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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
20 天空王国の落日!お邪魔します最終決戦編!
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477 踏ん張れエミー!止めろ落ちたる天空王国!

「ムヘェッ、ムヘェッ、ムヘェッ!!」

「ムヘェッ、ムヘェッ、ムヘェッ!!」


「おーう、おうおう、どうしたどうした?」


 その日その時、『ファーム・ワン』にて代々メケナー牧場を営む畜産農家の男性ハルイッチは、牧舎内を清掃しながら首を傾げた。

 彼が育てるメケナーたちは、長いこと人に飼いならされているためか警戒心というものが薄く鈍感で、滅多に怯える姿というものを見せないのだ。


 それなのに。


 突然メケナーたちが牧舎の隅に集まって震えながら、何やら大げさに騒ぎ始めたのだ。

 退化しお飾りと化した、背中から伸びる二対の翼を、バサバサとはためかせながら。


「なーんか、おっかしいな......?」


 訳が、分からない。

 だけど、なんとなく、不安だ。


 ハルイッチは汗で蒸れて不快になった紺色の作業着を掴んでパタパタやりながら、何の気なしにちらりと、格子のはめられた窓の外を眺めた。


「ん?」


 すると。

 その視界に映ったのは、メケナーを放牧するための、広大な牧草地。

 そして。

 その上空を浮遊する。

 本来その場所に、あるはずのない物。


 即ち。




 ......天空王国ネバーフォールの姿だった!




 しかもそのネバーフォール、時折あちこちで爆発を起こし、煙を噴きあげながら......まっすぐハルイッチのいる牧舎の方へと、迫ってくるようではないか!




「ひえええええーーーーーーッ!?」




 その様を見たハルイッチは。


 家族を逃がしに走る......ではなく。

 家畜を逃がしに走る......でもなく。

 かと言って自分だけ逃げるために走る......ですらなく。


 恐怖のあまり......その場で泡を吹いて卒倒した。


 彼はとびきり、臆病な質なのだ。




◇ ◇ ◇




<逃げちゃった方が、良いと思うんですけど>


 ズガガッ!!

 ガガガガガガガガガガガガッ!!


 真っ青な青空の下、こちらに向かって轟音響かせ砂煙をまき散らしながら滑って来る、天空王国ネバーフォール。

 徐々に大きくなるその巨大な姿を眺める私に対して、頭の中のオマケ様は、不満げにそうつぶやいた。


 オマケ様は、あの空飛ぶ国に住む人間たちが大霧海に落ちて皆死のうが、特に気にならないお方。

 私が危険を冒してまであの国を止めようとしたら、そりゃあ不満にも思うでしょう。


<............危ないですよ>


 そんな、どっちかと言えば人でなしなスタンスととられ兼ねないオマケ様の態度だけど、どうしてそんな姿勢なのかと言えば、それはオマケ様が私の身を案じているからだ。

 言葉の端々に、私のことを心配する色が滲んでいる。


 はは!


 ありがとう、オマケ様。


<もうっ!笑い事じゃ、ありません!>


 プリプリと怒るオマケ様の声を聞き流しながら、私は【黒翼】を消去して【黒腕】を展開する。

 どす黒い靄となり風に飛ばされていく翼の残骸を突き破り、勢いよく巨大な腕が肩から伸びる。


<............やるんですね?>


 両足で膝まで青々と草が伸びる牧草地の地面を踏みしめ、やる気たぎらせどす黒い靄を噴出し始めた私に、オマケ様はため息をつきながら、そう問いかけた。


 やるよ。


<どうしても、逃げないんですね?>


 逃げないよ。


 多分、この事態の責任の一端は、私にもあると思うし。


<............はああーーー......>


 それにね、これは保身の一環でもあるんだよ、オマケ様。

 あの部屋の中にいた、鼠耳の少年。

 あれさ、どう見ても主人公、だったよね?


 もしこの不時着が失敗して、天空王国の人たちが皆死んじゃったとしてもさ。

 多分......あの彼と、ヒロインっぽい女の子は、生き残ると思うんだ。

 神が、死なせないでしょ。


 そうなったらさ、生き残ったあの二人が目の敵にするのってさ。

 ......私じゃないかな?

