491 阻む者と進む者2
「「「う、うわあーーーッ!?」」」
三兄弟の足に絡みついた植物は、急激に成長!
瞬く間に見あげるほどの高さまで伸び、三兄弟を逆さづりにした!
「頭から潰れろ」
そんな彼らの悲鳴など意にも介さず、シメガマモは依然として冷たい調子でそう言い放ち、ダン、と再び大地を踏み鳴らした。
すると再び、三兄弟を捕縛している植物がわさわさと動き始める。
低身長とは言え筋骨隆々で重たそうな彼らの体を、軽々と振り回し始めた。
そのまま勢いをつけて地面に叩きつけ、彼らを殺そうというのだ......!
「グーギーダン!グーギーデン!グーギードン!」
戦友たちの末路に思い至ったカラマーリュは、真っ青な顔で悲鳴をあげた!
......しかし!
「【結界・斬撃】」
たった一言、そんな言葉が響いたかと思うと。
三兄弟の、周囲。
地面から、数十センチメートルほどの、高さの空間に。
水平に広がる......仄かに発光する半透明の床のようなものが、突然出現した。
結界である!
その結界は、展開の過程で異常成長した植物の根元をばっさりと切断しており、その結果として三兄弟は間抜けな声をあげながら、振り回された慣性に従って遠くへと吹き飛ばされていった。
「あ、あうう......」
「目、目がまわる......」
「気持ち悪い......」
そして飛ばされた先で吐き気にえづきながら、立ちあがろうとしては転び、尻もちをついた。
「護衛対象が勝手な動きすんなや、ボケが」
結界で三兄弟を救い出した張本人、聖女アドは、くわえていたタバコを携帯型の吸い殻入れにねじりこむと、ため息とともに大量の煙を吐き出しながら、カラマーリュをかばうように前へと進み出た。
そしてやさぐれた表情を瞬時にかき消してビジネス笑顔を浮かべ、見事なカーテシーを披露した!
「お初にお目にかかりますわ!ワタクシ、聖女組合公認の第一類第一級聖女、アド・バーンスと申しますの!」
さらにそうやって挨拶の口上を述べた後、今度はニヤリと口角を大きくあげて笑い......。
「楽しく......踊りましょうッ!!」
両手に発生させた、先程の結界と同じく仄かに発光する拳大の光球を、鋭い勢いでシメガマモに向かって投げ放った!
「ふむ」
シメガマモはその光球を、戦士の勘で“触れてはならぬ物”であると看破し、必要最小限の動きで回避した。
「それは、無理だ。私は既に結婚しているから、夫以外とは踊れない。それが一族の掟だ」
そして、ダ、ダンと、大地を二度踏み鳴らした。
すると聖女アドの足元の植物が蠢き始め、彼女目がけて絡みつこうと、異常成長を始めた。
それも、三兄弟の時よりも、素早く!
「【結界・空中床】」
しかしそれよりも、聖女アドの行動の方が、早かった。
彼女は植物に捕縛される直前で高く跳躍し、空中に水平の結界を展開した。
植物たちは結界に阻まれ、宙に立つ聖女アドを捕まえることができない!
「はッ!!」
それを見るや、シメガマモは瞬時に空中の聖女アドに向かって左腕を向け、そこに巻きついた蔦を伸ばした!
ファーストタウンで二名の護衛を殺害した時に使用した、横方向の攻撃だ!
「【結界・盾】」
聖女アドはそれを、自身の前方に垂直に切り立った形の結界を展開することで危うげなく防いだ。
結界にぶつかった蔦はその場で急成長を始め、根を結界に食いこませながら繁茂し、聖女アドの視界を塞いでいく......。
「!!」
次の瞬間!
悪寒を感じた聖女アドがバックステップをしてその場から離れるのと、シメガマモが大鉈で結界を斬り裂き、聖女アドが空中に作り出した足場に乗りこんで来たのは、ほぼ同時のことであった!
シメガマモは結界に食いこんだ蔦の力で自分の体を引き寄せ、高速移動を行ったのだ!
「は!は!はッ!!」
聖女アドに肉薄したシメガマモは、次々と致命の攻撃を繰り出す!
拳を、もしくは足を振り抜き、あるいは再度滅茶苦茶に大鉈を振るい、類稀な膂力をぶつけて聖女アドを一撃のもとに打ち倒そうとする!
