478 【Small Mouse Flying In The Sky】それから
さて、その後のネバーフォールの話をしよう。
第一居住台地『ファーム・ワン』に不時着を果たした、天空王国ネバーフォール。
この空飛ぶ不思議な国が再び大空へと舞いあがる日は、二度と来なかった。
何故なら、アトモの暴走による自爆......そして不時着時の衝撃によって、空を飛ぶための魔導機構が復元不可能な程に壊れてしまったからだ。
現代に伝承されている飛空艇造船技術では、ネバーフォール程の大質量の物体を空に飛ばすことは、不可能だったのだ。
また、セキラン・ネバーフォールがそれを強く望まなかった、ということも理由にあげられる。
セキラン王はネバーフォールを空に浮かべることなどよりも、ネバーフォールの墜落によって混乱した民の生活を立て直すことにこそ尽力した。
墜落以前とは打って変わって精力的に執務に取り組む王の姿勢は民からも好意的に受け止められており......王が主導する政治改革は順調に進んでいる。
選民思想と地上蔑視の傾向が強くさらには腐敗の温床となっていた“旧宰相派”の中枢が、墜落のごたごたで軒並み排除されたことも、その一因だ。
しかしながらセキラン王は、民からの支持が篤い現状にあぐらをかくことをせず、実は王政を廃し共和制への移行を目論んでいる、とも噂されている。
この王の挑戦がどのような結末を迎えるのか......それはまだ、誰にもわからない。
そして、タカタカに関わった人々がどうなったのかと言えば。
まず、ユーヒは“指導顧問”という肩書を無理やり押しつけられ、王国軍に復帰した。
元はと言えばナボコリスの謀略により軍を退いていた彼だが......用心棒で日銭を稼ぎ、ダラダラと酒を飲む自堕落な毎日を割と気に入っており、復帰に際してはかなり抵抗した。
しかし結局のところ、隙をついて襲いかかったイジョーキスによってワンパンで沈められ、無理やり王国軍へと拉致されていった。
そして、働き始めるとそれはそれで楽しかったので、今では王国軍の兵士や騎士(近衛三騎士を含む)を毎日追いかけまわしてボコボコにして、楽しく彼らを鍛えあげている。
イジョーキスは、王宮へと戻り、ただの侍女として仕事を行っている。
......表向きには、これ以外に言うべきことはない。
ただ一言付け加えるとすれば、王国墜落という大きな変革に直面し、人手が足りないのは表も裏も変わらない。
彼女は今日も人知れず、王国のために働いている。
ヌーイ、ルサ、リットは、いつも通りだ。
なんか三人で、楽しそうにやってるよ。
そして。
タカタカと、エアは。
◇ ◇ ◇
「ふうーーーっ!積みこみ、完了!」
子鼠号の貨物室にメケナーベーコン入りの木箱を詰めこみ、タカタカは晴れやかな笑顔を浮かべながら額の汗をぬぐった。
「さて、早速出発、出発......っと」
そうしてから彼は貨物室の扉を閉めて、半身になって箱の隙間を通りつつ、操舵室へと移動する。
そして慣れた手つきで子鼠号の魔導エンジンを始動。
パチ、パチ、パチンと、軽快な音を立てながら、制御装置のボタンを押していく。
パララ、パララ、パララ......。
プロペラが回り始め、『ファーム・ワン』の貨物船発着場に軽快な音を鳴らし始める。
生贄の姫を救出するため迷宮を突破して、最後にはネバーフォールの不時着までの操縦を成功させる。
そんな大冒険から見事生還したタカタカは、元の小型貨物輸送船のパイロットに戻り、野菜や肉などを各居住台地へと空輸する仕事を行っていた。
......もちろん、あの大事件の後は、セキラン王が全国に向けた配信でタカタカのことを持ちあげたこともあり、結構大変だったのだ。
パレードなんかにも引っ張り出されたし、王宮に出仕しないかとしつこく何度も勧誘はくるし。
おかげ様で、今やタカタカ少年は、すっかり小さな英雄だ。
