479 【神々のお話19】天空神ワトタカンビシ
どこまでも続く、雲の海。
そして見あげればそこには、澄みわたる青空。
時刻的には、昼間......ように見える明るさだが、不思議なことにその青空には、キラキラと星が瞬いている。
そんな空間にポツンと一本だけ。
分厚い雲を突き破って、太く黒い幹の枯れ木が伸びていた。
その枯れ木は先端近くで二股の枝に分かれており、その分岐点には小枝を集めて巨大な鳥の巣が作られている。
ここは天空神ワトタカンビシの神域であり......鳥の巣の上でじっとたたずむ、常に朝日を浴びているかのように黄金色に輝き続ける巨大な鷲こそが、この神域の主なのだ。
「ファーーーーーーッ......」
天空神ワトタカンビシはここで、伸びをするようにバサバサと翼をはためかせながら、あくびをした。
彼の目の前に浮いているのは、薄い板。
そこには、大空へと再び舞いあがったタカタカとエアの満面の笑顔を背景に、デカデカと『完』の一文字が浮かんでいる。
「作業完了......ファーーーーーーッ......」
そう......その薄い板は、動画編集用のディスプレイだ。
ワトタカンビシは今、ようやく【Small Mouse Flying In The Sky】最終回の編集を終えたところなのだ。
「ファーーーーーーッ......」
緊張の糸が切れ、自然と体が弛緩する。
急激に眠気が襲いかかってくる。
あくびが何度も出る。
そして......動画を完成させた達成感が湧きあがってくる。
本来ならこの時、同時に『この動画を配信すれば、一体どれくらいの評価がつくだろうか!?』というワクワク感も、付随するはずである。
そのワクワク感は、とても心地よいものだ。
その感情を、楽しみたい。
それがワトタカンビシが異世界転生配信をするうえでの、重大なモチベーションの一つに数えられるくらいには。
しかしながら、この時ワトタカンビシは、そのような感情をどうしても抱けなかった。
何故なら、彼は。
【Small Mouse Flying In The Sky】という作品の出来に。
......非常に強い、不満を抱いているからだ。
その原因は何か、と言えば。
言うまでもなく、物語のクライマックスに突然乱入し、お話の筋を滅茶苦茶にしてしまった、エミーである。
「ちっくしょーーー......あの、呪い子めーーー......」
エミーがやらかしたことは多々あるが、それらは大きく分けると三つに分類される。
まず第一に、ことごとく敵キャラをなぎ倒してしまった。
これによってタカタカの成長機会が奪われ、唐突に、そしてご都合主義的に神の力を分け与えることで、最終局面の事態を打開せざるを得なくなってしまった。
主人公の成長譚として見るならば、どうも首をひねってしまう展開になったのだ。
ワトタカンビシは割と几帳面な性格をしており、フラグ管理にも自信があった。
それなのに、エミーは彼の念入りに準備しておいたイベントの、ほぼ全てをぶち壊してくれたのだ。
外部からの余計な侵入者を拒みやすい、周囲から隔絶された環境下にある、空に浮かぶ天空王国が舞台であったにも関わらず、だ。
全く、頭を抱えるほかない。
そして第二に、チラチラと画面に映りこむことで、ワトタカンビシが動画を編集する際の手間を、絶大に増やした。
黒髪黒目の呪い子など、それまでのタカタカの物語には一切登場していない。
影も形もない。
そんな謎の少女は物語的には全くもって“異物”であったと言うほかなく、邪魔なことこの上ない存在だった。
天空王国が墜落したあの日、数多くの人物がエミーに向かって『............誰?』とコメントしていたが、マジで誰なんだよこいつ。
そしてアーディストの動画配信ルール的に、“黒髪黒目の人間が画面に映ることは許されない”。
アホなルールだと、ワトタカンビシも思っているが......かと言ってこのルールを守らなければ、その作品は検閲対象だ。
すぐに検閲神によって、削除されてしまう。
だからエミーが映りこんだシーンに、これまでワトタカンビシは全てちょこちょこと手を加え続けてきた。
そもそもそのシーン事態をカットしたり、編集してエミーの姿を消し去ったり......。
本当に、地獄のような作業だった。
さらに第三に......。
ピイーーーッ、ピイーーーッ、ピイーーーッ!
と、ここで。
ワトタカンビシの眼前に浮かぶ薄いディスプレイから、ひな鳥が餌をねだるような甲高い音が鳴った。
メールが来たのだ。
「............」
ワトタカンビシは眉間に皺を寄せながらディスプレイをくちばしでつつき、メール確認画面を表示した。
すると、そこに表示されたのは、無題の新着メール。
送り主の名は......技術神。
「またか」
ワトタカンビシはうんざりしながら、そのメールを読みもしないで削除した。
どうせ、中身はこれまでのメールと同じだろう。
『どうして、ネバーフォールが墜落したのだ』とか、『責任はとれるのか』とか、そういう内容だ。
技術神は、魔導神や医療神、今は亡き機械神と並び、かつて超古代魔導文明時代の恩恵を受けて神格を高め......そして“滅びの日”以降は落ちぶれている、代表的な神の一柱だ。
最近ではこの神は、『アーディストへのステータス制及びスキル制導入運動』だの『世界ゲーム化運動』だの......別機軸での神威向上を図っているらしいが、それらの取り組みはどうもうまくいっていないらしい。
つまりは、従来からの力の源である、“凄まじい技術”......つまり超古代魔導文明の技術に対する人々の憧れやら信頼やら何やらは、技術神にとっては必ず守らなければならない利権であり......。
超古代魔導文明時代の遺物たるネバーフォールの墜落は、決して看過できない大問題であるというわけだ。
しかし、そんな苦情をワトタカンビシによこされても、困るのだ。
だって、彼はネバーフォールを舞台に配信を撮影していたが......彼のシナリオでは、ネバーフォールが墜落する予定など、なかったからだ。
全ては短慮を起こしてアトモ・スフィアを完膚なきまでに破壊した、あの呪い子が悪いのだ。
つまりは、“ネバーフォールを墜落させた”ことが、エミー第三のやらかしである。
「............」
なんだか色々と考えている内に眠気もどこかに吹き飛びイライラしてきたワトタカンビシは、おもむろにディスプレイをつつき、とあるサイトを開いた。
そこは、神々が様々なテーマのスレッドを立てて意見を交換しあう......いわゆる、掲示板サイトとか呼ばれるものだ。
今回、謎の呪い子によって、ワトタカンビシの配信の予定は滅茶苦茶にされてしまった。
もはや起きてしまったことは、仕方がない。
仕方がないんだけども。
............愚痴の一つくらい、言いたい......。
事前に告知しておいた動画の投稿時間は、まだ先だ。
だから、深く考えもせず、ワトタカンビシは一つのスレッドを立てた。
『謎の人間に、異世界転生配信ぶっ壊されたんですけど』
それが、そのスレッドのタイトルだった。
以上をもちまして、『オマケの転生者』第20章を終了いたします。
おつきあいいただきまして、ありがとうございました。
難しいことを考えず、思いついた内容をそのままつめこんだ結果出来あがった物語でした。
お楽しみいただけたら幸いです。
次章は4月下旬頃に投稿予定です。
これからもどうぞ、よろしくお願い申しあげます。