 さっきはわちゃわちゃしてたから、あんまり注目されていなかったけどさ。

 だから......。


<あああーーーっ、もう良いですよ!長い付きあいです、あなたが言い出したら引かない性格だってのは、私も良ーーーく、わかっています!もう、やるんですよね!?>


 やるよ。


<エミー......あなたなら、きっと大丈夫!だから......頑張ってください!>


 ......ありがとう、オマケ様。




 ガガガガガガガガガガガガッ!!




 二人で話しこんでいる内に、滑走ネバーフォールはもう、目と鼻の先だ。

 さっきまでは小さく見えていたその姿は、もう視界いっぱいに広がっている。


「ムヘェッ、ムヘェッ、ムヘェッ!!」

「ムヘェッ、ムヘェッ、ムヘェッ!!」


 遠くから微かに聞こえていた、そんなメケナーたちの警戒音も、もはや地響きに塗りつぶされて聞こえない。




「......ふーーーーーーッ......」


 私は一時瞳を閉じて、長く息吐き精神集中。

 周囲の雑音がシャットアウトされ、主観的な時間が引き延ばされていく。

 そんな中、私は闘志の高ぶりに応じて己の身の内を暴れまわる、爆発寸前の魔力の流れに意識を向ける。

 それらを効率よく体の隅々まで行きわたらせて、準備は万端だ。


 良し。


 ......いくぞ。




「............止めるッ!!!」




 私はかっと瞳を開き、もはや動く壁としか認識できない程眼前に迫った天空王国ネバーフォールに向かって......思いきり、【黒腕】の両手を叩きつけた!


 ドオンッ!!


 ガガガガガガガガガガガガッ!!


 当然のことながら、圧倒的な質量を誇るネバーフォールが、その一押しで止まるはずもない。

 私は【黒腕】の両手を外壁を押すような形で固定して、自分は大地を踏みしめながら、ネバーフォールの滑走を止めるため全力で踏ん張り始めた!


 ズリズリズリズリッ!!


 巨大なネバーフォールに押され、私の体も凄まじい勢いで後方へと滑り始める!


「らあああああーーーッ!!」


 そこで私は、【黒腕】に追加して、肩から数本の【黒触手】を展開!

 それを自分の後方にアンカーのように突き刺した!


 ズザン、ズザン、ズザンッ!


 ガガガガガガガガガガガガッ!!


 やはりそれだけではまだまだネバーフォールの勢いを止めることはできないが、間違いなく抵抗力は増している。

 大地を踏みしめる、足が増えたのと同じだ!


「ああああああーーーッ!!」


 次いで私は、この身にまとう【黒鎧】の、両足部分の形状を変化させた。

 イメージは、大地を鷲掴みにする、巨大な鉤爪だ!


 ガガガガガガ、ガガガガガガッ!!


 またしても、抵抗力が増加する!


「がああ......らあああああーーーッ!!」


 そして次だ!

 私は獣のように四つん這いになり、今度は両手にも巨大な鉤爪を作り出して、更なる抵抗を試みる!


 もう......ないか!?

 他に、できることは、ないか!?




 ガガガ、ガガガ、ガガガ、ガガガッ!!




 そうこうしている間にも、私の体は押され続ける。

 ネバーフォールも地上との摩擦の力によりその速度を若干落とし始めてはいるが、今もなお十分な勢いを保ち、まっすぐ滑り続けている。


 バキャンッ!!


 ドガンッ!!


 きっと......放牧されているメケナーの移動を制限するためのものだろう。

 木の柵や石垣が私の体にぶつかり、破壊されて吹き飛ぶ。

 ちらりと横に目をやると、木立やサイロのような建物なんかが、次々とネバーフォールの巨体によってひき潰され、その外壁と大地の隙間に飲みこまれていった。

 なんだか......人工物が増えてきたな。

 一瞬振り返ると、私の後方......遠くの方にちらほらと、石造りの建物が並んでいるのが見えた。


<まずいですよ!外周街が、見え始めました!>


 オマケ様が、悲鳴をあげる。

 つまりは、タイムリミットが近い!