「あッ、はははッ!マナーが、悪いッ!そういうの、ワタクシ好みですわーーーッ!!」
それら全てを、じりじりと後退しながらも、聖女アドはいくつもの小さな結界を展開することで防ぎ、あるいは受け流した。
連続攻撃を繰り出し続け、猛烈に攻めるシメガマモ。
それを完璧にさばききる聖女アド。
ここに一つの均衡状態が生まれた。
しかしそれも、長くは続かない。
戦闘における均衡など、一つのきっかけで容易く崩れてしまう。
そしてそのきっかけを作ったのは、この場においては聖女アドであった。
何故なら彼女たちが戦っているのは聖女アドが作り出した結界の上であり、この空間を支配しているのは聖女アドであるからだ!
聖女アドはシメガマモの猛攻をさばきつつ、冷や汗を流しながらもニヤリと獰猛に笑った。
「......!!」
その表情から己の危機を察したシメガマモは、後方に跳躍してその場を仕切りなおそうと、足に力をこめた。
しかしその判断......数瞬、遅かった!
聖女アドはその瞬間に、シメガマモの足場となっていた結界を、消し去ったのだ!
「ぐ、ぬ!?」
足場を失い下へと落ちたシメガマモだが、その体はすぐに別の結界によって空中にて受け止められた。
異能か何かの力によって、どうやらシメガマモは植物を操ることができる。
そんな相手を植物にあふれる大草原の地表上に戻す気など、聖女アドにはさらさらなかった。
「【結界・大槌】」
聖女アドはバランスを崩しよろめくシメガマモの頭上に、仄かに光り輝く結界で巨大なハンマーを作り出し......それをまっすぐに、振りおろした!
「はッ!!」
シメガマモは慌てて体勢を整え、勢いよく後方に跳躍!
辛うじて大槌の攻撃範囲から逃れた!
しかし......!
「がはッ!?」
次の瞬間、シメガマモは背中に強い衝撃を受け、空中ではりつけになったような姿勢でその動きを止めた!
急ぎ首を動かし周囲を確認して、何が起きたのか把握しようとするも、よくわからない。
彼女は“何もない”空中で、“何か”に拘束されてしまったのだ!
「あっははは!!ワタクシの結界、全て光り輝いているとお思いでしてッ!?それ、ミスリードですわーーーッ!!」
聖女アドはそんなシメガマモの様子を眺めながら高笑いをかまし、指をパチンと弾いた!
するとシメガマモの後ろに、壁のようにそびえたつ巨大な結界の姿が、光と共に現れた!
ご丁寧にシメガマモの両手両足はその壁から伸びた紐のような形状の結界で縛りつけられており、もはや彼女は身動きがとれない!
「【封印球】」
聖女アドは次いで、その右手に仄かに輝く光球を作り出した。
シメガマモに向かって初手で投げつけたものだ。
シメガマモの戦士としての勘が、ガンガンと警鐘を鳴らす!
あれは、だめだ!
あれを受けては、ならないと!
「私は......私は、負けないッ!一族の掟に、従いッ!お前を......!」
シメガマモは必死になって暴れるが、聖女アドの結界は壊れない。
ミシリ、ミシリと音は鳴るが、両手両足の拘束が外れない......!
「あっははは!一族の......掟ぇ?」
聖女アドは高笑いをやめると、光球を握りしめながら肩をぐるぐると回し。
「掟だの......しきたりだの」
憎々し気な視線を、まっすぐにシメガマモに向かってぶつけ。
「ワタクシそういう、理不尽に人様の人生を歪めやがる、古くからの因習が」
大きく振りかぶって。
「大ッ嫌いッ!!ですのーーーーーーッ!!」
光球を......全力で、ぶん投げた!
「ぐあああああーーーッ!?」
光球は狙い過たず、シメガマモの腹部に命中!
すると突如としてその輝きを増し......シュルシュルと、紐のようなものを伸ばし始めた!
「あああ、あ......あ......」
その紐は瞬く間にシメガマモの体に巻きついていき、彼女を覆う白い繭のような物を形成した。
「封印完了」
その様を見て聖女アドはパチンと指を鳴らすと、結界の力によって宙に浮いていた繭は地面へドサリと落ちた。
その中では未だにシメガマモが暴れているのか、繭はモコモコと蠢いているが、それが内側から破られる様子は見受けられない。
それを見て聖女アドは満足そうに頷き、満面の笑みを浮かべると。
「いつだって、最後に勝つのは......古きを打ち破り、前に進もうとする人間なのですわ!」
高らかにそう宣言し、懐から取り出したタバコをくわえた!




