人犯は、自分を殺した後......まだ息のある周囲の人間を、皆殺しにしてもおかしくはない。
そんな理不尽は、許されてはならない。
職務を全うした善良な人々を、これ以上傷つけてはならない。
「不敬罪で......処刑だあああああーーーーーーッ!!裁きをくだせ、スチィィィーーール・インデェェェーーーックス!!!」
「ブシュウウウウウッ!!」
何を、使ってでも。
警察官たちを。
ラキガター館長を。
そして、エミーも!
助けなくてはならない!
......私が!!
「ふううううう......」
そしてアカシテリカは、大きく息を吐き。
キャスケット帽を、脱いだ。
「今の時代に、本当ならば、許されることではない。それは理解しています」
そして小さく、謝罪の言葉をつぶやいた。
「あん?」
その謝罪を聞きとがめたジミーヤックは、首を傾げた。
目の前の美少女探偵は、何を言っているのか?
「しかしこれも、人々を守るため......理不尽を、振り払うため!」
次にアカシテリカは、叫んだ!
そして......それまで胸元に抱きかかえていたスゲーワの神珠冠を、高く掲げた!
「おい......おいおいおいッ!?待てッ!!貴様ッ!!何をする気だッ!?」
それを見ていたジミーヤックは、青い顔をして慌てた!
何故なら彼は、『何をする気だ』と問いかけてはいるものの!
その実、アカシテリカが何をする気なのかは、一瞬で理解できてしまったからだ!
そして、それは!
ジミーヤックにとっては......実に、実に都合の悪い、とある事実の証明に他ならないからだ!
「やめろッ!!」
ジミーヤックは、叫んだ!
懇願じみて叫ぶこと以外、できなかった!
「やめませんッ!!」
アカシテリカはそんなジミーヤックの要求をにべもなく断り、そして!
掲げていたスゲーワの神珠冠を......その頭上に、乗せた!
「スゲーワの神珠冠よッ!」
そしてアカシテリカは、その冠に対して、語りかけた!
「やめろ、バカ、やめろッ!聞きたくない!聞かせないでくれッ!!」
ジミーヤックは耳を塞ぎ、青い顔で懇願を続ける!
「アカシテリカ・スゲーワが、その血を以て命ずるッ!」
アカシテリカが、そう口上を述べた、その瞬間!
スゲーワの神珠冠が、力強い、白銀の光を放ち始めた!
「ああああああ......!」
ジミーヤックはそれを見て、膝から崩れ落ちた!
「民を守るための力をッ!!この身に授けよッ!!」
そしてアカシテリカが、そう叫ぶと!
スゲーワの神珠冠の輝きは、さらに強まり!
彼女の全身を......白銀の光が、包みこんだ!