 ガガ、ガガ、ガガ、ガガッ!!


 ネバーフォールの速度は、かなり低下している。

 でも、このままじゃだめだ。

 このままだと間違いなく、ネバーフォールは外周街をひき潰して破壊し、そのまま大霧海に落下するだろう。

 あと、一押し。


 一押し!


 一押しッ!!




「らあああああああああああーーーーーーッ!!!」




 こうなれば、最後の足掻きだ!

 私は背中部分の【黒鎧】にノズルを作り出し、それを使って魔力のジェット噴射を開始した!


「ああああああああああああッ!!!」


 バシュウウウウウウウウウウッ!!


 私の絶叫と共に、凄まじい勢いで、私の背中からどす黒い魔力の靄が噴出されていく!

 ああ、もう!

 これ、凄まじく、お腹すくんだよなああッ!!


 みるみる内に減っていく残存魔力!


 でも!


 でもッ!!




 ガガ、ガガ、ガッ......!!




 徐々に、徐々に!

 ネバーフォールの滑走速度が目に見えて落ち始めた!

 そして!




 ガガ、ガ......ギギギ、ギイ......!




 そんな、軋むような音を立ててから。


 外周街まで、残り後わずか。


 そんな、ギリギリの距離で。


 ついに、ネバーフォールは......その滑走を、止めた。




「あ......が......はッ!はぁッ、はぁッ、はぁッ......!!」


 それを確認した私は、四つん這いの姿勢からうつぶせに倒れこみ、噴き出す汗もそのままに、荒い息を吐いた。


 ああ、もう、だめ。

 苦しい。


 久しぶりに......疲れた。


<良く......良く、頑張りましたね、エミー......!>


 そんな私を、オマケ様がほめてくれた。


 あ、あはは......。

 私、頑張った。


 まあ、大地との摩擦によって自然に、速度は減衰していた。

 それは、あったと思うんだけど。


<しかし、それでもこの地点でネバーフォールの滑走を止めることができたのは、間違いなくあなたの功績ですよ、エミー!お疲れ様でした......!>


 ありがとう......。


 ありがとう、オマケ様!




「......ふーーーーーー............」


 しばらくうつぶせのまま身動きをとれなかった私だけど、いつまでもこうして寝ているわけにはいかない。

 ふらつきながらも、なんとか。

 だるい体に鞭打って、なんとか立ちあがる。


「............」


 ああ、お腹が、空いた。

 ねえ、私、頑張ったんだからさ。

 放牧されているメケナー、少しくらい、齧っても良いかな?


<もちろんです!エミー、あなたは頑張ったんですから!文句を言う奴らは、皆殺しにしましょう!>


 あはは、そっか、皆殺しかぁ。

 殺しちゃえば、文句は言われないもんねぇ。




 ......ああ、だめだ。




 疲れすぎて、頭がろくに働かない。


 漏れ出る殺気を、抑えることもできない。




 とにかく、肉。


 肉だ。




 私はクンクンと周囲の臭いを探りながら、辺りをキョロキョロと見回した。


 すると、その時だった。




「ひいッ!?......ひいいッ!?」


 そんな......なんとも情けない男性の悲鳴が、後ろの方から聞こえてきたんだ。


 思わず振り返ると、そこには紺色の作業着を着たおっさんが、尻もちをついて座りこんでいた。

 どうやらこのおっさんは、近くの牧舎から出てすぐに、私と鉢合わせしたらしい。


 おっさんは、青い顔で震えながら私を指さし。




「バッ......バケモノーーーッ!?」




 と、叫んだ。




◇ ◇ ◇




「はッ!?」


 ハルイッチが目を覚ますと、そこは牧舎の中だった。

 武骨な梁に取りつけられた魔導換気扇のプロペラが、グルグルと回っている。

 そしてその視界の端には、心配そうに己の顔を覗きこむ、メケナー。


「ムヘェ......」


「ぶふッ......起きるから、やめろ、やめろお......」


 そのメケナーのざらつく舌で顔面をなめられて、ハルイッチは慌てて上体を起こした。

 そしてぼんやりする頭で考える。


 自分はどうして、牧舎で倒れていたんだっけ......?

