475 近衛三騎士と赤肌の男
かくして地上へと飛び出し、暴徒鎮圧用ネバッフォくんの群れと出くわした近衛三騎士たち。
陽剣のニッコールが所持する魔剣『ブライト』による一撃を加えた後、次に動き出したのは風弓のビューンだ!
ビューンはネバッフォくんたちが群れる円形の王宮前噴水広場の外周をなぞるように、まるで風の如きスピードで駆け回りながら、大弓を構えた。
その大弓こそが、彼が近衛三騎士に任じられるにあたり、王より賜った王家秘蔵の魔武器である!
「魔弓『インフィニット』、起動ッ!!」
ビューンがその名を叫ぶと、流麗な装飾の施された弓幹から緑色の光が放たれた!
その光は数瞬後、弓幹の両先端に集まり......魔力によって形成された、幻想的な光の弦を作り出す!
「はあああああッ!!」
ビューンはその光の弦を、矢もつがえずに思いきり引いて......ビンッと離した。
すると、どうしたことか!
ビュウウウーーーンッ!!
その動作を引き金として薄緑色に色づいた魔法の風で形作られた矢が生み出されたのだ!
そしてその矢は空気を切り裂きながらまっすぐに暴徒鎮圧用ネバッフォくんの群れ飛んでいき......その内三体を、まとめて貫いたではないか!
魔鉱で頑丈にその体を作られている暴徒鎮圧用ネバッフォくんを複数体貫くのだから、凄まじい威力である!
「はッ!はッ!はッ!」
そんな強力な魔法の矢を、ビューンは次々に放ち続ける。
四方八方より飛び来るその攻撃に、暴徒鎮圧用ネバッフォくんたちは対応しきれず、右往左往するばかり。
使用者の魔力の尽きぬ限り、強力な魔法の矢を放ち続けることができる......それこそが、魔弓『インフィニット』の力なのだ!
「ふふっ......ビューンくん、張りきっているわ、ね」
そんなビューンの奮闘を眺めながら、雨杖のシトシトリンは微笑みを浮かべ......。
「ここは私も先輩として、良い恰好を見せなきゃ、ね......魔杖『デスレイン』......起動!」
己の背丈よりも大きな、渦巻く雲を模した巨大な杖......魔杖『デスレイン』を、ブンブンと振り回した!
すると杖の先端に開いた穴からもくもくと白い煙があふれ出し......それが暴徒鎮圧用ネバッフォくんたちの頭上に、何やら雲を形成し始めた。
『『『鎮圧するよ!鎮圧するよ!鎮圧するよ!』』』
もちろんその間、ただシトシトリンのことを眺めているだけの暴徒鎮圧用ネバッフォくんたちではない。
彼らは杖を振り続けるシトシトリンに向かって、次々に飛びかかっていくが......。
「やッ......はぁッ!!」
くるくると、まるで踊るように振り回される巨大な杖に阻まれて、近づくことができない!
この魔杖『デスレイン』......非常に重くて、硬いのだ。
ゴギインッ!!
ガゴゴッ!!
不用意にシトシトリンの間合いに踏みこんだ暴徒鎮圧用ネバッフォくんが、魔杖『デスレイン』によってその横腹を殴り抜かれ、横にいた数体を巻きこんで吹き飛んでいく!
「さて......そろそろかしら」
そうこうしている間にも『デスレイン』からは延々と煙が吐き出され続け、気づけば暴徒鎮圧用ネバッフォくんたちの一角の頭上に、大きな雨雲が形成されていた。
シトシトリンはその雨雲を一瞥すると、その手に持った『デスレイン』を縦に大きく振りかぶり......石畳に向かって思いきり、叩きつけ......叫んだ!
「【アシッドレイン】!!」
ザアアアアアアッ!
すると途端に、暴徒鎮圧用ネバッフォくんたちの頭上にできあがった雨雲からスコールのような土砂降りの雨が降り注ぎ始める!
しかも、ただの雨ではない......それは強烈な腐食作用を持った、毒の雨なのだ!
『『『鎮圧するよ!鎮、圧、す、すすす......鎮、ちちちちちち......』』』
毒の雨を浴びた暴徒鎮圧用ネバッフォくんたちは、その体表をぐずぐずと溶かしながら、次々と機能を停止していく......!
そんな部下二人の活躍を横目に眺めながら、陽剣のニッコールはその右手に持った魔剣『ブライト』を天に向けて掲げながら、左手に持った一般騎士用に支給される剣を的確に振るい、一体、また一体と暴徒鎮圧用ネバッフォくんを斬り捨て続けていた。
ピカッ!
ピカ、ピカーーーッ!
すると突然、ニッコールが掲げていた『ブライト』が、激しく光を放ち始める!
この魔剣『ブライト』、一定量の光を浴びることで、強烈な一撃を放つことができる魔武器なのだ!
激しい発光を合図として、ニッコールは『ブライト』を横薙ぎに一振りする!
「【光飛斬】ッ!!」
すると目にも止まらぬ速さで光の斬撃が放たれた!
まっすぐ横薙ぎに放たれた光の斬撃は広範囲に広がって、またしても数十体の暴徒鎮圧用ネバッフォくんたちをまとめて真っ二つにして破壊!
魔剣『ブライト』は魔杖『デスレイン』以上にチャージ時間が必要であるというデメリットもあるが、その分威力は折り紙付きなのだ!
