484 一人目の女、シメガマモ1
ファーストタウンは田舎町だ。
八百屋に肉屋、金物屋、武具屋、冒険者ギルドなど、生活に必要な施設は一通りそろっている。
しかし、田舎町だ。
白い石を積んで作った四角い住居が立ち並ぶ、中央通り。
それはこの町の、メインストリートだ。
メインストリートではあるが、そこには石畳などは敷かれておらず、薄茶色の土がむき出しになっている。
馬車や人々の往来もそこまで多くはないので、舗装の必要がないのだ。
それと、舗装のための金もないのだ。
つまり、田舎町なのだ。
まあ、石壁の白。
そして、道の脇、さらには平らな住居の屋根の上にまで浸食を続ける、大草原に生える背の低い各種植物の緑。
町の向こうに延々と続く、始まりの大草原。
これらがあわさって生み出される景観は、なかなかに長閑で牧歌的で美しく、見る者の心を癒してくれる。
即ち、田舎町なのだ。
「............」
そんな田舎町のメインストリートを、眼鏡をかけて眉間に皺寄せる、痩せた若い男が歩いていた。
その男は仕立ての良い、シャープでスタイリッシュでアーバンな暗褐色のコートを羽織り、その足元にはピカピカの革靴をはいていた。
ただの革靴ではない。
なんか先っぽがシュッと尖っている、インテリっぽいヤツだ。
とにかくそんな学者然とした男がムスッとした表情で、五人の護衛を引き連れて歩いていた。
護衛の内訳は、まず三人が安っぽい皮鎧を着たこの町の衛兵で、残り二人が物々しい装備に身を包んだ見るからに腕利きの冒険者だ。
冒険者の二人はぴったりと痩せた男にはりつき、護衛としての矜持を感じられる動きをしている。
衛兵の三人は、なんとなくその後ろについて、歩いている。
そんな感じの、御一行様だった。
さて、つまり、質はともかく。
この神経質そうな学者風の男は、護衛をつけるべき立場にある人間ということであり、その正体はこの町を治める領主である。
その名は、カラマーリュ・ヤキ・ファースト。
兄の死、そしてそれに次ぐ父の急死により、望んでもいないこの辺境の領地を引き継がねばならなくなった、若き子爵である。
彼は領地開発につながる一大事業を行うために呼び寄せた業者との打ちあわせを終え、彼の館へと帰る途中なのだ。
ちなみに、領主だからと言って、いちいち移動に馬車を使ったりはしない。
馬を飼うのにも、金がかかるからだ。
「む!」
「何者だ!?」
さて、その時だ。
路地裏からメインストリートの中央へと歩み出て、仁王立ちし、彼らの歩みを阻む者が現れた。
冒険者の男たち二人はすぐに腰に吊るした剣に手をかけ、臨戦態勢をとった。
実に真面目な仕事ぶりである。
後ろの衛兵三人は、立ちはだかったその人物を見て慌て、ただワタワタとした。
その人物は、女性だった。
大柄で、女性らしさを残しつつも、筋骨隆々とした体つきだ。
戦士である。
それは、その体つきからも、そして腰に帯びた大鉈の使い古された様子からも、見てとることができる。
ワシャワシャと好き放題にはね、全く整えられていない、腰まで届くその髪は赤茶色。
肌色は、褐色。
その身にまとうのは、草原狼の毛皮を縫いあわせて作ったと思しき、緑色の衣服だ。
それをところどころ、葉や花がついたままの蔦でもって、ベルトのように締めつけている。
実に、野生的という言葉が似あう、いで立ちだ。
その女性......名を、シメガマモというが。
シメガマモは、その戦士然としたいで立ちからは想像のつかぬ程柔らかな笑みを浮かべながら、カラマーリュに声をかけた。
「義弟殿、少し話をしよう」
と。
対するカラマーリュは、忌々しそうにシメガマモを睨みつけながら。
「話すことなど、ない!去れ、蛮族!」
と、言い放った。




