481 【神々のお話20】いぬ
オマケその1です。
二色の、世界である。
一色は、黄色。
それは沈みゆく太陽が放つ、強烈な光の色だ。
空も、山も、街も。
全てがその色に、塗りつぶされている。
もう一色は、黒色。
それは夕日の光の当たらぬ所に生まれる、深い影の色だ。
どういうわけか、全く人の気配のないアーケード街の一角にある、鈴堂精肉店。
その横から伸びる、路地裏。
そこは、まさしく、影の世界だ。
何者も見通せぬ、どす黒い闇が広がっているのだ。
その、闇の中から。
「バ......バフウ、バウ、バ、バウ......」
“下手くそに”鳴きながら、一匹の犬がぬらりと、現れた。
瘦せこけた犬である。
闇のように、どす黒い色をした。
しかしながら、もしその犬を目にした人間がいたならば。
『そんな見た目のことなど、どうでもよろしい』
そう、断ずるだろう。
何故ならその犬は、見た目のことなど気にならない程、異様だったからだ。
その全身から尋常ならざる気配を発し、妙な動きをしているのだ。
妙な動きとはつまり、せわしなく首をぐるぐると、おおよそ犬であれば不可能であると思われる方向にまで回転させ、周囲を眺めながら。
滅茶苦茶に四つ足を動かして、ふらつきながら前進しているのだ。
「バフ、バフ......バアア......」
その内この犬は、“下手くそ”な散歩をやめて、その場にうずくまった。
すると、その数秒後。
少し震えた犬の横腹から、二つの頭が生えてきたではないか!
右の腹に一つ、左の腹に一つだ!
すると犬は、頭をぐるぐると回転させることをやめた。
頭が増えて、視界が広くなったからだ。
「バアア、バアア......」
続いて犬は、足の数を二対から六対にへと増やした。
そして腹ばいのような姿勢をとり、そのまま、ワラジムシのように六対十二本の足を動かしつつ、前へと進み始めた!
「バフアッ!」
そして犬は、目の前に転がっていた空のペットボトルをくわえたかと思うと、それを丸のみにした。
「バフアッ!」
続いて、たばこの吸い殻、小石、道路の縁に生える苔など......目につくものならば、何でもその腹に収めていく。
そして。
「バフアッ!」
犬は、顔をあげた。
さらなる獲物の気配を感じとったからだ。
犬の視線の先。
アーケード街の、小洒落たレンガが敷き詰められた、道の上。
そこには、ヒトが立っていた。
黒いリクルートスーツを着た、二十歳前後の女性である。
「バアアアアアッ!」
犬は嬉しそうに尻尾を......振ろうとしたが、どうすれば良いのかわからず、とりあえず尻を左右に揺らした。
そうしてから、六対の足をワシャワシャと動かし、その女性に突進を始めた!
大きく口を開き、どす黒いよだれをまき散らしながら!
「............」
対する女性は、無言。
得体の知れぬ怪異に怖気づき、声が出ない......わけではない。
慣れているのだ。
これら、怪異......“妖魔”を滅することこそが、彼女の使命であるが故に。
「ハッ!!」
女性は鋭く声を発すると、夕日に染まる白い髪をなびかせ、右手に構えていた刀を一閃した。
ただの、一振り。
それだけで。
犬は......いや、もはや犬と称して良いものかわからない存在に成り果てていた、その妖魔は。
「バフア......」
満足に断末魔の叫びもあげられぬまま、真っ二つに斬り裂かれ......どす黒い靄へと変じて、世界に溶け消えていった。
「討伐、終了っと」
白髪白目の女性......見習い女神のヒカリは、小さく息を吐いてからそうつぶやいて、刀を鞘におさめた。