かくして暴徒鎮圧用ネバッフォくんたちは、近衛三騎士の活躍により、次々にその数を減らしていった。
(いける......このまま、押しきるッ!)
ビューンは相変わらず周囲を駆け回り暴徒鎮圧用ネバッフォくんたちを攪乱し続けながらそう確信し、ニヤリと口角をあげた。
だが......しかし。
そう考え油断するのは......まだ、早かった!
次の瞬間だ!
『皆ーーー!集まれーーー!』
暴徒鎮圧用ネバッフォくんの群れの中心にたたずんでいた暴徒鎮圧用ネバッフォくんのリーダー的機体である暴徒鎮圧用ネバッフォくんが、ドシンドシンと飛び跳ねながら、そう号令をかけたではないか!
『『『『『わかったーーー!!』』』』』
すると暴徒鎮圧用ネバッフォくんは一斉に近衛三騎士との戦闘を中断して集合を始め、積み重なって巨大な暴徒鎮圧用ネバッフォくん団子を形作っていく......!
「な、なんだ!?」
ビューンたちが突然のことに驚き足を止めたわずかな時間......その間に!
団子状にまとまっていた暴徒鎮圧用ネバッフォくんの球体から、ネバッフォくんの体を寄せ集めて形成された両腕が生え、両足が生え、頭部が生え!
『完成ーーー!!合体ネバッフォくん、暴徒殲滅モードーーー!!』
超巨大な......合体ネバッフォくんへと、変身したではないか!
「はッ......的が大きくなって......ありがたいなッ!」
ビューンは冷や汗を流しつつも強がりを言いながら、すぐさま、『インフィニット』の連射を再開する。
しかし合体ネバッフォくんの装甲は......分厚い!
射っても射っても、風の矢は合体ネバッフォくんの表面に穴を開けるものの、その機能を停止させることはできない!
「うわああああーーーッ!!」
『............』
半ば恐慌に陥り、足を止め必死の形相で『インフィニット』を連射し続けるビューンのことを、合体ネバッフォくんはまるで、鬱陶しい小虫か何かのように見くだし......そして。
『暴徒とダフ屋は、殲滅!』
その巨大な拳をまっすぐに......ビューンに向かって、振り抜いた!
「あ、あ......あ......!」
その速度は、凄まじい。
ビューンは突然ゆっくりと流れ始めた主観的時間に包まれながら。
逃げ出すために、足を動かすこともできず。
己に迫る巨大な拳を......ただただ、眺めていることしかできない......!
(これで、終わりか......?これで、終わりなのか......!?)
ビューンは迫りくる拳に己の死を予感し。
畏れ慄いて目を見開き。
悔しさのあまり、歯噛みした。
しかし......その時だった!
「赤鬼伝承、第一奥義......」
突然、ビューンの視界が、筋骨隆々の赤肌をした背中に、遮られた。
何者かが、ビューンの眼前に、割りこんで来たのだ!
「えッ!?」
その何者かは、驚くビューンには目もくれず、その筋肉を隆起させて半身の構えをとり。
そして。
「【赤鬼穿拳】ッ!!」
その拳を......迫りくる合体ネバッフォくんの巨大な拳に向けて......振り抜いた!
すると、驚くべきことに!
ドッゴオオオオオンッ!!
拳と拳を打ちつけあった、その結果!
その威力に耐えきれず、粉々になって吹き飛んだのは......なんと、圧倒的に巨大で質量もあるはずの......合体ネバッフォくんの、拳であった!
「ガッハハハハハッ!軽い、軽いなあ!」
合体ネバッフォくんの拳を吹き飛ばした赤肌の男は、豪快に笑いながらその腕をぐるぐるとまわした。
「え、え、は?」
腰が抜けて尻もちをついていたビューンは、突然のことに訳も分からず、口をパクパクとさせた。
そんなビューンに代わり。
この乱入者に声をかけたのは......天空王国近衛騎士団団長、陽剣のニッコールである。
ニッコールは呆然とした様子で、この赤肌の男に対し。
「団長......!」
そう、声をかけた。
「バーーーッカ、今はテメエが団長だろ、ニッコール」
声をかけられた赤肌の男......ユーヒは、優し気に目を細めつつ、横に立つニッコールのことを流し見ながら。
「手伝うぜえ、団長様よお。ちょっとお前ら、たるんでるからなあッ!!」
そう言って再び拳を構え、体勢を立て直しつつある合体ネバッフォくんと対峙した!
「......面目ないッ!!」
陽剣のニッコールも、その両手に二本の剣を構え、合体ネバッフォくんと向かい合う。
「ほーれ、そこの姉ちゃんと......後ろで転がってる、坊主。呆けてんじゃねえ。ん?もうビビっちまって、動けねえのかあ?」
そしてユーヒの安い挑発にむっとした表情を見せながら、シトシトリンも無言で杖を構え。
「そんなわけ、ありませんッ!」
ビューンも慌てて立ちあがり、この正体不明の男に警戒心を抱きつつも、弓を構えた。
「さて......オレ様も、思ってたようなケンカができず、イライラしていたところだ......存分に暴れさせてもらうぜえ!」
全員の準備が整ったのを視認してから、ユーヒは楽し気に笑って......こらえきれなくなり、合体ネバッフォくんに向かって、殴りかかった!
「我らも、いくぞッ!!」
「「おうッ!!」」
それに少し遅れ、近衛三騎士も再度、合体ネバッフォくんに襲いかかる!
天空王国ネバーフォール、その街中における最後の戦いが......こうして始まった!




