503 始まりの大草原の終わり2
「お、おい......おいッ!?大丈夫かーーーッ!?」
カラマーリュは少しの間呆然としていたがすぐに気を取り直し、シメガマモの傍でかがみ、大声で彼女に呼びかけた。
「ひゅーーー......ひゅーーー......」
「!!」
彼女の口元からは、微かな呼吸音が聞こえる。
胸も、ゆっくりと上下している。
まだ......生きている!
カラマーリュは背負ったリュックの中から大慌てでポーションを取り出し、それをシメガマモに使用しようとした。
......カラマーリュでも用意できる、安物のポーションだ。
これほどまで肉体を傷つけられた人間を回復させることができるかは、わからない。
それでも、使わないよりましだ。
しかし。
「やめろ......」
シメガマモはか細い声でそうつぶやくと、腕に巻きついていた蔦をシュルシュルと伸ばして、カラマーリュの手を強く叩いた。
「あッ!?」
その衝撃で、カラマーリュは思わずポーション瓶をその手から離す。
くるくると回転しながらポーション瓶は落下して、地面に転がるコドロキゾ鉱石にぶつかり、割れた。
頼みの綱の回復薬は、じわじわと地面に染みこみ、消えていく......。
「なんてことをするんだッ!!」
青い顔のまま怒鳴る、カラマーリュ。
しかし、当のシメガマモに、その怒りを気にする様子はない。
「これで......良い。報いが、来たのだ......だから私は、死ねば良い」
彼女はぼうっと、焦点の合わない瞳で遠くを見ながら、ぼそぼそと言葉を紡いだ。
「死んで良い命なんか、あるかッ!!」
「それは......人の世の掟」
ここでシメガマモは、苦痛に顔を歪めながらも、皮肉気にククと笑った。
「しかし、私は殺し過ぎた。故に、死ねば良い。それもまた、人の世の掟......」
「何言ってんだ、おい!......おいッ!!」
どんどん、シメガマモの言葉が小さくなっていく。
生命が、終わろうとしている。
「最後に......義弟殿」
ここで。
「私に残された......最後の家族」
シメガマモは泣きそうになって震えているカラマーリュのことを、ちらりと見やり。
「私は、あなただけは......絶対に死なせたくないと、願っていた」
微笑んでから。
「あなたを救えて、本当に良かった......」
静かに......その瞳を閉じた。
「......最後まで!最後まで、どこまで自分勝手なんだ、あんた......!」
カラマーリュは、怒鳴り。
悲しみ、怒り。
やるせない気持ちに打ちのめされ。
がっくりと肩を落とし、静かに震えた。
それを見つめる、聖女アドも三兄弟も、無言である。
かける言葉もない。
夜の始まりの大草原は、静寂に包まれている。
ただ、時折吹く風だけが、びゅうと音を鳴らし。
地面の草を、ふわりと動かした。
始まりの大草原をめぐる事件は、こうして終幕を迎えた。
誰もが、そう思った。
しかし。
......その時だった!
シュウウウウウンッ!!
凄まじい、風を切るような音を鳴らしながら!
チカチカと星々が輝く、天上から!
種のような形状をした......黄金色に輝く、流れ星のような何かが、降って来たのだ!
「何だ!?」
そのあまりの速度に、その場にいた誰しもが、何ら反応をとれなかった。
何者にも邪魔されず降って来たその黄金色の種は、まっすぐ......まっすぐ!
迷うことなく!
シメガマモの肉体に向かって行き......そしてその体に吸いこまれて、消えた!
すると、次の瞬間!
「アアアッ!?ガアアアアアッ!?」
死んだはずのシメガマモがかっと目を見開き、黄金色に輝きながら、絶叫を放った!
「な、な、何だ!?何が起きている!?」
「わからねぇッ!わからねぇけどッ!」
「離れんぞ、先生ぇッ!」
「なんかやばいッ!きっと凄くやばいッ!」
訳がわからず身動きをとれなかったカラマーリュに三兄弟は駆け寄って、彼のことをシメガマモから引き離した。
「アアアアアア、アアアアアア......!?」
その間も、シメガマモの絶叫は止まらない。
そして、その絶叫と共に。
ミシ、メキメキ、ゴキッ!
そんな奇怪な音が、彼女の体からは鳴り響いていた。
それは、“置き換わる”音だ。
彼女の体は、黄金色に光り輝きながら。
......植物に、置き換わりつつあった。
その両手両足は、太い蔦の集合体へと姿を変え。
大穴の開いた胸部には、みっちりと苔が詰めこまれ。
その体中から、背の低い草が生え始めた。
「アアア、ア......ア......」
絶叫が治まった、その時には。
シメガマモは、すっかり人間の体を、失っていた。
頭部こそ、以前のままであったが。
その体は......未だ黄金色に光り輝く、奇怪な“植物人間”とでも言うべき何かに、変貌してしまっていた。
「............ふむ」
シメガマモは、蔦へと変じた両手両足を動かしながら、むくりと立ちあがった。
そしてペタペタと己の体を触りその調子を確かめると、何かに気づき、少しの間動きを止めてから。
「なるほど......なるほど!」
嬉しそうに笑ってから、黄金色に輝くその瞳で、カラマーリュたちを見つめた。
「実に......喜ぶべき、夜である」
そしてシメガマモは穏やかな笑顔を浮かべながら。
ダン、と。
その足で、草原を踏み鳴らした。
「「「「「!?」」」」」
すると、瞬く間に周囲の植物が成長し。
太い太い、蔦が伸び。
カラマーリュを。
三兄弟を。
そして、聖女アドを。
......ぎっちりと縛りあげ、拘束した!




