502 始まりの大草原の終わり1
ズ、ズウン......。
始まりの大草原の奥地に、地響きが鳴った。
それは、左右二つに分かたれたグランドアーマードユムシの巨体が、地面に倒れた音だ。
それ以外は、全く無音の夜だった。
バケモノが暴れていたので、虫たちはどこかに逃げてしまったらしい。
そんな静寂の大草原を照らすのは、星と月の明かりのみ。
先ほどまで紫だの金だのに照らされていたが、日が沈んでから既にそれなりの時間が経過しているのだ。
周囲は、薄暗い。
そんな、静寂の世界に、突如。
次なる音が、鳴り響いた。
ぐうううううーーーッ!!!
......それは、エミーの腹の音だ。
繰り返すが、本日彼女は、小さな兎を二十羽......“だけ”しか食べていない。
成長期の少女である彼女の腹は、その程度では決して満足しない。
グランドアーマードユムシが真っ二つになるその直前まで彼にはりついていたエミーは、この時このバケモノの一番傍にいた。
だからすぐさま、未だピクピクと痙攣を続けるグランドアーマードユムシの切断面に跳び乗って、無言のままそれにかぶりつき、捕食を始めた。
そして、果実を貪る虫の如く肉に穴を空け、その中に潜りこんで行き、姿を隠した。
「よっしゃーーーッ!!」
「勝ったーーーッ!!」
「やったーーーッ!!」
一方で、地面の下に掘り進んだ隧道に身を潜めていたグーギーダン、グーギーデン、グーギードンの三兄弟はピョンピョンと地面から飛び出し、喜びを爆発させていた。
「あッ!姉御はッ!?」
「どこ行った、姉御ッ!?」
「姉御ッ!?姉御ッ!?」
しかしすぐに頭部に巻いた魔灯ライトの光らせて辺りを照らし、聖女アドを探し始めた。
「あッ!いたぞ、姉御ーーーッ!!」
「大丈夫か、姉御ーーーッ!?」
「姉御ッ!?姉御ッ!?うおおおおおーーーッ!?」
そしてうつぶせに倒れる聖女アドを発見、大慌てで駆け寄り、ゆさゆさとその体を揺さぶって。
「う、うっさいわ、ボケーーーッ!!静かに、しろ......ゲホッ」
「あうッ!?」
「ごふッ!?」
「がはッ!?」
息も絶え絶えの聖女アドに【結界・小槌】で殴られた。
「............」
そんなバカ騒ぎが背後で行われていることを感じながら、シメガマモを無言だった。
無言で、すっかり蔦を始めとした植物が枯れ果て元の状態に戻った大鉈を地面に突き刺し、仁王立ちしていた。
その視線の先にあるのは、彼女の両手だ。
それは、肘の辺りまですっかり、苔で覆われていた。
見ようによっては、緑色のモコモコとした手袋をしているかのように......見えなくもない。
しかし......そうではない。
正確に言うのならば、彼女の両手は、“苔に覆われてしまった”のではない。
彼女の両手は......。
「無事か......?」
と、ここで。
シメガマモはそう声をかけられ、振り返った。
するとそこにいたのは、ランタンで周囲を照らし、神妙な顔をしながら近づいてくるカラマーリュだ。
「............」
その顔を見てシメガマモは、誰にも気づかれない程小さく、ほっと、安堵の息を漏らした。
そう、安堵の息だ。
シメガマモにとって、一族の掟は本来、何よりも優先すべき、守るべきルールだ。
しかし、その実、彼女はこのところ。
それにもまして、守ろうとしていたものが、あったのだ。
それこそが......。
「「「うわーーーーーーッ!?」」」
と、その時だった!
突然三兄弟が何かを見つけ、悲鳴をあげた!
何事かとシメガマモが周囲を見回すと、“異常”はすぐに見つかった。
死んでいるはずの、グランドアーマードユムシの周辺に。
大小さまざまな、コドロキゾ鉱石がふわふわと浮かんでいたのだ。
まるで、【魔鉱石弾】の、射出直前の状態のように!
......これは、端的に言えば、死後の痙攣だ。
ただし、魔力的な。
グランドアーマードユムシの肉体に宿っていた、膨大な魔力。
その一部が。
制御を失って、【魔鉱石弾】を、暴発させたのだ!
ダガガガガガッ!!
そしてその暴発【魔鉱石弾】は次の瞬間、当然狙いを定めることなく、四方八方、滅茶苦茶に発射された!
聖女アドは、傍にいた三兄弟がとっさに魔法で作りあげた土壁に守られ、無事だった。
しかし。
......シメガマモとカラマーリュは、無防備!
「うおおおおおーーーーーーッ!!!」
シメガマモはとっさに駆け出し、カラマーリュの前に立ちふさがり、盾となった。
ドスッ......ドスドス、ドスッ!!
思わず身を縮こまらせて固まっていたカラマーリュが、その瞳を開くと。
そこにあったのは、両腕を広げて自分をかばう、シメガマモの背中だった。
「お、おいッ!?だ......」
大丈夫か!?
カラマーリュがそう問いかける前に......シメガマモは、ドサリと音を立てながら......背中から地面に倒れこんだ。
その体には、無数の【魔鉱石弾】が突き刺さっている。
右腕に至っては、肘から先が無くなっている。
そして、何より。
その胸には。
特大のコドロキゾ鉱石が突き刺さり、大きな大きな......穴を空けていた。