彼のことをチビだの子鼠だのと嘲る声は、全く聞こえなくなった。
もしタカタカの精神性がエアと出会う前のままであれば、彼はすっかり増長して『狼』を気取り、空軍で戦闘機のパイロットにでも転向していたことだろう。
しかし、彼は、そうはしなかった。
様々な経験を通して......彼は何と言うか、己の精神の“庶民性”を、再確認したのだ。
そして人々の生活を陰から支える輸送業の尊さや偉大さを、しっかりと理解もできた。
事実、大霧海に阻まれ行き来を制限されている居住台地での生活は、タカタカのような輸送業者がいなければ成立しないのだ。
決して軽んじて良い仕事ではなく、誰かがやらねばならない大切な仕事なのだ。
タカタカはそれを心底理解して、真に自分がその仕事を通して、社会に貢献したいと願った。
だから彼は、英雄になることを拒み、今でも小型貨物輸送船のパイロットをしている。
ちなみに、そんなタカタカの成長を感じ取り、ギシ老人は船長を引退して船を降りた。
今では悠々自適、晴耕雨読の毎日を過ごしている。
「エラーなし、魔力満タン、準備完了!あはは、元気いっぱいだ!早く飛びたいのかな?っと......」
さて、タカタカは計器類を指さし確認して、すっかり子鼠号の出発準備が整っていることを確認した。
「それじゃ、まずは『ファーム・ツー』に向けて!出発進行ーーー!」
そして操縦桿を握り、大空に向けて飛び立とうとした!
しかし......その時だった!
ゴンゴンゴンッ!
離陸直前というこの非常識なタイミングで、外から操舵室の鉄扉をノックする音が、聞こえてきたのだ!
「ひぇッ!?何、何ッ!?」
タカタカはすぐに離陸を取りやめ、慌てて扉を開いた。
すると!
ガチャリと開いたその扉の先から船内に飛びこみ、タカタカに抱きついてきたのは......。
「タカタカーーーッ!久しぶりーーーッ!」
「わぷッ!?」
......王宮で忙しく王女教育に励んでいるはずの少女......エア・ネバーフォールだった!
「エ、エア!?ちょっと、なんでこんなところに!?お勉強は!?」
「逃げて来たわ!」
「はッ!?」
抱きつかれた勢いで操舵室の床に仰向けに転がったタカタカは、わけがわからず目をパチクリとさせた。
エアはそんなタカタカにまたがりながら、勝気な笑顔を浮かべて、とんでもないことを言い始めた!
「毎日毎日勉強勉強姫様姫様......もうね、堅苦しくって、嫌になっちゃったの!お父様もずーーーっと私のこと無視していたくせに、今度は過保護が過ぎるわ!両極端なのよね、あの人!もうお姫様なんて、まっぴらだわ!」
「いや、あのね、エア......フラストレーションがたまっているってことは、理解したけどさ......だからって、前みたいに逃げ出して来るなんて......」
ドキドキしてしどろもどろになりながらも、タカタカはこの元気いっぱいなお姫様に、至極常識的な諫言を行った。
しかしエアは、聞く耳なしだ!
ぴょんと跳ねあがりタカタカの上から降りると、彼女は我が物顔で操縦席に座り、そして......。
「さあ、出発よーーーッ!!」
勝手に子鼠号を、離陸させた!
「あーーーわわッ!?ちょ、ちょっとーーーッ!?」
タカタカは大慌てで操舵室の扉を閉めてから舵輪を握りしめ、ふらつく機体の制御を開始する!
「さあ、タカタカ!これから私を、エセレム大霧海の外に連れていきなさい!大冒険の、始まりよ!」
「えええーーーーーーッ!?」
......かくして子鼠は、再び舞いあがった。
その先にはどこまでも、晴れわたる青空が広がっていた。
【Small Mouse Flying In The Sky】、完結!
ここまでおつきあいいただき、ありがとうございました!
......引き続き、『オマケの転生者』をお楽しみください。
次回、第20章の最終話です。