 確か......ネバーフォールが......。




「!!」


 ハルイッチはそこまで考えて、思い出した!


(そうだ、ネバーフォールだ!ネバーフォールがこちらに向かって、堕ちて来たんだ!そして、そして......そしてどうなった!?)


「!?」


 そして現在の牧舎の状況の、違和感に気づいた!


(待てよ、暗いぞ!?どうして、こんなにも暗い!?まるで、何か巨大な物の、影に隠れてしまったようだ......まさかッ!?)


 一つの可能性に思い当たったハルイッチは、慌てて跳び起きて牧舎の外へと転がり出た!


「ひいッ!?」


 そして、すぐさま尻もちをつく程驚き、悲鳴をあげた!

 何故なら、そこには!

 豊かな草原......牧草地が広がっていたはずの、その場所には!

 ハルイッチの、想像した通りに!

 巨大な......あまりにも巨大な、ネバーフォールの外壁が、そびえたっていたからだ!


 そして!




「......ひいいッ!?」


 さらにもう一つ、彼は悲鳴をあげた。

 何故なら、ハルイッチを心底驚嘆、そして恐怖させる存在が。

 ネバーフォール外壁のすぐ近くに、立っていたからだ。




 それは、本体の体長は子ども程の、小さな人型の“何か”であった。


 全体的にどす黒く、不吉な色合いをしたそれの両手両足からは、鋭く巨大な鉤爪が伸びており。

 さらにその肩からは、威圧的な形状をした巨大な第三、第四の腕が飛び出している。

 そして何より悍ましいことに、それからは数本の触手が生えており、それが時折ビチンビチンとのたうつのだ!


 このような異形の存在を形容する言葉を、ハルイッチは一つしか知らなかった!




「バッ......バケモノーーーッ!?」




 故に思わずハルイッチは、その異形を指さしながら、そう絶叫した!

 そんなハルイッチのことを、異形は恐ろし気な気配を発し続けながら、じっと見つめた。




 ぐううううう......。




 そして......腹を鳴らした!




「ひやあッ!?ひやああああーーーッ!?」


 ハルイッチは恐ろしさのあまり泣き叫びながら、わたわたと立ちあがり、その場から逃げ出そうとした!

 しかし、立てない!

 恐怖のあまりに腰が抜けて、立ちあがることができないのだ!




「............」


 しかしながら、その異形は。

 隙だらけの、狩りやすい獲物であるはずのハルイッチを害するための行動を。

 何一つとして、とらなかった。


「............ふううーーーーーー......」


 異形は一つ、ため息のような音を発してから。

 ぴょんと一跳び、飛び跳ねた。


「!?」


 そして、その素早い動きに驚くハルイッチのことなど、目にも留めず。

 牧舎の屋根に跳び乗った後、それは。


 ぴょんぴょんと、屋根から屋根へと飛び跳ねながら、外周街の方に向かって行き。

 その後二度と、ハルイッチの前に姿を現すことは、なかったのだ。




◇ ◇ ◇




 その後、ハルイッチが聞いた噂によると。

 あの日、あの異形のことを目撃した人物は、外周街に何人もいたらしい。

 異形はハルイッチが見た時と同じように、屋根から屋根へと飛び跳ねながら移動を続け。

 最終的には......エセレム大霧海に向かって飛びこみ、その姿を消したのだと言う。


『もしかしたらあのバケモノは、天空王国の墜落と、何か関係があるのではないか?』


 出現のタイミングもあり、そんな憶測が語られることもあったが。


 ......その真相は、不明である。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  頑張ったエミーさん、誰にも感謝されなくても読者は見てるよ(´ω`)おつかれさま♪ [気になる点]  あんだけ頑張ったのに「バケモノーーーッ!?」(´Д` )腹減り腹立ちまぎれにモグる事な…
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